第192節 再認識とナディの変化、緊急事態
「って、慎重になっていた自分が馬鹿みたいだ。 ほんと。」
そんな事を空を見ながらそう呟く。 戦争が終わったあとのそれは、とてつもなく虚無なものだ。 そんな感性にすら浸らされる。
結局あの後の行動はただ闇雲に暴れ回っていただけで、なんというか本当に周りが見えていない状態だった。 あんな状態なら別にステレスしなくても良かったんじゃないか? そう思えてくるくらいだ。 まあ安全を考慮した結果こうなったとも言えるが。
「理想と現実の厳しさが待ってるかもしれないなぁ。 まあそんな簡単にはきりかえられないでしょ。 スイッチ完全に入ってたし。」
さてととりあえず戦利品のショットガン貰って、移動でもしますかね。 しかしマップが広すぎてこの後どこに行けばいいや・・・
それは正しく一瞬の事だった。 自分が頭を撃ち抜かれたのに気がついたのは最後に放たれた方向から見えた人物、伊奈川 啓人がこちらに向かってスナイパーライフルを構えているのが見えたからである。 そんな姿を見て、なんで啓人が俺を・・・と思った後に思った事の一部が俺のこの電脳世界に作られた島での最後の言葉になった。
「ああ、そうか・・・」
これサバイバル型PvPだったわ。
電脳世界から現実に戻されるドアを開く。 そこには俺と同じ脱落者達の姿があった。 楽しめた者、悔しがる者、また行きたいと楽しく声を挙げる者、次は勝つと豪語する者。
様々な想いが入り交じっているなんとも混沌とした世界だった。
「お疲れ様、どうだった? 新しい世界は?」
近くにいたのか文香が駆け寄ってきてくれた。 遠くを見ると、他の俺の彼女たちは「出遅れた」と言わんばかりの表情をしていた。
「うーん。 まあ斬新さが一番あったな。 普段なら相手は4人だったし、どこにいるか分からなかったから、ある意味気を張ったよ。」
「でも、最後は、啓人さんに、やられちゃいましたね。」
あとからやって来た白羽がそんな風に心配してくれる。 心配されるような事はしてないんだけどな。
「まあ、むしろトドメがあいつで良かったのかもな。 だからこそ納得出来たのかもしれない。」
「どうでしたか? ご自身で体験して。」
夭沙も文香と同じ質問をぶつけてくるが、多分生徒会としての質問をしているのだろうというのはすぐに分かった。
「アイデアとしてはかなり良いな。 今までネックだった人数もこれならかなりの人数が一気に楽しめる。 ただそうなってくると前のあの戦いが恋しくなる気もするんだよなぁ。 それに今回は試験的に設定してもらったけど、正式に導入するには、それこそお偉いさんの承認が無けりゃあなぁ・・・」
「じゃあ、今の現状だとあの島での戦いは出来ないってこと?」
鮎が俺が話した事を簡潔に疑問点にしてくれる。 理解のある子は好きよ? 俺は。
「そうなるな。 今はルールがあまり定まってないし、そういうのは上の人間と一緒にやるのが良いだろうしな。」
上が無能なら話は別だが、この世界ではそんなことはないと信じている。 いやせめて信じさせてくれ。
『それよりも試合を見ましょう! 啓人さん、ものすごく頑張っていますよ!』
ナディが手招きするのでその様子をモニターで見てみる。一応他にもチラホラ知り合いの名前が見えたが、モニターにはなかなか見つからない。 モニタリングしてる場所が悪いのか、もしくは脱落したか。 どのみち知り合いを見つけるのは困難なのは分かった。 というかよく啓人を見つけれたなナディ。
『たまたまですよ。 たまたま写っていただけですよ。』
そう書き込んでいたナディの表情はどこか惚けた様子で・・・ん?
「飛空も気付いたか。 ナディの事なのだが、啓人を見ているナディの表情がの、わらわといる時よりも嬉しそうなのだよ。 なんだかわらわは寂しいぞ。」
隣でずっといるのであろうエレアがそう告げ口を言ってくる。 というかそれって完全に・・・
「・・・これでうちのメンツでいないのは雪定だけになるのか?」
「? ・・・おぉ。 もしかしてそういうことなのかの? そうなのかの?」
「まあ、多分ね。 本人達が自覚を持つまでは誰にも話すなよ?」
「分かったぞ。 飛空との約束じゃ。 そうなるときっかけは助けられたあの時かの?」
それ以外でナディが啓人に好意を持つ理由も無いだろう。 というかだから電脳世界内で恋をしなくても・・・あ、今回は現実世界か。 んん? 分からなくなってきた。
「なんだかんだで今回の交流会も無事に終わりそうですかね。」
「分かんない。 どこでどんなどんでん返しがあるか、分かったもんじゃないから。」
試行錯誤を繰り返して今ではかなり安定した状態の試合画面を見て、俺と夭沙はこの3日間の事を振り返る。
「まあ実際は貝賀先と恵蘭の生徒が積極的に入ってくれてるおかげで、現実世界の方に影響が少ないってだけなんだよなぁ。」
そう、今あのゲームに参加している大半の生徒は貝賀先と恵蘭出身で、試合が始まってすぐに、まあ抑圧されたものが爆発して、野生に住む興奮状態の動物よりもタチの悪い動きを始める。 そいつからがいないおかげか昨日までけたたましく鳴いていた無線もそんなに鳴らない。 そこまでの害悪だったのか、あの手の輩は。
「飛空さんはもう行かれないんですか?」
「俺はああいうのよりは1人ずつ捌いていく方が相性良いみたいだ。」
「そうでしょうか? 私は、飛空さんに襲いかかってくる皆さんをなぎ倒していくのも、また面白そうだなと思いますけれど。」
そんな風に思われてもなぁ・・・ 正直な事を言えばあそこまで広いと情報量が多すぎて、対処しきれない可能性があるんだよね。 だからこそあのゲームは面白いんだろうけど。
~♪ ~♪
「ん?」
どこからか着信音が聞こえてくるので、耳をすませると俺の携帯が鳴っていることに気がついた。 マナーモードにしてなかったがそんなに大きな音ではなかったので良かった。
「どうしました? 飛空さん?」
「ごめん、ちょっと電話がかかってきたみたい。 一旦外すね。」
そう夭沙に告げて、スタジアムの声が響かない廊下へと足を止め、携帯からの着信をとる。
「もしもし?」
「やあ、久しいね津雲君。」
その声は最近聞き覚えのある声だった。
「大臣じゃないですか。 どうしたんですか? って大臣が俺に声をかけてくる時って大体決まってますよね。」
「そうだね。 次に行ってもらおうと思ってる国の案内をね。」
やっぱり。 まあそれ以外にかける理由もないしな。
「次に行ってもらう国なんだけど、なんでもアスベルガルドよりも磁場が安定していないらしいんだ。」
「ええ? それ大丈夫なんですか?」
「住んでる分には問題はないらしいのだが、小さい国らしいのだが、何分交通の便が不憫らしくてね。 空はもちろん、海もないから船も使えないんだ。」
「まあそれくらいなら陸路を使えば解決しますし、そこまで気にしませんよ。」
「それなら問題はないか。 早速手続きを・・・」
「あ、ちょっと待ってください。」
せっかく大臣から話がきたんだ。 ちょっと相談をしてみよう。
「あの、多分今回も付き添いが来ると思うんですけど、それって他学校の生徒でも大丈夫でしょうか?」
「うむ、それは学校と相談しなければならないね。 それはこちらからやっておこう。 改めて教えてくれないか?」
「ありがとうございます。 それともうひとつ。 今回の交流会で実は新しく電脳世界で遊ぶルールを作りまして、それについて少しばかり話を聞いてもらいたいのです。」
「ほうほう。 それは今の電脳世界での遊びの革命が起きるかもしれないな。 分かった。 その話は改めて聞こう。 ではそちらの準備が出来次第また落ち合おう。」
「はい。 それではまだ交流会が続いているので・・・」
「飛空さん! 来てください! 緊急事態なんです!」
電話を切ろうとした所に夭沙が慌てた様子で俺に話しかけてくる。 なんだなんだ?
「すみません。 どうやら呼ばれたみたいなので、これで失礼します!」
「そうか。 気を付けてな津雲君。」
大臣と電話を切り、すぐに夭沙に話しを聞く。
「一体何があったんだ?」
「現れたんですよ! あの島の電脳世界に! ポイズンノイズが! しかも対処に当たる為の人が今いない状態なんです!」
なんだと!? 確かに最近現れないなと思っていたが、急に現れるか!?
そんな事よりも対処が出来ない人間が何人もいる中でのそれはまずすぎる! まずは設定を変えてもらわなければ!




