第189節 露呈と取り締まり、支流譜修道院
その後は警備も増やし、試合もなんだかんだで流れていき、午後からは試合の勝敗を考慮して、場所を一部の高校が代わり、あらためて試合を繰り返すのだが、なんと言うかこう、確かに電脳世界でミッションやらを受けられるとはいえ、この空間に拘束されていると2日目の最後の試合が終わった後に思った。 前回はそうも感じなかったなにかが、今ハッキリと映し出されているように見えた。
そしてこの後ホテルに戻るといった辺りで無線を使い、再度集合をかけることにした。 一応代表には繋がっているので、逆凪にも繋がっている。 来てくれるかは甚だしいが。
「まずは謝らせてくれ。 何度も呼び出してしまってすまない。」
そう集まってくれた代表全員に頭を下げる。 別に優位に立ちたかったとか、優越感に浸りたかったとかそんな感情では無い。 心からの謝罪をした。
「ほんとよ。 私が来たんだから、下らないことだったらまたいなくなるわよ?」
そう言うのは逆凪だった。 来てくれた事には感謝したいし、この事実に近づけたのもある意味では彼女のおかげなのだが、今までの交流会全体を巻き込んだ事と今の喋り方でチャラにする。 正直に言えば、ああいうタイプは俺は嫌いなのだ。
「それで、今回はどのようなお申し付けでございますか?」
飛鳥が俺の機嫌を損ねる前にと話を切り出してくる。 なんだろうな、この世界でシスターさんのような職業って何があるんだろうか? 介護士?
「まずは今日の出来事を見ていて、俺も窮屈に感じたことをまずは言っておきたい。 確かにこれだけ窮屈にされれば、嫌になって縛りから解き放たれたくもなる。 前回はそれで通っていた為に環境の配慮が出来ていなかったのは前回参加校側である我々のミスだった。」
「なるほど、縛られている事で守られている事はあっても、それ自体を抑制してしまっては意味が無いということだね。」
銀郎も分かってくれたようで、納得してくれている。
「そこでなのだが、今晩の一日だけは生徒一人一人、自分のやりたいようにやらせてみてもいいんじゃないかと考えた。 もちろん取り締まらなければいけないところは取り締まるが。」
「私はさーんせーい。 その言葉を聞きたかったのよねー。」
最初に挙手したのは誰であろう逆凪だ。 これ以上いる必要性を感じなくなったのだろう、すごく適当に流している。
「それでやってみようか。 取り締まりの方はどうする?」
「いつまでも警備隊にやらせる訳にもいかん。 俺達実行委員会の一部の人間内でやろう。 実行委員会が取り締まってると分かれば、そんなに無茶するような奴もいないだろう。」
そんな話になり、取り締まりを行う生徒だけ残るという事で、数分後会議室に残ったのは俺、了平、銀郎、翁、学、飛鳥だった。
学が残るのはなんとなく分かっていたが、まさか飛鳥まで残るとは思っていなかった。 ちなみに俺たちの他に若本、司、無中瀬の3人が別にいた。 あの3人は今朝の若本の話をまとめて、催しとするために試行錯誤を行うグループになっている。
「とりあえず警護場所を確定しておかないとな。」
「僕は風呂場を見るよ。 昨日もだったんだけど、対策が万全とはいえ塀を登ろうとしてる人がいたからね。 分かってもらえないみたいだからさ。」
「なら私が女風呂を見るわ。 男子程問題は起こしてないけれど、女子は浴場よりも更衣室かしらね。 陰湿な女子は狙われやすいからね。」
「僕がホテル内の巡回をするよ。 多分飛空よりもあちこち行ってるからね。 構造は頭に入ってるんだ。」
「私は入口付近を見張りましょう。 昨日のように出かけられても少々問題になりますし。」
という訳で、銀郎が男子風呂、翁が女子風呂、了平がホテル全体、学が入口付近と配置され、残された俺と飛鳥はみんなが食事をする大ホールを担当になった。
配置が決まったところでそのまま解散、警備を開始する。 先程の話は別の学校の代表が説明してくれたらしく、大ホールはむせ返す程、人が集まっていた。 大ホール全体を目視出来る範囲で確認した後、大ホールのなかに紛れ込んでいく。
「しかしなんというか意外なんだよな。 こういう荒事はやらないと思っていたから。」
「シスター全てが暴力沙汰に介入しないのではないのです。 ただ極力避けている。 それだけに過ぎないのです。」
その極力の線引きが分からんのよな。 喧嘩の仲裁程度なのか、それとも・・・
「我々も抑制があるという意味では少しばかり不満を覚えている者もいます。 それを承知の上で支流譜修道院に入っていると思うのでそれを我慢の手中に入れなければシスターとしてはやっていけませんので。」
まあイメージを崩さない為にもそれは継続してもらいたいものだ。 だがそれ故にあの疑問がすごく強くなってくる。
「ならなんで尚更体感バーチャルの教材なんか取り入れたんだ? あそこには抑制するものなんか無いんだぜ?」
それでも限界はあるが。 本当に抑制が無い世界なんてそれこそホントの夢の世界じゃないと無理だ。
「ここからはマザーの考えなのですが、」
生徒がシスターなら先生はマザーか。 ん? この場合は先生じゃなくて修道院を仕切っている1番偉い人になるのか? 校長のような。 どうなんだ?
「マザーは言いました。 「知らぬという事はある種の処世術である。 しかしそれは出来ない、やらない事の言い訳に過ぎない。 そして今我々に必要なのは対応力だ。」というお言葉を貰い、我々シスターに電脳世界というものを教えてくれました。 ただマザー自身も初めての事だったのでみんなで力を合わせて対応しようという事になった訳です。」
なんかとてもいい学校じゃね? 卒業して大人になった時、どうするのかは分からないが、まあ少なくとも誠実さは身に付くよね。
「というかシスターって事はやっぱり女子ばかりなのか? 生徒も先生も。」
「ええ。 元々シスターとはそういう職種だと聞いております。 しかし男性を知らないという訳では無いのですよ。」
本当に男を知らなかったら今こうして飛鳥とも話せてないし、そもそも交流会にも参加なんかしてないだろう。
「男の判断基準は顔ではなく、瞳を見るのだと教わりました。 仮に男性が私たちと話す時にどのような瞳をしているのか、その奥まで見通すのですとはマザーのお言葉です。」
・・・ある意味女として敵に回したくない部類の人間か。 まあ男よりも女の方が色々と危険な部分があるしなぁ。
「あなたの瞳には邪な気持ちは微塵も感じません。 それどころか世間知らずに近い私たちに丁寧な作法を教えようとしています。 あなたは根っからの優しい人です。 それ故に皆さんを指揮する事に誇りにすら思っている。」
そう飛鳥に真正面から言われる。 な、なんというか、そうやって真正面から自分の事を肯定されるとなんかムズ痒くなるな。
「それにあなたには大切に思っている人が大勢います。 その人たちの信頼を損なわない様にしているので、私たちに危害は無いと判断しました。 決して悪い意味で言ってはいませんよ?」
そう柔らかく笑う飛鳥。 そう思われているなら否定はしないさ。 別に紳士ぶるつもりではなかったのだが、滲み出てんのかね? そういうオーラ的なものが。
「でも今のところは飛空様に助けられている所もあるのですよ?」
「ん? ドユコト?」
「あちらの方、少し目を細めて見て貰えますか?」
んー? 向こうになにが・・・そう思いながら見えたのはそれなりに遠くにいるにも関わらず、チラチラと見ては何やら怨念が篭ったような喋り方をしている男子がグループになっていた。 はっはーんそういう事。
「支流譜修道院は確かに男性との交流はあまりないと言いましたが、あそこまで露骨にされますと、どれだけ鈍くても、分かってしまいます。」
「俺はボディガードって訳だ。 そんなに声をかけられるのか?」
「常にシスター姿ですし、何より我々の修道院に通っているシスターはみんな大人しいのです。 マザーが回避法を教えてくれましたが、それが必ず出るとも限りませんので。」
「他のシスターの子達も大変だな。」
「皆が皆、飛空様のような清純ではないので、飛空様のような方をなんとか探して常にいて貰えるように取り繕っているのですよ。」
そう言って飛鳥は小さくため息を付く。 交流会をほんとに間違えてる輩ばっかって事が露呈していているな。 俺の方からも何人か紹介するか?




