第174節 硬化と反復、膨張
「バトル! ルビガンダオーガよ、目の前の敵を粉砕せよ!」
その命令にルビガンダオーガが突進をしてくる。 あの角で貫かれたらショーベル・アームズがどうなるのか想像もしたくない。
ならもちろん躊躇う必要は毛頭ない。
「俺は手札を2枚消費して、魔法カード「硬化コーティング」発動! ショーベル・アームズの体力を+2する。」
硬化コーティングがショーベル・アームズにされる。 その様子を見て、プラモデルで筆による塗料をしてるようだと思った。
「だけどそれだけじゃ、ルビガンダオーガの攻撃を止めれないぜ! ルビガンダオーガの効果は攻撃時、攻撃力を+3する効果が付いている。 ダメージが軽くなるだけだ!」
それを分かっていないほど馬鹿ではないのはユレストも知っている事だろう。 ならその台詞はこれから俺がどう動くかの確認のための台詞だ。
「俺は手札を1枚消費して、魔法カード「反復」発動! これにより、もう一度ショーベル・アームズの効果が使用出来る!」
ショーベル・アームズが隣の鉄くずを回収する。 そしてその場にはまた別の鉄くずが置かれる。
「だがまだ足りないぜ! このまま貫け! ルビガンダオーガ!」
そのままルビガンダオーガがショーベル・アームズに突っ込んでくる。 そのまま爆風が起こり、土煙が上がる。
「お前さんのショーベル・アームズは頑張った。 だが1歩足りなかったな。 ・・・なっ!?」
ユレストは驚きを隠せない様に声を上げる。 何故かって? 倒したハズのモンスターがボロボロになりながらもまだ立ってるって状況で驚かないわけないんじゃない? 自分のモンスターは破壊されてるのに。
「どういうことだ・・・? 何故・・・ 倒されていないんだ・・・?」
ユレストは疑問に思っている。 当然だ。 倒すはずの敵が倒されていないんだ。 ならば説明をしなければ納得しないだろう。
「俺は手札から「反復」を使ったよ。 だけど1枚だけじゃなかったんだよ。 もう1枚手札に握っていていたんだよ。 だから突撃してくる前にもう一度使ったんだよ。 「反復」のカードをね。」
そう。 「反復」のカードをもう一度使って、ショーベル・アームズの最終的な体力は16になったので攻撃力が15になったルビガンダオーガの攻撃を受け止めたという訳だ。 ショーベル・アームズもかなりボロボロなんだけどね。
「・・・ふっ・・・ふふっ・・・ふふふふふっ・・・」
全てを説明するとユレストは急に笑い始めた。 そのいきなりの行動に不気味さを覚える。 やり過ぎたか?
「いや、済まない。 面白くてな。 俺や兄貴はお互いに様々なデッキを使って戦いあっているんだが、必ずお互い「そろそろあのカードを使ってくるだろう。」という先入観を持ってしまうのでな。」
テーマが固定されているデッキの場合、大抵使われるカードは決まってくる。 例え引き運が悪かったとしても入っていると認識させるだけでも相手の判断力を鈍らせる。
「しかし君はこちらが用意したデッキ、しかも俺達が使うから内容がほとんど知られているデッキであるにも関わらず俺が予測する先を行っている。 それが楽しくてな。」
「引き運がいいんですよ。」
「そうだとしても大胆な選択をしている。 これほどに戦局を変えるのはなかなか胆力がいるからな。」
そういうもんかい。 ならそれでいいならいいんだけど。
「ルビガンダオーガが倒された事により、場にいる「岩犬」の効果が発揮される。」
岩犬は倒されはルビガンダオーガの残骸の一部を口に加えて、そして食べ始めた。 岩が岩を喰うってどうなんだろ?
「ルビガンダオーガの攻撃力の半分が岩犬に乗る。 これで俺のターンは終わりだ。」
「俺のターン! ドロー!」
ボロボロになったショーベルを見て、このまま戦わせるのは少し気が引けてしまう。 こんな姿になってでもルビガンダオーガの攻撃を止めたこいつを今度は突貫させて、相手の体力を削りに行かなければならない。 戦いとはいえ感傷に浸ってしまう。 これが体感バーチャルでも同じ事が思えただろうか?
「ショーベル・アームズの効果を使用して体力を上げる。 その後に鉄くずが帰ってくる。 そして手札を3枚消費して、「機械騎士 ウォークタ」召喚。」
「機械騎士 ウォークタ」
効果:自分フィールドのモンスターを1体破壊する事で、1枚ドローする。
攻撃力3/体力6
目の前にトラクタが現れる。 これがウォークタの姿だ。
「ウォークタが召喚された事により、俺はウォークタの効果を発動する。 鉄くずを破壊して、1枚ドローする。」
鉄くずをウォークタがガリガリと削っていく。 そしてその後に山札からドローする。 機械工場により鉄くずは復活する。
「バトル。 ショーベル・アームズで岩犬を攻撃!」
岩犬の体力は3、ショーベル・アームズの攻撃力は機械工場の効果を使っても4、ギリギリ倒せるレベルだ。 だがお互いにダメージが入るこのカードゲームでは体力が少なくなっているショーベル・アームズを持っている俺の方が確実に削れる。 今はまだいいのかもしれないが、あまり削られたくはない。
「確かに潰しておいた方がマウントは取りやすいよな。 だがそれはお前が使ったように、俺だって使うさ。 俺は手札を3枚消費して、魔法カード「膨張」を発動。 岩犬の攻撃力を倍にする!」
カードが発動すると、岩犬の体がボコボコと大きくなっていく。 それがショーベル・アームズをゆうに超える程に。
「これに対して防ぐ術は・・・無いな・・・。」
そのままショーベル・アームズが最後に一矢報いるかのようにショベルの腕を岩犬に突き刺す。 しかしそれをもろともせずショーベル・アームズは噛み砕かれる。 が、岩犬も急な膨張とアームがくい込んだ所から徐々に崩れる。 そして土煙が俺を思いっきり襲う。 体力が3に対して攻撃力16だから13ダメージ。 さっきの射出砲での攻撃よりも遥かに上だ。 半分近く体力を持っていかれてしまった。 お互いの体力はやや俺が劣勢になった程度だが、接戦ではあった。
「俺はこれでターンエンド。」
減らした手札の補充をする。 むぅ・・・また局面的に使えないものが・・・ 序盤の引きが良すぎたな。
「俺のターン! ドロー!」
「ドロー終了時、俺はウォークタの効果を使用する。」
ウォークタが鉄くずを崩し、俺がドローする。 そして鉄くずが再度現れる。 ウォークタは今の姿がデフォルトらしい。 騎士じゃないじゃんか。 というか改めて見ると凄い盤面だな、俺の方は、トラクタを挟んで鉄くずがあるって、なんか廃棄工場みたいになってんな。 まあ機械工場が永久機関である以上は仕方ない事ではあるが。
「俺は手札を2枚消費して、「投石器」を設置する!」
「投石器」
効果:以下の効果のどちらかを選べる。
このカードはプレイヤーに直接ダメージを与える。
このカードは攻撃出来ない代わりにプレイヤーに手札を1枚消費して相手に4点ダメージを与える。
攻撃力2/体力5
ここに来て直接ダメージを与えるモンスターを出てきたか。 前半はそうでも無い効果でも後半に響きそうな効果を持ったモンスターだ。
「俺は手札を消費して、「投石器」第2の効果を発動!」
そう言うと、投石器の皿の部分に大きめの岩が設置され、そしてこちらに向かって飛ばしてきた。 防ぐ手段はないのでその岩 (の立体映像)をモロに受ける。
「ぐっ・・・くぅ・・・」
「飛空!」
「大丈夫・・・ 直接身体にダメージは無いよ。」
とはいえライフがいよいよ2桁を切りそうだ。 こちらとしても一撃重たいのを喰らわせないといよいよまずくなりそうだ。
「俺はこれでターンエンド。 さてこの盤面、どう切り返す?」
ユレストがそんな事を言ってくる。 正直な事を言うとこの王子は勝敗のことなんてものはどうでも良いと思ってるだろう。 もちろんそれは「今は」の話だ。 ただ楽しむ、それに重点している。
だからこそそれに応えたいと思う自分がいる。
「俺のターン! ドロー!」
引いたカードを確認する。 2枚ともこちら側の強化を行う魔法カードだった。 手札を改めて確認する。 モンスターが6枚あるが、どのモンスターもこの局面をやりくりするには火力が足りない。 残った魔法カードは相手の弱体化をしてくれるものだが、使い所を間違えると返って不利にならざるを得ない状況を作り出してしまう。
「俺はウォークタの効果を使用する。」
ここは山札を信じるのだ。 引き運が強かったのは序盤だけじゃないんだ。
「ドロー!」
山札から引いたカードの確認をする。
「こ・・・これは・・・」
「その表情・・・どうやらかなり有力なカードを引いたな。」
効果を再度確認して、手札を確認して、出すならこの場面しかないと思えるほどに強力なカードを宣言する。
「俺は手札を4枚消費、さらに鉄くずを素材として、いでよ! 「機械騎士 ファントム・ステレシード」!」




