第1節 異世界説明と入学、体感
異世界とかバーチャルとかっていうものだから近未来的ななにかなのかと思ったが、なんとも元いた世界と酷似していた。 なんかちょっとガッカリ。
「貴方が来たこの世界の星 「盟星」はある日を境に電脳世界への発達が急速的に進みました。」
ヘッドホンから女神様の声が聞こえる。 電脳世界か、ならバーチャルと言われても納得できる。
「そして「盟星」の中でもこの国、「曜務」は電脳世界でのゲームの介入に世界で初めて成功した最先進国なのです。」
元の国で言うところの「地球」の「日本」みたいな感じなのか、校門の学校名を見た時にかなり崩れてはいたが、漢字のようになっていてなんとか読めたしな。
「しかし電脳バーチャルゲームを作り終えた後スグに製作者たちは、「近いうちに悪用されるのではないか」と思い、国家資格、そして学業として正しく知識を身につける意欲のある者のみを受け入れる学校を作りました。」
考えが早いと思ったが、戦争とかで使われたらたまったものではない。 先駆者の判断はとても正しかったのだ。
「そして今飛空さんが立っているこの学校こそ、体感バーチャルTPSの学業実績の1、2位を争う程のトップ校。 「曜務電脳統合高校」なのです!」
そんな女神の説明を受けながら高くそびえる校舎を見上げる。 どこに電脳世界への入り口があるか分かったものではないが、かなり大きいのは分かる。
「飛空さん 正門をくぐって行きましょう。 大丈夫です。神様たちの力で入学資格は通っていますので。」
それで通ってなかったらこの世界でボッチで生きて行かなきゃいけなくなってたって事か。恐ろしい事すんな。
正門をくぐり「新入生 経路」の順に進んでいくと、体育館のような場所に着いた。そこには全員新入生だろう、列を作っていた。 自分もそこにちゃんと並ぶ。
なんで並んでいたのか前に進んでいくうちに分かった。 新入生の確認を女性の先生が行っていたのだ。不正がないかの確認も兼ねてだろうな。 そうこうしていると自分の番になった。
「名前は?」
「つ、津雲 飛空です。」
名前を言うと俺と先生との間にパネルが現れた。 うぉ!いきなり現れたからビックリしたが、これは近未来ッぽい!
「認証出来たわ。 入学おめでとう。 これがあなたのクラスと出席番号の電子手帳よ。 入学式の時はこの番号に座ってね。 ああ、後これを。入学式が終わったら返してね。」
そういって渡されたのは電子生徒手帳とバイザーと何ならライブとかでよく見るサイリウムの様なものを渡された。 電子生徒手帳は分かるが後の二つは入学式に必要なものなのか?
体育館(外にそう書かれていた)に入ると他の新入生も同じようなものを全員持っていた。 何?元の世界で流行り始めてる「バーチャルライブ」みたいなのをやるつもりか? 入学式で?
そんな想いを勝手に持ちながら入学式での席についた。
10分もしないうちに入ってきたドアが閉まった。 どうやら全員入ったらしい。
そして壇上に1人の老人が立った。老人という感じの割には身体は元気そうだ。
「新入生の皆さん。我が「曜務電脳統合高校」への入学、おめでとう。校長の稲畑 竜です。 この高校は・・・・・などと長々と話をするつもりはない。 電脳世界というのは、口で説明するよりも直接味わってもらった方が身のためになると私は思っておる。 老人の戯言など聞きとうないじゃろ。 難しく考えんでも良い。 今日の入学式は新入生として入ってきた君達に敬意を評するという意味でこれから体感してもらおうと思う。 私からは以上じゃ。」
なんとまあ、こういう場合校長の話というのは長々と話すのが定番なのだろうが、そういう感じでは無いらしい。 それとも校長の方が面倒とか?
校長に代わり女の先生が壇上に上がった。 ていうかあれ? 受付してた先生じゃね?
「校長に代わり進行をしていく錦戸 冥花よ。 早速だけどあなた達に渡したバイザーを装着してくれるかしら。」
新入生全員にどよめきが走る。 まあいきなり渡されて、「さあ付けろ」と言われても乗り気にはなれない。
しかし付けないと先に進まなそうなので、みな渋々付ける。
「付けた人から席を立ってちょうだい。」
ますます訳が分からない。席から立ってしまっていいのだろうか? そういうのは国歌斉唱とかの時に・・・って俺国歌知らないわ。
「さぁこれからあっと驚くような事が起きるわよ。 はい。」
その掛け声とともに光が現れ、次の瞬間には高層ビルの摩天楼に立っていた。
は? え? どこここ!?!? 体育館にいたよね!? 俺達!?
一通り脳がパニックという処理が終わり冷静になると、
「そうか、ここが・・・・」
「電脳の世界 バーチャルワールドよ? 驚いたでしょ?」
生徒の前にプログラムの様に先程の先生が現れた。
ゲームプログラムってこうやって出来るんだなと改めて思った。
「この入学式は簡易的なものだけど、明日の始業式後の新入生レクリエーションでは本格的にバーチャルの世界に入ってもらうわ。言わば今日はチュートリアルみたいなものだと思って楽しんでちょうだい。」
明日が本番ってやつか。
「さてあなた達にはもう一つ、二つの異なる色のスティックを渡したと思うけど手に持ってるかしら?」
確かにずっと手に持って・・・・・・・ ん? あれ!? スティックじゃない!? なにこれ!? 銃みたいな形してるんだけど!?
「驚いてもらえて何よりだわ。今回渡したスティックなんだけど、実はあれはこのバーチャルの世界に対応した専用スティックなの。 入学式が終わって少しした後にクラス毎で「武装適性検査」をするからその後に貰うものは全てあなた達の物になるわ。」
なんという太っ腹っぷり。 普通なら絶対に出来ないぞ。
「せっかくバーチャルの世界に来ているから、10分程この摩天楼の中を自由に動いて構わないわ。 あの黄色い線は枠だからそれ以上は出られないけどね。 銃も打てるように的を用意しておくわ。 後はあなた達の感覚で慣れて貰うわよ。じゃあ動いてみて!」
その掛け声と共に俺はその場に飛んだ。
うわ! スゲェ! こんなに高く飛べるのか! 力を抜くと落ちていく。 身体が疼いてもう1回飛んでみる。今度は空中でだ。
すると先程の地点よりも高く飛べた。
おおおぉぉぉぉ!!! 空中ジャンプだ! スゲェェェェ!
そして的があったため自分の手にある銃を使って的に向かって打ってみた。
ガンッ という音と共に弾が放たれる。 反動が強いな・・・ 多分今のは当たってないだろ。 的の方を見ると、的の右上の部分に擦った跡が出来ていた。 まあ最初だしそんなもんだろう。
「みんな楽しんでもらえたかしら。」
先生の声と共に「FINISH」という文字が現れた。 うーんもっと楽しみたかった・・・
「これから嫌でもやることになるからガッカリしなさんな。 さて楽しんでもらった所でこのバーチャル世界にはもう一つお楽しみがあってね。 それはこの仮想通貨がバーチャル世界で使えるということ。」
そういうと先生はパネルにコインのようなマークを表示した。
仮想通貨まで用意してあるのか。
「これからの学園生活でこの電脳世界でしか使えない通貨だけれど、この電脳世界の中でしか使えないものもあるの。 例えばさっきの武器をカスタマイズしたり、」
先生がなにかパネル操作をして、先生の顔の部分以外が淡い光に包まれて、次には先生の格好が、きっちりしたスーツ姿から、チャイナ服と団子頭に早変わりしていた。
「こんな風に電脳世界での自分をカスタマイズ出来たりするの。」
先生がポーズを取ると、一部の男子から「おおおぉぉぉぉ」という声が上がった。あの先生意外にスレンダーボディだからなぁ。思春期の男子にとってはたまらんのだろう
「ああいうのなんかズルイと思うんです。 えぇズルイと思います。」
入学式だからということでずっと喋らなかった。女神様が急に喋ったと思ったらなにかいきなり拗ねていた。
「・・・・・俺は女神様の方がいいな。」
決してあの先生の格好に無関心ではないが、容姿的には女神様の方がバランスが取れてていいと感じるな。
「・・・なっ! なっ! 飛空さん! わ、私は攻略対象には入らないですよ!? わ、私はあくまでも付き添い人なので! そういうのは違うと思うんです!」
なんかヘッドホンがパニクってらっしゃる。 攻略対象ってなんだ。
「まあそんな感じで」
先生が元のスーツ姿に戻る。
「楽しみもあるけれど、このバーチャル世界でみんながやってもらうことは、「4対4のチーム戦」をやってもらうの。 それがこの学校、というよりも確学校が行っている最終目標、「来るべき電脳戦争」に備えるためなの。」
戦争という言葉に背筋が震えた。 楽しむためにバーチャルワールドでのゲームなんか学業として入れないからな。 なんとなく納得が出来た。
「電脳世界とは言え体には負担が来るわ。もちろん一定のダメージを食らったらやられちゃう。 でも、」
言葉を紡ごうとした錦戸先生が頭を打たれてその場に倒れて量子化していく。 おいぃ!? 嘘でしょ!? 新入生が全員動揺してる中、錦戸先生が上から軽やかな着地で戻ってきた。
「こんな風にやられてしまってもリスポーンが出来るの。 心臓に悪いことしちゃってごめんなさいね?」
それを聞いてみな安堵の溜息をつく。 ホントに心臓に悪い。
「さてと、これで説明は終わり。みんなバイザーを外して。」
バイザーをはずすと元の体育館に戻ってきた。 おぉ、ホントにバーチャル世界にいたんだな。
「という訳で入学式はこれでおしまい。 これから教室に戻って各クラス毎に武装適性検査を行っていこうと思うから、間違っても教室にいないなんて事の無いように。 それじゃあ先生方、後はよろしくお願いします。」