第16節 武器把握と放課後、試合前
今回は途中から視点が入れ替わります。
さて、武装に慣れろとは言われたもののこの演習はあくまでも武装確認を詳しく行うこと、簡単に言えば武器の射程やリロード時間、反動や重さなど、具体的にどういう武器なのかを改めて自分達で体感してもらうのが目的だ。
でも俺はなんとなく分かってしまっているので念入りにやる必要はないのだ。 やらない訳では無いけれど。
サボり癖が出るといい方向に進まないとは働くのが生きがいのような父の一言だ。
「私のこの武器、撃ちながら曲げるのは力がいるわね。 直線だと当てにくいとはいえ、曲げるのを何回もやる訳にも行かないかも。」
紅梨が高出力エネルギー砲をダミーにぶつけながら言った。 確かに俺達と一緒に戦っている時は、直線でしか撃ってなかったな。でも曲げるとなるとその巨体は容易に動かないだろ。 放出時の反動もあるし。
「ここまでは届く・・・・ これ以上離れると・・・・ 弾が消失してしまうのか・・・・ この距離で相手を狙うとなると・・・」
海呂もぶつくさ言いながら自分のアサルトライフルとにらめっこしていた。 いくらアタッチメントがあるとは言え距離を把握出来なければ意味がない。
そんな事を思っているとこちらに回復エフェクトが流れてきた。ん?
「あ、急にすみません。 ダミーとはいえ敵判定なので、回復を撃てないなと思いまして。 いまどのくらい回復しました?」
「えっと・・・ 初期値から考えると・・・・ 大体30くらいかな?」
急な事で驚いたがそれでも答えを返す。これが1回の回復量なのかな?
「ありがとうございます。 次は連続で撃ってみますね。 いいですか?飛空さん。」
「あぁ、問題ないよ。ドンと来い。」
回復だからドンと来いってのはおかしいか。
その後2発程貰ったが、回復量が少なくなっていた。まあ同じ回復量を重複なんかしないよな。
「どう、かな?」
「やっぱり回復量が少なくなっているね。 そっちは?」
「わたしの方はあんまり減ってないよ。 だけど、連発は出来なさそう。」
回復銃は「相手を回復する」のではなく、「使用者の体力を分け与える」ということらしいので、正確に回復かと言われれば違うのだろう。 しかし調整が明らかに難しいのはヒーラーだろうな。白羽もあんな服装でも考えながらやっているので、今後の戦い方に期待って所かな。
「しかし・・・ よくあったもんだな、そんなコスチューム。」
容姿が悪くないだけに体のラインが目に見えて分かる。 ニーソックスっていうのもまた思春期には来るわけで・・・ そんな事を思っていたら白羽が自分の体を見て、顔を真っ赤にして隠してしまった。 いかんこれじゃ目線がエロおやじのそれと同じじゃないか!
「い、いや、あの、こ、この服は、サークルの、先輩達が、選んだもので、その、わたしは、あんまり。」
顔が真っ赤のまま文と文が繋がってないくらいの話し方で白羽が言う。 あの独り言も聞こえてしまってたか、反省。
「ごめん。決して君のことを悪く言ってるわけじゃなくて。」
「うぅ・・・わたしには似合わないって先輩達にも言ったんですけれど・・・・ 折角だからって、半強制的に選んだんですよ・・・」
「いや、むしろ良く似合ってるよ。 可愛いし。」
そういった途端白羽の真っ赤だった顔が更に赤くなり、目を見開いていた。
「や、や、や、やめてくださいよ! そんな! そんな心にも無いことを!」
やべぇ、狼狽えてるのがスゲェ分かる。 その後白羽は「うぅー」と言いながら縮こまってしまった。 ・・・・・やらかしたなぁ。
ほとぼりが冷めるまで別の所で練習してしまおう。 この後の放課後に向けて少しでも分かっている部分と分からない部分をちゃんと把握しなければ。
自分の武器把握をしていたら授業時間があっという間に終わってしまった。 物事に集中すると時間を忘れると言うけれどこれは今まで生きてきた中の比じゃないぞ、これは。
みんなと離れていたので、戻るとちょっと不機嫌気味の紅梨がそこにはいた。 怒ってる理由はなんとなく想像がつく。 十中八九妹の事だろう。
「あんた、白羽に何しでかしたの?」
いつもの声色ではないくらい低い声で、問いただしてきた。
「いや、コスチュームに関して、似合うし可愛いって言っただけなんだけど・・・・」
これ以上嘘偽りはない。 というか嘘のつきようがないもの。 そう言うと白羽はまた真っ赤になってしまった。 うーむこうも分かりやすいとなぁ・・・
「・・・・やっぱり白羽の方がいいのね。」
「え?なに? よく聞こえなかったんだけど?」
「何でもないわよ。 で? 武器の具合はどうなのよ?」
話題を逸らされてしまった。 これ以上聞くのは野暮か。
「とりあえず確認のために色々とやってたけど、やっぱり相手がいないと、本格的には分かんないな。」
「君の武器の場合は特にそうだろうね。 相手の状況次第で変化するタイプの武器だからね。」
オレの武器は「相手の動きを封じる」のが目的の為、対人で無ければ実際の効果は分からない。 でも流石に味方に撃つのはちょっと・・・・・
そんな事を思っていたらチャイムがなった。 今日の授業はこれで終わりだ。
「じゃあ先に帰ってるね。 ・・・・・頑張って。」
「・・・・あぁ。」
海呂達と別れ俺は生徒会室へと向かう。
「「あっ」」
生徒会室前の廊下で夭沙とあった。 目が据わっている。夭沙も覚悟は出来ているという事か。
2人で生徒会室の前へと行き、ノックをする。 「入ってちょうだい」の合図と共に扉を開ける。
「2人とも逃げずに来てくれたわね。 早速だけど移動するわよ。」
志摩川先輩が立ち上がり、扉の方へと向かってくる。 威厳は強いがなにぶん背が低いため、別の意味でたじろいてしまう。
志摩川先輩に連れられてきたのは先程までいた、電脳室だ。
「さて、昨日も話したから分かると思うけど、これからあなた達には私、もしくは務とタイマンで勝負してもらうわ。 ルールはどちらかの体力を0にした方の勝利とさせてもらうわ。」
「その言い方ですと、勝利することだけが生徒会入部の条件じゃ無さそうですね。」
そう俺が言うと、志摩川先輩はニヤリとした。
「ご明察、見るのはあなた達の「力量」私たちの中の条件に満たしていれば、という事になるわね。」
やはりか、ただ勝利することに意味は無い。 それなら生徒会のメンバーなんて勝率だけの馬鹿集団になってしまうからな。
「まずは俺と勝負だ飛空。 俺に認められるだけの力を精一杯見せるんだな。」
幸坂先輩の言葉に圧がかかっている。 油断したら一瞬で負けてしまう。 気を引き締め直さなければ。
左右に設置されているドアに俺と幸坂先輩は入っていった。
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私は左に入った幸坂先輩と右に入っていった飛空さんをお互いに見送った。
「さあ、夭沙ちゃん。 こっちに。」
志摩川先輩に連れられて、モニターの前に待機する。 これから2人の試合を見るためだ。 幸坂先輩の武装は未知数だが、飛空さんの武装は姉から聞いていたし、何より当時の試合はハッキリと観ていた。 相手がどのような武装であるにしろ、まず彼は動けないだろう。強気に出れる武装でないのは彼も百も承知だろうし、(自分の武装だからだれよりも分かってるだろうし。)彼なりの戦いを観るのはこれで二回目になる。 私としては生徒会をやっていく上では彼とやっていきたいと思っている。
「彼の事が心配かしら?」
そんな想いを悟られたのか夕暗先輩が話しかけてくる。
「そういう訳では無いです。 ただ今はこの試合を見守りたいだけです。」
不思議な事なのだが、彼と初めてあったのは生徒会室なのにどこか安心できる雰囲気があった。 初めて話した時も、姉のことを心配していたり、自分の事ではないのに笑っていた。 今まで男子という懸念が無かった私にとって彼は・・・・
そんな事を考えていたら歌垣先輩が後ろから抱きついてきた。びっくりするからやめて欲しいんですけれど・・・・
「そんな顔しちゃダメですよー。 夭沙はそのままがいいの。」
訳の分からない事を言っている。 悟られたのかと思った。
「さーて幸坂先輩と津雲が戦うぜ。 火力なら幸坂先輩だけど、津雲の武器はハマれば相手のしたいことが出来ない事になるかもな。」
倉俣先輩が分析をした。 確かに幸坂先輩の武器はなんというか、一撃必殺と言わんとばかりの火力の武器がメインだ。 対する飛空さんは自分はサポートとして動くことを前提とした武器な為、一対多はおろか一対一でも怪しい。 しかし私は知っている。 彼にはそれをカバー出来る技量がある事を、あの1回の試合で確認済みだ。 彼にとって敵対相性なんてものは無いと思う。
「力の幸坂か、技の飛空君って所だね。これはなかなかの名勝負になる予感がするね。」
志狼先輩の言葉に心の中でコックリと頷く。 どちらに軍配が上がってもおかしくはないこの試合。しっかりと最後まで見なければ。 でも飛空さんの方を応援しようかな。 相手側の応援をしていたなんて言ったら怒られるかしら?
「さあぁ、両者登場したわよ! どうなるか楽しみね!」
志摩川先輩は結果云々は気にしていない様子なのね。なら私もしっかりと観戦しないと。 ・・・・・頑張って飛空さん。
読んでいて分かってもらえたと思いますが、視点変更先は夭沙でした。 暫くは実際の試合内での視点とモニター越しの視点を飛空と夭沙で交互にやっていきます。




