第162節 大浴場とパジャマ、お食事
泊めてくれるという事で食事を用意してもらっている間にお風呂の方が用意出来ていたそうなので、出来るまでに先に入る事にした。 騎士団の人達も入るそうなので一緒にお風呂場の脱衣所に行く。 宮廷なだけあって脱衣所だけでも相当な大きさだった。 これは大浴場として期待が持てるぞ。
騎士団の人達も昼夜交代であるらしく、今はちょうど昼の部の人達が入ってきたようだ。 みんなそれなりに体つきが良くて、自分の体にコンプレックスを持ってしまう・・・ そりゃ鍛えてたわけじゃないし、鍛えてる場所も違うんだけどさ。 泣かないよ? 男の子だもん。
「そう気を落とさなれるな飛空殿。 体格にも個体差がある故。」
そんな思いを受け取ったのかクラーツさんが励ましに来てくれた。 それなりにガッチリとしてる人に言われてもなぁ・・・
浴場に入り、体を洗った後に予想通りと言わんばかりの広い浴槽に入る。 天井からとても静かな音楽が流れているので、とても心地が良い。
「あぁ・・・やっぱり広い浴槽はいいわぁ・・・。」
「満足頂けて何よりです。」
隣にいるクラーツさんも足を思いっきり伸ばして湯船に浸かっている。 身長差はそんなにないんだよなぁ。
「音楽が栄えている国かぁ。 入ってから直ぐに宮廷に来たからそんな感じもわかんないや。」
「それに関しては明日嫌という程分かりますよ。 それにしてもこのような国にどのような件で来られたのです? 我々の陛下殿はなかなかそのように受け答えをしないと国民の間では知らない者はいないほどです。」
「それだけこの国に有益に働くと考えたのではないですかね? 話の内容を見た訳では無いですが、大体どんなものなのかは想像がつくので。」
「飛空殿は策略家の素質があるように見受けられる。 戦略をたてるのはお手の物、と言った感じがしますね。」
「まあ、授業が授業だったりするので、あながち間違ってはないのかもしれないですね。 騎士団の人達は銃を使う事ってあるんですか?」
「射撃訓練としてバトルライフルを持つことはあります。 もちろん他国から攻められた時に使うとは思うのですが、如何せんそのような事態に何時なるのかヒヤヒヤものだったりしますがね。」
完全な素人という訳では無いわけだ。 まあいざそうなった時に戦えるかどうかって言うのはまた別問題だったりするがね。
お風呂から上がったところで着替え直して、食事をする場所へと案内される。 料理の方はもう出来上がってるがクラーツさんと俺以外にはまだ誰も来ていなかった。
「陛下と王妃はゆっくりと入浴をしている。 時間はかかってしまうが、我々が陛下よりも先に食べるのは申し訳ないと思うのでな。」
それは俺も思っていた。 一番偉い人を差し置いて食事なんか出来やしない。
「あ、飛空さん。 クラーツさんも。」
開いた扉から白羽の声が聞こえたので振り返ると、ここに訪れていた時の服ではなく、桃色の横縞のパジャマ姿で現れた。
「えと、これは、ナディちゃんが、用意してくれた、んです。」
『私も白羽さんとお揃いのパジャマです。 と言うよりも私のパジャマを貸したんですけど。』
そうディスプレイに書き出したナディは白羽と同じような横縞で緑色のパジャマを着ていた。
「どっちも可愛らしいじゃないか。」
「とてもお似合いですよ。 王女、白羽殿。」
「あ、ありがとうございます、飛空さん。 クラーツさん。」
『可愛いって言われちゃった! 良かったね白羽!』
俺とクラーツさんがそう言うと白羽はどこか照れたような、ナディは嬉しいそうな表情をしていた。 ナディは意外と感情の幅が広いのかもしれないな。 喋れない分、体で表現しようとしてるのがよく分かる。
「すまないな。 遅れてしまった。 相変わらず私達の事は気にするなと言っているのだがなぁ。 騎士団の者もメイド達もこぞって私たちを待っておる。」
「いいではありませんか。 あなたは陛下。 それに忠誠を誓うもの達なら例えあなたが遅れてでも共に食事を取りたいのですよ。」
セルトラム陛下の呆れた声にマラノーラ王妃は笑いながらそう言ってあげる。 2人仲良く手を繋いでいるがマラノーラ王妃が目が見えないため、セルトラム陛下がその目の代わりになっているようだ。 さすがに俺も杖をつく王妃なんかは見たくないしな。
2人が来たところで席に着き、クラシック音楽を聴きながら、用意されている深めの器に入ったスープを音を立てないように口に入れる。 口の中に広がる温かみと野菜の甘さを感じるスープだ。
「本日のケルトのスープも美味しいですわ。」
「今時期のケルトは甘くなっておりますゆえ、スープにすることによってその甘みも増していることでしょう。」
マラノーラ王妃がそう言うと近くにいたメイドさんがそう説明してくれる。 後で聞いた話だがケルトとは元の世界で言うところのトウモロコシだった。
なんでもリューフリオの都市部分から少し離れたところでは農業が盛んになっていて、この国では大体の物がリューフリオ産なんだそうだ。 地産地消って素晴らしい。
次に出てきた肉料理は鴨肉の黒胡椒焼きだった。 見た目の話だけど。 これも美味しかったのだが、ふと気になって王妃の方を見てしまった。 いやなに? こういう固形のものとかってどうやって食べてるんだろって気になってさ。
そんな誰に対する言い訳かを考えていると王妃はなんの不自由もなく普通にナイフとフォークを器用に使って食事をしていた。 これ以上見るのも失礼なのでそのまま食事を続けた。
デザートであるヨーグルトムース (のようなもの)を美味しく頂き、満足感に浸っていると
「飛空殿。 少々いいかな?」
セルトラム陛下からお声がかかった。 手元に手紙があることから食事中に読んだのだろう。 なんか行儀悪い気がするな。
「この手紙に書いてあることの中に「他国に直ぐに訪問できる方法がある。」と書かれているが、これは本当なのかね?」
そう陛下が尋ねてきた。 多分テレポーターの事だなと思い、俺は少し離れたところにあった自分の鞄から端末を取り出す。
「そちらの手紙に書かれている事は本当の事でございます。 こちらの赤い端末を大きなサーバーを持ったデータベースに差し込みますとテレポーター、他国へと繋ぐ道が出来るというものです。 ただしこれ一つでは機能致しません。」
通信機越しでそう説明して今度は紫の端末を見せる。
「これは?」
「こちらは我が国、曜務の情報の入った端末となっております。 テレポーターの端末と国の情報が入った端末、2つを合わせることにより、テレポーターは作動するのです。」
「な、なるほど。 それは我々にも出来るのかね?」
「データベースとリューフリオの情報端末がございましたら。」
そこまで説明すると、セルトラム陛下は少し考え始める。 するといつの間に隣にいたのかナディがなにかを伝えるべく、セルトラム陛下にディスプレイを見せる。 内容は、
『他の国に行けるようになるのはとても面白そうですね。 お父様。 私は色んな国に行ってみたいのです。』
その文字に陛下も困ったように笑うしかなかった。 娘にそう言われてしまっては断る理由はなくなってしまうようだ。
「飛空殿。 この話、我が国もやらせていただきますぞ。 ただ、今は少し待ってもらいたい。 なにぶん今までに無いことをやるからな。 我々としても失敗はしたくない。」
「もちろん。 そちらのペースでやってもらって構いませんよ。 あ、良かったらこの端末を参考にすればいいですよ。」
そう言って俺は紫の端末、曜務の情報が入った端末を陛下に渡す。 まあこの人なら下手に悪用はしないだろう。 出来ないとも言えるかもだけど。
「うむ。 参考にさせてもらう。」
「今日はもう遅いのでお休みになられて? 明日はナディに街を案内させますので。 ナディ? 明日はご迷惑のないようにね?」
そうマラノーラ王妃に言われるとナディは「ピロン」という音を発生させる。 あれが王妃に対する返事のようだ。
「では寝室を用意しよう。 済まないが連れて行ってあげてくれ。」
「かしこまりました。」
メイドさんに連れて行ってもらってある一室に着いて、メイドさんと別れるとベットに吸い込まれるようにフラフラと歩いていき、とても心地よい音楽とともにそのまま眠りについた。




