第160節 馬車と検問、リューフリオ
生徒会としての仕事も終わって3日後、クリマから出発の準備が出来たとの連絡が入ったらしく、俺は国会議事堂へと赴き、クリマへ行く「テレポーター」を使って一度クリマの地に着く。
「やぁ、飛空殿。 長い間待たせて済まなかったね。」
「いえ、久しぶりの学校生活を送れたので気にしないでください。」
コレン侯爵の謝辞をなんてことの無いように受け止めて、早速その音楽国家 (今後からそう呼ばせて貰う)に向かうための乗り物に案内される。
「楽しみ、ですね。 どんな国、なのか。」
そう言って白羽がニコリと微笑む。
今回の同行者は桃野 白羽なのだが、授業中なんじゃないのと思われるが、俺の同行の条件として、同行して訪れた国での国の印象、出来事、感想を文章に書き起して、大臣に提出する事になっている。 それが授業としての成績に反映されるのだという。 俺も同じようなものなので、学生としての措置だろうな。
そして連れられた場所には馬車があった。 ここでは馬車が主流っぽいな。 まあ車とか使うよりはエコだとは思う。
「今回はこれしかご用意出来なかった。 許して欲しい飛空殿。」
「いえいえ、ゆっくりと国境までクリマを見ていきますよ。」
「そう言って貰えると幸いですぞ。 国境までは半日あれば行けます故、交流発展の件、期待しておりますぞ。」
「ありがとうございますコレン侯爵。 さぁ行こうか白羽。」
「は、はい!」
俺が先に馬車に乗り込み、白羽の手を取り、一緒に乗り込む。 その後騎手が馬に跨り、発進させる。 窓から覗くとコレン侯爵が手を振って送迎してくれていた。
国境ギリギリまで窓から覗き込む景色を見て、白羽が息を飲んでいた。
「どうだい? 別の国に来た感想は?」
「素晴らしい、です。 この国の人達が、元気にしている事が、とても眩しく、見えます。」
そんな曜務が眩しくないみたいな言い方せんでも。 でも他国の文化を見ればその分色々と魅入っちゃうよな。 その気持ちは分からんでもない。
そんな感じで馬車に揺られていると、騎手の人がこちらに向かって話をしてくる。
「済まないが二人とも、一度降りて貰えるかな?」
そう言われてしまっては従うしかないのでそそくさと馬車から降りる。
「どうしたんですか?」
「いや、大した事じゃないんだ。 国境だから馬車の中身と我々の身体検査が行われるんだ。」
あぁ、セキュリティ的な問題ね。 それならしょうがないわ。
向こうの検問の人に身体検査と身分証明をして、馬車の中に不審なものが入ってないと分かるとそのまま通してくれた。
「済まないね。 わざわざこんな事させて。」
「いやいや、検問なら仕方ないですよ。」
そう言って馬車は高原をひた走る。 国には入ったが、都心ではないので、そこまでの案内となるのだ。
そしてそんな高原を走ること30分。
「見えてきたよ。 あれが音楽の街 リューフリオだ。」
高原に佇んでいるその街は、まさにアニメとかに出てくる王都の風貌だった。
リューフリオに入るための手続きをしてもらって、跳ね橋が降りてくる。
「それでは我々はここまでのお見送りとさせてもらうよ。 今日はもう遅くなってしまっているから、先に宿を手配しておいてくれ。 あぁ、それとこれを。」
そう言って騎手さんから書類とメダルを貰った。
「書類はリューフリオとクレマを繋ぐ話とテレポーターの件などが書かれている。 もちろん津雲殿の話も乗っている。 そしてそちらのメダルは、我々の国からの使者という意味を表している。 騎士団の人に話せば、大抵は話を付けてくれるんだそうだ。」
「今回の件は、我々の国にとっても有意義に働くものです。 国王もきっと納得してくれるでしょう。 我々の国王は感慨深いのです。」
跳ね橋でずっと待機しているのであろう騎士団の人が敬礼しながらそう話してくれる。 優遇されてる訳ではないが、ここでは甘えさせてもらおう。
「ではお二方、こちらに。」
もう1人の騎士団の人に案内されて、門の内側へと入る。そして騎士団を含めた俺たち4人が入ると跳ね橋はこちらに上げられた。
「我々もちょうど交代時間だったので、せっかくなので案内させてもらおうと思います。 私は騎士団が1人、クラーツ・ハイドベルトでございます。」
「同じく騎士団が1人、ナイン・ゴラテナスであります。」
騎士団の帽子を取ってもらって挨拶が入った。 背が高く、金髪トンガリ頭で猫目な方がクラーツさん。 背が低く、黒髪天パでタレ目な方がナインさんだ。 こうやって見ると猫と犬みたいに見えるな。 気にしてそうだからあんまり言う気は無いが。
「ではここで税関に行ってもらい、通貨を変えてもらいましょう。」
ああそうか。 外貨両替をしなきゃしなきゃいけないんだったな。
忘れていたがここは曜務ではない。 であればそちらの国の通貨に合わせなければいけない。 アスベルガルドの時は曜務でのお金が使えたし、クリマの時はエレアがいたからお金の事、あんまし気にしてなかったな。
税関に行って、今持ってる曜務の通貨とリューフリオで使う通貨を交換してもらう。
ちなみに曜務で使われている通貨単位は「錬」になる。 まあ日本で言うところの「円」になるから、感覚はほとんど同じ感覚で使える。 リューフリオでの通貨単位は「トラン」。 しかもほとんど硬貨なので覚えるのが簡単だ。
今持っている所持金の4分の3位渡してそれが倍近い金額になって硬貨袋に入れられた。 どうやら通貨レート的には1錬=2トランの様なのだ。
「それだけあればここでは困る事はないですな。」
「しかし曜務という国ではお金に紙幣を使うのでありますか。 不思議なものでありますなぁ。」
どっちかって言うと全部硬貨で統一しているそちらの方が珍しい気もするが、感性や感覚の問題だろうか? まあ別世界での事なので詳しくは追求せんがね。
税関から出るといきなりクラシックな音楽が響いた。 歓迎のセレモニーかと思ったが、どうやら違うようだ。 この国では音楽を流す事でリラックス効果を狙ってんだそうだ。 なんか聖地で流れるそれみたいだな。
音楽の国 リューフリオ。 この世界での名曲を生み出した作家はここの生まれが大半だと言われている。 そしてこの国自体も呼応する様に音楽の発展を成し遂げて行ったそうな。 なんか中世ローマっぽい話だな。 知らないけど。
「この国で流れているのは、国歌だったり有名な作家の曲だったり、今流行りの曲だったりと様々なジャンルの曲が流れてきます。」
クラーツさんがそう言ってる間に沈黙が訪れたと思ったら、今度は軽快でポップな感じな曲が流れてきた。 なんか街の雰囲気と微妙にあってない感じがするが、これも醍醐味なのだろう。 どっちかって言ったらクラシック音楽の方が雰囲気に合っていて好きなんだがな。
「なるほど、音楽とは情景を表しているとも聞きますな。 そう言われてみれば確かにちょっと似つかわしくないかもしれないですな。」
「別に全否定する訳では無いのですが、まあそんな感じかなと思いまして。」
「いい感性の持ち主でありますな。」
ナインさんに笑われてしまった。 音楽鑑賞は嫌いではないので、雰囲気も含めて楽しませては貰ってるけどね。
「では立ち話もなんですし、この街を・・・む?」
クラーツさんがなにかを言いかけた時、急に耳元を塞いだ。 多分トランシーバーかなにかがあるのだろう。 数分としないうちにクラーツさんが戻ってきた。
「津雲殿。 どうやら陛下があなたが入ったことをお気付きになられたようで、宮廷の方に来て欲しいとの通達が入った。」
「え? この時間にですか?」
どうやって俺達が入った事が分かったんだろう? どこかにカメラでもあったのかな?
確かにこういうのは早いに越したことはないんだけど、今はもう夕方位だし陽が落ちかけてるから明日に改めたかったんだけど・・・
「まあ、向こうから言ってきてるなら無下には出来ないよな。」
呼ばれてしまっては行くのが筋だよな。 ここの国の人は非常識なのだろうか? いやそうじゃないよな。 ・・・そうじゃないよな? 陽の沈みかけている空を見ながらここの国のお偉いさんの事を考えた。




