第161節 陛下と王妃、王女
宮廷には歩いても行ける距離だったのでそのまま歩を進める事10分。 クラーツさん達を含めた俺たち4人は暁に染めた空を背にして建っている宮廷へと赴いた。
「我は騎士団が1人、クラーツ・ハイドベルト!」
「同じく騎士団が1人、ナイン・ゴラテナスだ! 我らが騎士団隊長、フランク・アスター殿はおられるか!?」
クラーツさんとナインさんが別の騎士団の人に話をすると、宮廷門の前にいた騎士団がトランシーバーを使っていた。 そして1分ほどで奥から1人の鎧を着た男性が現れた。
黒髪のサッパリとした髪型で、髭もどこか整えられている風な感じだった。 真面目さ第一みたいな、そんな雰囲気。
「私が騎士団隊長、フランク・アスターだ。 二人ともお勤めご苦労様だった。」
「はっ! 陛下が会いたいと仰られていた方々をお連れしました。」
「ふむ、貴殿らが・・・ 私はこの宮廷にて騎士団隊長をしている、フランク・アスターだ。 お初にお目にかかるな。」
「あっ・・・と、初めましてフランク・アスター殿 自分は曜務の使者 津雲 飛空と言うものです。」
「つ、付き添いの、桃野 白羽、です。 お出迎え心より感謝致します。 フランク騎士団隊長殿。」
そう言って俺と白羽は頭を下げる。 礼って大事だからね。 第一印象は悪くしてはいけない。
「ふむ、曜務からの使者とな。 随分と若いのが使者として来たものだな。」
「ご不満でごさいましょうか?」
「いや、それだけ認められているという事だろう。 ならば納得しない理由はない。 我らが陛下がお待ちだ。 門を開けよ。」
門で待機していた騎士団の人達が門を開けてくれる。 そして門の内側へと入っていく。
「お前達も来い。 知り合った間柄だ。 少しは緊張も溶けよう。」
「心より感謝致します。 フランク騎士団隊長。」
クラーツさんとナインさんと一緒に宮廷に入っていく。 すると4人程だろうか、トランペットのような金管楽器を構えて歓迎の挨拶とばかりに奏で始めた。
「つかぬ事をお聞きしますが、この方達は・・・?」
「簡単に言えば送迎隊だ。 陛下などが外から戻ってくる時に必ずやってもらっている。 ここに来客がある時もそうだ。」
そんなに多い人数でやってないためか宮廷に響く程度で不快にはならない。
「貴殿方には陛下についてひとつ言っておかなければならないことがある。」
「なんでしょうか? フランク騎士団隊長」
「フランクで構わない。 我らが陛下は聴覚を失っておられる。 そしてその奥方様も視覚を失っておられる故、気をつけて接してもらいたい。」
その言葉に少し心苦しく感じた。 聴覚障害に視覚障害。 どんな苦労があっただろうか。 想像もつかない。
そんな事を思っていたらある大きな扉の前に着いた。 どうやらここが王様のいる所らしい。 フランクさんがドアをノックする。
「お入りになられて?」
女性の声がした後、ドアが開かれる。 目の前に広がったのは玉座が2つ、そしてそこに座っている陛下と王妃の姿があった。 するとフランクさんは何かの通信機になにか語りかけた。 そしてその後に膝を付いた。 それに習い俺と白羽も膝をつく。
「陛下、奥方様。 客人を連れて参りました。」
「ありがとうございますフランク。 クラーツとナインもご苦労さまです。 頭をお上げになって?」
そう言って下げていた頭を上げる。 妃様の方は栗色ロングで頭のティアラがとても眩しいが2つの双眸は閉じられている。 どうやって見ているのだろうか? 疑問には思うがそれを聞いたりするほどマナーの悪い人間ではないんでね。
一方の陛下の方も髪は栗色、ちょび髭が生えており、巨躯な体の持ち主だ。 昔は兵隊だったりするのかな?
「初めまして、使者の方々。 私はこの国の王妃を務めております、マラノーラ・リューフリオですわ。 そして隣にいるのが私の夫となります。」
そう言ってマラノーラ王妃は陛下の肩を軽く叩き、ニコリと笑う。
「私がここの国の陛下を務めているセルトラム・リューフリオだ。 私は耳が聞こえないので、通信機を使ってでの会話にご協力を願いたい。 なに、通信機に喋りかければ文字が浮かび上がるようになっている。 そのおかげで文書を書かせずに私にも内容が届くようになった。 時代は移りゆくものだな。」
そう言ってちょび髭を滑らかに触るセルトラム陛下。 なんか貫禄あるな。
「それで、どのようなご要件かな? 曜務の使者とやら。」
「はい。 今回はセルトラム陛下に我が国曜務、そして友好国クリマからの友好同盟を結んで頂きたく思い、手紙のほうをお届けに参りました。」
「ほう、隣国クリマからもか。 どれ、文を拝見したい。 済まないが持ってきてはくれまいか?」
「仰せのままに。」
そう言って立ち上がり階段を少し登った後、セルトラム陛下の手元に手紙を渡す。 触った陛下の手はガッチリとしていた。
「ふむ。 確かに受け取った。 寝る前の一時に読む事としよう。」
「お急ぎの件でもありません故、ごゆっくりとご検討いただけますと幸いです。」
「お主はなかなかに社交的であるな。 好感が持てるぞ。」
「お褒めにお預かり、光栄です。」
そう言って立ち去ろうとした時、顔をシルク生地の手袋で触られ、マラノーラ王妃の所まで持っていかれる。
「え? あの・・・」
「ごめんなさい。 貴方のことを知りたいの。 少し動かないで貰えますか?」
そう言ってマラノーラ王妃は俺の顔を優しく触っていった。 王妃の整われた顔が近いため、ドキドキしてしまう。
「なるほど、社交的と言われた理由が分かりましたわ。 どこか若々しさはあるけれどその中に秘めたる力は、決して他者を陥れる為ではなく、そしてそれに対して傲慢さは一切感じられない。 ふふ、このような方を直に触ったのはいつ以来かしら?」
どうやら目が見えない分、触覚によるものは敏感な様だ。 こうして人を見てきたのだろう。
「す、すみません。 あまり触られるとお身体に障りますよ?」
「あら、不思議な事を仰られるのですね。 面白い方ですね。 ふふふ。」
王妃が手を離すとそのまま逃げるように元の場所に戻る。
「・・・むぅ。 そんなに気持ちよかったの、ですか・・・?」
うわぉ、戻ってきたら白羽が怒ってる。 でも頬を膨らませいるからあんまり怖くはなかったり。
「それではこれは私が預かっておこう。 返事が出来次第呼び戻そ・・・うと思ったが今日は陽がくれてしまったな。 どうかな? リューフリオの街を歩くのは明日にして、今日はここに泊まっていかれては。」
「いいんですか?」
「私達は構わないよ。 それに、紹介したい者がもう1人いるんだ。」
その言葉の後に陛下は左の垂れ幕を見る。 すると、少女が垂れ幕から半分程顔を覗かせてこちらを見ていた。
「ナディ、そちらに隠れてなくても大丈夫だ。」
そう声をかけられた少女がヒョコンと現れる。
「紹介しよう、我らの一人娘 ナディアルテ・リューフリオだ。 親しみを込めてナディと呼んでやってくれ。」
そう紹介されるとナディアルテ、ナディはスカートの裾を摘んで可愛らしく一礼をする。
娘と言うだけあって髪色は綺麗な栗色をしていて、ポニーテールにしているようで、髪が後ろで結ばれていた。 見た目的にはエレアと同い年くらいだろうと感じた。
「えっと、初めましてナディ王女。 私は曜務からの使者、津雲 飛空と申す者です。 以後お見知り置きを。」
そう言って彼女に手を伸ばす。 するとナディはその手を取って握手をしてくれた。 その表情はとても柔らかく、こちらも思わず微笑みたくなるような笑顔だった。
「は、初めまして、わ、私は飛空さんの付き添いの、桃野 白羽、です。」
白羽もぎこちないなりにナディと挨拶をする。 ナディも白羽の手を取って握手を交わす。 そのあたりで違和感を覚える。 ナディは笑顔を振りまいているが、彼女が自分の事を説明していない、つまり自分の事を一言も喋っていないのだ。
「済まないな飛空殿、ナディは幼い頃に病気を患い、声帯を失ってしまったのだ。 目と耳は問題ないので意思疎通は出来る。 不便だと思うが許してやって欲しい。」
そうか・・・人は声帯が無ければ喋れない。 聴覚と視覚を失った親から産まれた声を失った娘。 話を聞いているだけでもすごく心が痛んでくる。
そんな俺の想いが顔に出ていたのか、目の前のナディは先ほどと同じように優しく微笑んでくれた。 そして左腕に付けている機械を作動させる。 どうやら超小型のパソコンが内蔵されているようで、右手で器用にタイピングをすると、電子メールがディスプレイに現れる。
『心配をしてくださりありがとうございます。 私にはこうして伝える手段があります。 そのような悲しい顔をなさらないでください。』
そう書かれていてこの子自身も辛いながらもしっかりとしているようで、心底安心を覚えた。




