第191節 開催と小屋、狂気
会場がワーッとなった所で本格的な説明が入る。
「さてこの「この島が決戦場だ!」なのですが、まず最初の皆さんに初期装備等はありません。 皆さん自身の手で武器調達をしてもらいます。 なので、武器も持ってない状態で遭遇してしまった場合は自らの拳で戦わければなりません。 次に本来の電脳バトルで使われますブーストゲージも、1回のジャンプ程度しかありません。 なので高所からの落下はデス判定になってしまうので、使い方にはご注意を。 そして今回設定されています島はしっかりとした広大な敷地となっていて、最初に転送される皆さんの距離、半径30mは別の人とは離れているので、いきなり遭遇の大乱闘とはならない仕様になっております。 そして、人数がある程度減ってきた場合、戦いの場所が狭くなり、規定時間内に範囲内に入っていないプレイヤーは即敗北となります。 しかしその分敵とも遭遇しやすいなんともスリリングなゲームになっています! 勝利条件は最後の1人になるまで! さぁプレイヤー諸君! 知恵を振り絞ってその島の王者になるのだ!」
弧ノ一さんの説明と鼓舞も終わり、ゲームが始まる音楽が鳴る。
このゲームの最大の特徴はなんと言ってもそのプレイヤーの人数。 今までの電脳バトルは4対4のスタイルだったのが、今回設定した人数はなんと200人。 つまり同じサーバーに200人が同じフィールドに存在しているのだ。 そしてそれを収容出来るほどの島の大きさ。 今回は試験的ということもあってあまり大きめには作れていないのだが、端から端に行くだけでもリアルタイムで45分程かかるくらいの広さになっている。 この辺りはこの交流会が終わり次第色々と調整を重ねるのだそうだ。
ちなみに戦う相手は選別しておらず、2会場のそれぞれで最初にテスターとして実行委員会メンツがいる以外では普通の生徒が参加している。
そんな誰宛かの説明をしているうちに始まったようで、俺は浅瀬の湖からのスタートとなった。
この島は様々な環境が存在しており、森林地帯があれば砂漠地帯もあり、都市もあれば村もある。 そんなどこにでもありそうで、一風変わった島に俺たちは電脳世界の人間として降り立った。
「浅瀬の湖か・・・位置的には全体の左側って所か。 とりあえずなにかありそうな、近くの村から行ってみるか。」
そう言って空中ダッシュをしようと思ったら、1回飛んだだけで、「パシャリ」という音が聞こえてきただけだった。
「・・・? ああそうか、飛べる回数は制限されてるんだっけか。」
弧ノ一さんの話を思い返して、仕方なく湖を走って辺りを見渡しつつ、村の方へと向かう。 湖の中に入っていたのだが、ここは電脳世界。 すぐにズボンの裾や靴は乾いた。 現実では絶対にありえないからな。
さて、一気に村まで入って・・・ん?
「あそこに小屋がある?」
実はこの島は、地形は変わらずに配置物がサーバーに入る度に若干変わる仕様になっているらしいのだ。 俺もマップの全体像を一度見せてもらったが上空からしか分からなかった上に建築物が様々な形であちこちにあるのだ。 覚えきれる程の頭の回転は早くないのでね。
それで、建物があるという事は少なくとも何かはあるというものだ。 完全に物置小屋にしか見えないが、見に行かずにはいられなかった。
周りを警戒しつつ、小屋に近づき、小屋の側面に付く。 聞き耳をたてて、中で物音がしないか確認をする。 音楽神この加護のおかげで、この程度の壁なら振動で音が分かる。
「・・・足音や物を動かした様子はない・・・」
木製の小屋なので2度3度壁を叩いてみる。 数秒待つ・・・音は無し。
「ドアの方はなにもいないな・・・」
ドアをゆっくりと開けて、中を警戒する。 何も持ってない丸腰状態のため、鉢合わせるだけでも致命傷になりかねない。 今の状況では戦闘は極力避けたい所だ。
「部屋は3つ、どのドアも開いていない。」
中に入ると奥の窓に向かう廊下を挟んで、左に1つ、右に2つドアがある。 中に入り、入口を閉めて一番前近くの右のドアに手をかけて、その部屋を開ける。
「・・・トイレか・・・」
細く開けたドアの隙間から見えたのは様式便器だった。 まあ設定を細かくするならトイレくらいあるよね。 さて、このまま入ってもいいのだがここは念の為、わざと勢いよく押して開けてみる。 すると「ふぎゃ!」という壁に当たったとは思えない音が聞こえてきたのでそっと押したドアの後ろ側を見る。
するとそこには、おでこを真っ赤にして目を回して、銃を持ちながら壁にもたれかかっている1人の女子生徒がいた。 そしてその後に量子化して消えていく。 目の前にディスプレイが現れて「緑川 紗奈を倒した!」と表記される。 どうやら倒すとこんな感じで表に出るらしい。 あの子には申し訳ない事したなと思いつつ彼女が持っていたであろう戦利品を貰っていく。 これ略奪みたいでなんかなぁ・・・
彼女が持っていたのはアサルトライフル、C4とここまでは分かるのだが、何故かメガホンまで所持していた。
「何に使うんだ? こんなの。」
敵に位置を把握してくれと言わんばかりの武器・・・武器なのか? とにかく使い道が・・・まあ貰っておこう。
トイレを後にして、次の部屋へ。 いても1人だろうと思うが念の為同じ事をする。 今度は壁にぶつかる程度で終わった。 隣は物置と化していた。 なるほど、ここにあったものを取ったんだな? その証拠に拾えるとと表示されるアイテムアイコンや物の場所を示す光が一切感じられなかった。 となるとここはさっきの彼女が全部取ってしまっていたのか?
物置を後にして、最後の部屋へ。 今度はリビングになっていて、それなりに広かったがアイテムらしいアイテムはリロード用の弾薬だけだった。 しかも32口径なので、アサルトライフルでは大きさが合わない。 普通のライフル並の弾丸の大きさだ。
特にこれ以上もなかったので、小屋を後にして村へと急ぐ。
しかしあれだな、微妙に距離感が掴めないな。 この遊び。 実際問題、アサルトライフルのスコープから覗いても、先がちょっと見やすくなった程度で、これと言って変わっていない。
「もしかして敵の姿がないからか?」
今までは敵を見て距離を計っていたのか。 そんな事を思いながら、俺は村に向かってひた走った。
うーん、近くの村に到着したのはいいんだ。 いや、正確には村が見える丘の上で少しばかり様子を見ていたのだが・・・
近くにあった牧草地は焼け、家は半壊しているものが多く、その上でどこからか爆発音が聞こえ・・・
簡潔に言うと「この世はまさに世紀末」と言わんばかりに村が荒れ果てていたのだ。
「ヒャッハー! この村で一番強いのは俺だ! もうどっからでもかかってきやがれ!」
そう言って1つの家から出てきた男子生徒がショットガンを持ちながら、そんな事を叫び出した。 しかも服装が真面目そうなだけに、今までの抑圧から解放されている感じが凄かった。 相当溜め込んでたんだろうなぁ。 戻ったらとんでもない位に心配されそうだけど。 二重の意味で。
どうスっかなぁ。 あのまま突っ込んで言ってもあんなラリってるようなやつを相手にするとなるとさすがに何しでかして来るか分からないしな・・・ ここはあえて避けよう。
そう思って動いた瞬間に弾丸が左頬を掠めていった。 すぐにその場にしゃがんでアサルトライフルから様子を伺う。 居場所がバレたのか!?
「はははははは! もう誰にも止めさせないぞ! この世界で一番前なのは、僕なんだからな!」
うーん違った。 自分に酔っ払ってるだけだあれ。 向こうはショットガン、こっちはアサルトライフル。 距離的にはこっちが優位ではあるが、ああも酔っていてはなにをしでかしてくるか分からん。 距離を保ちつつ、もう少し様子を見よう。
光学迷彩銃を使ってスニーキングしてた戦いが懐かしく感じるぜ。 あんな敵なら気にせずに近づけたもんな。
そんな事を浸っててもしょうがない。 相手に見えない位置から俺は丘を降りる事にした。




