第17節 廃墟ビルと一撃、恐怖
量子化した体がステージへと降り立つ。
場所は・・・・廃墟ビルの中か・・・ 真ん中が吹き抜けになっているな。後ろを見ると、所々床が抜けているな・・・下手に吹き抜けの方を見ない方がいいな。
一番下の1階と一番上の天井以外を見ると大体5階くらいかな?
俺は2階右側、先輩は3階左側にいるな。レーダー式の小型マップだとそうなっているが実際はどうか分からない。 降りてはないだろう。 少なからず目の前に対面していない。 後ろにいる可能性も今はない。
ブリーフィングルームの時にチラッとみたが、マグナムにグレネードボム、ショットガンとここまでは分かるが一番最後のロングスタイルだけは想像がつかなかった。 身長の2倍はあるであろう刀だった。 投げるのか、振り回すのか、それも分からない。 だが、あれだけ大きい刀は振り回すにしても投げるにしても相当労力がいるからインターバルはでかいはず。
「さて状況は確認できた。もう先輩は動いてるな。次に確認する事は・・・・」
「相手の武装の情報と相手の正確な位置関係だ。」
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「うお! 流石ですな。幸坂先輩はもう相手の後ろを取ったぜ!」
そう倉俣先輩が言っていた。 飛空さんも声に反応してすぐに後ろを向き、武器を発動した。 ジャンプして消耗したゲージを回復するために、幸坂先輩が降りた。
「どうしたんですかぁ? 何で幸坂先輩は撃たなかったんですかぁ?」
歌垣先輩がそう疑問に思っていた。 この人状況を分かってないのかな?
「歌垣、飛空君が使ったのは「光学迷彩銃」だ。 つまり彼は1度幸坂の目の前で消える事でどこにいるのかを曖昧にした。 そして幸坂の武器は火力がある分、弾数が少ない上にリロードに時間がかかる。 だから確実性のない時は下手に撃たない方がいいんだよ。」
志狼先輩が状況を説明する。 お互いに様子見をしている状態が続くだろう。 今回はタイマン勝負なので、見つかれば撃ち合いは確実、だからお互い撃ち合いはなるべく避けて、闇討ちでも優位を取らなければならない。 飛空さんの場合はそれがかなり難しい。
「どちらが先に仕掛けると思いますか?」
私は志狼先輩にそう聞いてみた。 一番状況を見ていそうな人だったし。
「そうだね。 闇討ちのしやすさは飛空君が上だろう。 拘束武器に光学迷彩、裏取りなんかに一番向いている武装が揃っている。 だが幸坂は先程も言ったが、火力が高い。 戦況は常に変わり続けるだろう。」
志狼先輩の合理的な返答でもう1度モニターを見る。 逃げてばかりでは勝てない、勝ち方も考えなければならない。 そんな戦況の中で常に頭を切り替え続け無ければならない。 私に出来るだろうか。 モニターを見ながらそう思った。
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「ふぅ、下手に距離を取りすぎるのもマズイな。」
近づいてしまっては先輩のテリトリー、かと言って離れ過ぎると今度は射程圏外になる。 絶妙な距離を常に取り続けなければならない。
しかしそれは先輩も同じ事だ、どこから狙われるか分からないこの場所では、下手に射程を作ってはいけない。
吹き抜け越しに先輩が見えた。 4階か・・・・俺は3階だが、上からなら好都合。 あちらも気付いたみたいだ。 距離を詰めてくる。
その距離ならこの武器で! ロープリングを構え、引き金を引く。
空中にいたため、幸坂先輩は横にステップを決めたが、対応が早かった。 ステップをした方向にリングが誘導を始め、幸坂先輩の足を捕らえた。 良しヒット! 吹き抜けにいたので足にロープが絡まったまま、1階へと落ちていく。 必死に抵抗しているが、見逃す筈は無いでしょう?
すかさずブーメランチェイサーに変えて、三日月の刃を浴びせていく。火力は無いが手数なら負けないぞ。 先輩がダウン状態に入るまで撃ち続け、そのまま2階へと避難する。 あれだけ撃っても削れたのは体力の5分の1程か・・・・
「それがお前の戦い方か。」
幸坂先輩の声がした。 確認の為に見に行くとそのまま1階の奥へと入っていくのを見た。
「お前の技は見せてもらった。ならば次はこちらの番だ。」
「そうはさせないですよ!」
いつの間にか4階に移動していた幸坂先輩を見上げて、そう叫ぶ。一気に行くのは無理だと分かったため、一度吹き抜けへと移動し、その後空中ジャンプを使って「く」の字に移動し、3階へと登る。 先輩は例のロングスタイルの大きな刀を構えて今にも薙ぎ払うと言わんばかりに刀の刃の部分を横にしていた。 今がチャンスだ! そう思い、一番軽いショートスタイルで思いっ切り踏み込んで、先輩の所に近づこうとした。
しかし先輩の余裕の表情に背筋が凍る感覚に出くわした。
これ以上近づいたらマズイ! もう1度バックステップをして距離を取る。
「その判断は利口だが、遅かったな。」
刀を振った! あの距離から吹き抜けの半分位の長さだろうか、かなり大きい刀が振り回された。 しかしギリギリバックステップをしたから当たらな・・・・・・・
「・・・・・・・・・・ガハッ!」
バカな!距離をあけたはずなのに・・・・!! 腹部に激痛が・・・・・!! そのままの反動で3階と4階を区切っていた床の端にぶつかる。 落ちないように、咄嗟に床を掴む。
「教えてやろう。 俺のこのロングスタイルの武器は一振りをすることで、刀のダメージだけでなく、短い距離だが衝撃波を放つ。お前はその衝撃波に当たったのだ。 バックステップをしたから、被害は最小限に抑えられたみたいだがな。」
最小限で体力の4分の1を持っていってるから、モロ食らったら体力を一気に持っていかれていたかもしれない。
床から手を離して一度奥へと入る。 武器の性質上あの武器は暫くは使えない。その間になんとか距離を取りつつ、先輩を倒さなければ・・・
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「凄いな彼。 よくあれに反応して回避したよ。」
志狼先輩は褒めているが、私は息を飲んでしまった。 なんて力なの? 幸坂先輩の武器がかなり危ない事を今回の試合で証明できた。 力任せではないものの、まともに戦いに持ち込めないかもしれない。 今はお互いの武器特性が分かった以上、どこまで相手の裏をかくかという所になってくる。
・・・・・・私は正直怖くなってきた。 この後私も同じ事をするのだと思うと体が震えて来てしまった・・・・
「大丈夫よ。あなたとの戦いはあそこまでむちゃくちゃな戦いにはならないわ。 私が保証する。」
志摩川先輩がそんな事を言ってきた。 心配ではある。 でも今は彼の傷つく所を見るのが少し嫌になってきてしまった。 怖いという感情が芽生えてきてしまったのだ。 私がこんな状態では・・・・・
「彼の事が心配?」
「はぇ!?」
急に志摩川先輩から話を振られたからびっくりして変な声出しちゃった。
「貴方の彼の見る目、普通の男子を見る目じゃなくて、熱の篭っている目だったわ。 もしかして彼に一目・・・」
「いいいいいやいやいや、まさかそんな、まだ彼の事をほとんど知らないでそんな、そんな事は!」
思いっ切り両手をブンブン振って否定する。 まだそんな感情になった事ないし、彼とはまだ3回しか会ってないし、な、何より彼をそんな対象として見れないっていうかなんて言うか。
「・・・・先輩ぃ あんまり夭沙ちゃん苛めちゃダメですよぉ。」
「ふふふ ごめんごめん、歌垣ちゃんの言う通りね。ちょっと度が過ぎたわ。だってあまりにも熱心に観てるからついさ。」
ハァハァと私は呼吸を整えた。 私の知らないところで何を悟ったの?あの人。
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正直試合はこれ以上伸ばしいていたらお互いジリ貧になってしまう。
でも先輩も下手に近づいてこないし、こちらも近づけない。
そう思っていると、先輩が向こうに見えた、距離があるからこちらも距離を取り・・・・
「・・・・え?」
距離を取ろうと思った瞬間には先輩はマグナムの射程距離内まで近づいていた。 1度冷静になり、もう1度確認すると、どうやら一番近くにあった柱を利用して遠近法をしていたようだ。 正確にはこちらに向かってほぼ直角にこちらに近づいてきたのだ。
先輩の持っているマグナムなら「ズドンッ」という重たい音が聞こえた。 しかし射線は分かっていたので紙一重で避ける。
「・・・先輩のそのマグナム、火力は相当あるようですが、反動がかなり大きいようですね。」
「ほう? そこまで見抜いたか。たった1発撃っただけで。」
発砲音がかなり重かったので、多分トリガーに相当力を加えないと弾が出ないだろう。 だがそれのおかげで
「距離をおく時間があると思っているのか?」
先輩がそう言うと、「カシャンカシャン」と2回写真の様な音がした。 なんだ? 何をしたんだ? 先輩の方を向いて、すぐさま首を左に傾けた。 右頬に血が垂れた。 弾の風切りが皮膚を掠めたようだ。
「あの状況からも避けるか、そんな芸当出来たものは今まで会ったことは無かったな。」
どういう事だ? 先輩自身が武器の弱点のような所を言ったのにも関わらず、インターバルなんて無かったかのようにマグナムを発砲した。
先程した「カシャン」という音、反動の大きい武器、・・・・・・。
「一瞬で武器を変更して、発射と発射のインターバルを無くしたんですね?」




