第166節 完成と劇場、謎の男
「飛空殿。 我々もテレポーターが作成出来ましたぞ。」
リューフリオに滞在して5日。 思いの外苦戦していたようで、時間はかかっていたが、リューフリオと曜務を繋ぐテレポーターが完成したようだ。
「では早速曜務の情報が入った端末を使って・・・」
紫色の端末を差し込み、テレポーターが起動したのを確認して、俺が先にテレポーターから顔だけを向こう側にやる。
「おお。 飛空君。 ビックリするから顔だけを出さないでくれ。」
「あぁ、すみません。 リューフリオからのテレポーターがしっかりと起動したか確認したくって。」
「おお、そうか。 それは良かった」
「それと、こちらの方で依頼が入ってしまったので、まだ帰れないとみんなに言っておいてください。」
「うむ。 伝えておくよ。」
そう言って俺はテレポーターから顔を引っ込める。 その後に俺は大きく丸を作り、ちゃんと繋がった事をみんなに伝える。
「そうか。 繋がったか。 それなら私は1度君たちの偉い人と話をしてくるよ。 フランク! 付いてきてくれ!」
「はっ! 陛下の仰せのままに!」
そう言ってセルトラム陛下とフランクさんはテレポーターへと入っていった。 行ってらっしゃいませ。
「今日もメルリアの所に行かれるのですか?」
「ええ、ナディも喜んでいるようなので、公演まで練習に付き合ってあげようかと。」
「ふふっ。 良いショーにしてあげてくださいね?」
マラノーラ王妃がそう微笑む、見えてない・・・んだよな?
「でもこれで、曜務とは繋がりました、ね。」
「あぁ、向こうでの同盟が出来れば晴れて他国同盟の仲間入りだ。」
その隣ではナディがバンザイをしていた。 とても喜んでいるのは見えていなくても分かるのだろう。 マラノーラ王妃もその様子を微笑んで見ている・・・ように感じる。
「っとそうだ! 早くメルリアの所に行かなきゃ!」
「そうですね! ナディちゃん。 行こう!」
そう言って白羽はナディの手を取って、俺と共に宮廷を出て、メルリアのいるレッスン教室に向かった。
「うんうん。 大分形が出来てきたね。 初日のガタガタ具合が嘘みたい。」
「メルリアの教え方がいいからね。 直ぐに覚えられたよ。 後は体がついて行くかの話だったみたい。」
メルリアと共にダンスレッスンをそれなりになるまで踊っていたこともあってメルリアのダンスは完全にコピー出来た。 後はここで俺がアドリブを取り入れれば少しは役に立ちそうなのだが、生憎と戦い以外でのアドリブ力はあまり持ち合わせていない。 まあちゃんと踊れるようになっただけでも功績かな?
「ははは、彼女さんのケアが良かったんだね。 その調子でお互いの愛のケアもしたらどうだい?」
「ソウデスネ、カンガエテオキマスヨ。」
そのケア、もれなく白羽以外にもしないといけないからね。 やらないよ? まだそんな歳じゃないし。
「やっぱりあんな馬鹿ボンボンよりもあんたと踊った方が幾分マシだわ。」
「前日までなら交代が効くんでしょ? もうマナスじゃなくてもいいんじゃない? 拘ってないんでしょ?」
「そうね。 練習にすら顔を見せない奴なんて知らないわ。 当日はあんたと組む事にしたわ。」
そいつは良かった。 まともに踊れるか分からない奴とやるよりかは遥かにマシでしょ。
そんな感じで淡々とダンスを練習して行く。 体が慣れてくるとそれなりに自分が踊ってみたいように踊れるようになり、音楽に合わせながらでもちゃんとした形になっていった。
そんな風に踊っていたらいつの間にか陽が沈みかけている時間になった。
「お疲れ様。 明日もよろしくね。 あ、そうそう。 明日から本番までなんだけども、ここに来てくれるかしら?」
そう言ってメルリアはひとつの地図を渡してくれる。 細かいところが分からないのでナディに聞いてみるか。 そう言ってレッスン教室から出ると、1人の男性が看板の影からこちらを見ているのが確認できた。 目が合うと、その男はそそくさと去っていってしまった。
「なんだったんだろ? あの人?」
「どうか、したんですか?」
白羽が心配そうに俺を見る。 多分マナスの事があるので、急変しないか心配なんだろう。
「ん。 いや大丈夫だよ。 ただちょっと気になっただけさ。 さあ宮廷に戻ろうか。」
そういって宮廷の方に足を向けて、もう一度目線だけを看板の方へ向ける。 今度はうんともすんとも言わず、ただただ暗いだけの看板があるだけだった。
翌日、指示されたところに向かうとそこは大きな劇場だった。 元々開いていたのか、それともメルリアが先にいるのか、劇場の入口は開いていて、そのまま中に入り、大きいシャンデリアのあるステージに着く。 すると、ステージの上に1人、メルリアが色々と採寸を測るようにあちらこちらを移動していた。
「ん? あぁ飛空じゃない。 声くらい掛けてよ。」
「ごめん。 あまりにも真剣だったから声を掛けられなくてさ。」
「それで、メルリアさんは、今はなにを?」
「ここが劇場になるからね。 それの距離感とか、ダンスでどう動くかっていうのを確認してたのよ。」
まさしくダンサーの鏡だな。 1回も練習にすら来ようともしないあの馬鹿とは大違いなんだよなぁ。
『それにしてもここの大きさは相変わらずですね。 こうして誰もいないとそれが際立つと言いますか。』
ナディがディスプレイにそんな事を書き出している。 確かに観客席だけでも凄い広く感じるぞ。
「あの大きなシャンデリアも趣あるなぁ。 うーんオペラ座の怪人の内容を知っているから余計になぁ・・・」
「なんですか? それ。」
おっと、こっちじゃオペラ座の怪人と言っても知らないか。 また後で説明がてら見てみよっと。
「さぁさぁ、そこに突っ立ってないで、こっちに上がってきなさいな。 大丈夫よ。 ここは公演以外では基本的には使われていないから。」
それはそれで問題じゃね? そんな思いもあったが、とりあえずは本番用の練習もしておくに越したことはないので、ステージに上がる。 振り返ると、先程の観客席がより立体的に広がっているのが分かった。 ふわぁ・・・ここで本番は踊るのかぁ。
「圧巻でしょ? こんな劇場、ほんとに普段は使えないってもったいないわよね。」
「全くだよ。 色々と使い道はあるのにな。」
「私も、こういう所に、立ってみたい、です。」
「お! 言ったわね? なら私のダンスの項目として入れてあげる! バックダンサーみたいな感じで踊っていたらいいから。」
「ええ!? そんな、迷惑ですよ!」
「ずっと私たちが練習してる間もナディと踊っていたのになにを言っているんだか・・・ 大丈夫よ。 私のサポートみたいに動いてくれれば全然。」
壮大なショーになりそうだな。 そんな事を思いながら、劇場での練習をスタートさせた。
今まで練習していたスタジオとはやはりと言っていいほど勝手が違い、スタジオでは狭かったとか、鏡があって自分を見れたとかで、それなりに緊張をしていなかったのだが、いざ劇場に立つと、観客席の圧迫感がこちらにジワジワと来るように重圧がかかる。 今は見ている人がいないからいいものの、これが大勢の観客がいると考えると、凄い視線の圧がかかるんだろうなと踊りながらでも感じ取れた。
「今まで見られるのは慣れてたはずなんだけどなぁ。 モニター越しと、本物の視線はどこからも違うって事か。」
「そうね。 毎回こういう場所で踊ってると、その重圧に負けそうになるの。 でもそれもひとつの演技として、取り入れる事で、より力強い踊りが出来るのよ。 そう私の師匠は教えてくれた。 今は引退しちゃったけどね。」
力強さの裏にはそんな想いが隠されていたのか。 後ろで一緒に踊っているナディと白羽を見ながら、メルリアの強さの秘訣を貰ったような気がした。
「うん。 大分形になってきたから、後は本番に向けて、調整するだけね。」
今日もほとんどを練習に費やしたおかげで体はへとへとだ。 ここだと時間の感覚が分からなんくなるな。 暗いし。
「それじゃぁ明日からもよろしくね?」
そう言ってメルリアと別れる。 その後にまた視線を感じて振り返ると、昨日と同じように1人の男性が、物陰からこちらの様子を伺っていて、そして去っていった。
彼は一体何者なのだろうか? メルリアの追っかけ? それでもこんな時間にいるのは怪しすぎる。 メルリアたの帰路とは逆方向に歩いたのでストーカーでは無さそうだが、用心はしておこう。




