第159節 影からと諦め、躾
「一体何に攻撃されたのでしょうか? 塚沼君は津雲先輩とすれ違っただけでしたが、そこになにかからくりがあるのでしょうか?」
「一瞬だったからな。 さすがにこちらでも目に捕えられないものを見るのは難しいな。」
莉穂ちゃんの疑問に倉俣先輩が同じように疑問で返す。 さっきの攻撃、飛空さんでも分かっていない様子でした。 後ろから攻撃をされたという情報しかないですし、何よりも全身に対する攻撃ではなく足のアキレス腱辺りを狙っての攻撃なので、正体が掴めないままのようです。
「これは・・・津雲先輩がいかにして塚沼君の攻撃を避けるかにかかってますね。」
「あぁ、簡単に負けんじゃねぇぞ。 津雲。」
彼に逆境なんて言葉はありませんが、今の彼は正しくピンチと言ったところです。 贔屓するつもりはないのですが、やはり飛空さんには勝ってもらいたいです。
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塚沼との対峙を終えた俺は貨物船に乗っていた。 俺にこうして驚かしたにもかかわらず、追撃をしてこなかった。
「さてさて、こっちはどう動くかねぇ・・・」
足は抱えているが、電脳世界なので身体に直接のダメージはない。 ないのだが、先程の事があり、ゾッとしてしまう。 相手と距離を置いたので、今回の武装、遠隔機関銃のロックオン機能を使って、望遠鏡のようにブリッジからコンビナートに隠れた塚沼を探す。 遠隔機関銃ならそのまま狙って撃てるしね。
そう思いながら探していると、ひとつのコンテナの影に塚沼を見つける。 相手としてもあまり近づきたくないのかもしれない。
ならばこちらから近づくしかないのだが、船とコンビナートの間はそれなりにある。 先程の謎を解かない限りは迂闊には近づきに行けない。 前方を見つつ後方にも目を配る。 振り向いた瞬間に一筋の光が目に差し込んだ。
「ぐわっ!」
その光を浴びて反射的に仰け反る。 すると風切り音とともに何かが飛んで行った。 ナイフだ。 ナイフが後ろから飛んできていたのだ。
しかし後ろには壁と陽の光に浴びせられている俺の影しかない。 仕込んでいたにしても、ここまでピンポイントに俺を当てようと思うのはまず不可能に近い。 ならなぜ後ろからナイフが飛んできたのか。
「・・・影・・・もしかして・・・!」
ある過程に辿り着いた俺はまず、ドアのある場所に行ってドアを開ける。 すると自分の影が日の入り加減もあり、ほとんど倒れた状態の影になる。 そして後ろを警戒しながら遠隔機関銃のロックオンで塚沼を探す。 見つけた後に影を後ろ目で見ると、ナイフがキラリと現れる。 そして俺の顔面めがけて飛んでくる。
「分かりかけてきた・・・! あいつの武器のカラクリが!」
そう言って甲板から思い切り飛び降りる。 そしてそんなに離れていない船の側面を見て、レールガンを構える。
「ここからなら!」
そう言ってレールガンを放つ。 「ガンッ」という船の側面に当たった音が虚しく響いた。
「・・・っ! そこまでは都合よくないか。」
空中ダッシュをして道路の部分に着地する。 そして今は真正面に来ている影を見下ろしながら、
「影から武器で攻撃する。 なるほど、普通なら出来ない芸当だ。 いつ仕込んだんだい?」
気配で後ろにいることが分かっていた塚沼に話を振る。
「僕の「シャドーアサシン」は相手の影と自分の影を重ねる所で発動する武装です。 なので津雲先輩とすれ違った時点でもう発動はしていますし、この武装は本来敵の影を利用するので、乗り換えをしながら翻弄するのですが、今回は津雲先輩1人なので下手に出ることも無く戦えるという訳です。」
シャドーアサシン、影の暗殺者とは洒落が聞いてるな。
「しかし近づいてきて良かったのか? そんだけ闇討ち特化した武装だ。 出てきたら意味が無いだろ?」
「先輩には遅からず気づかれると思っていましたし、タネが割れたので正直僕に勝ち目はないんです。」
「だからせめて真っ向勝負でって事か?」
「まあ、そういう事です。 諦めも時には肝心ですよね?」
「そこまでやったんなら諦めないで欲しかったものだがなぁ・・・」
今回の俺の武装は攻撃的なものだったので、シャドーアサシン抜きの塚沼は一般生徒よりも人の心理が上手く、相手の行動の先読みがしやすいと言うだけで、元々の戦闘力はあまり無いようで、防戦一方だったところに俺が間髪入れずに攻撃を叩き込んだことでゲームセットとなった。
「あーあ、負けちゃったよ。」
「あなた、途中からやる気なくなってなかった?」
「いやいや、あれが限界だよ春元さん。 津雲先輩が強すぎるんだってば。」
「なんだか怪しい・・・」
一年組が会話を始めたので声をかけるタイミングを見失ったが、言わなければ話にならないので、遮るように会話に割り込む。
「まあとりあえず俺の条件はクリアしてたから塚沼も生徒会に就任させる。 これで生徒会の一員になったぜ。」
「ありがとうございます。 津雲先輩。」
そう言ってお辞儀をする塚沼。 こいつも若干堅いな。 それともこれが処世術なのかな?
ちなみに俺の条件は「普通ではない戦い方をしてみせろ。」だった。 武器が特殊ならばそれは無条件で満たしていたので、合格となった。
「いよいよ僕の出番という訳ですね! 僕も二人に追いつくよ!」
ずっとうずうずしていた滋賀凪がそう言ってブリーフィングルーム入っていく。 ほんとにあんなんで大丈夫なのか?
「倉俣先輩。 いくら相手が話を聞かなそうだからって叩きのめす様なことをしないで下さいね?」
「津雲、俺をなんだと思ってるんだよ。 大丈夫だって。 多分ああいう奴の戦い方は目に見えてるから。」
目に見えてる・・・か。 なら後は倉俣先輩に任せよう。
場所は工場地帯。 高さの違うパイプラインが射線を鈍らせる、そんなステージだ。
最初はお互いに様子見と言った感じで進んでいたが、滋賀凪が倉俣先輩を見つけると狙いを定めて銃口を向ける。 そして放つ。 しかし弾は当たらず、先輩の後方へと飛んで行った。 と言うか倉俣先輩は動いてないのになぜあそこで外してしまうのか。 和田のオーディオを使ってるわけじゃないのになぜ当たらないのか。
「あいつ・・・もしかしてノーコンなのか?」
「と言うよりも多分自分一人では力が発揮出来ないタイプですね。 典型的な連携タイプです。 一対一にはすこぶる弱いかと。」
俺の考察に塚沼が新たに説明をする。 なるほどね、「勘違い」ってそういう事か。 みんなと戦っていることが自分の実力で出来ていると勘違いしていた訳だ。
そんな感じで滋賀凪を見ていると、一対一では照準が合わないのかさっきから当てられる場面で当てれてないし、逃げるにしても一直線って感じで、なんだか見ているこっちが哀れに感じてしまう。
そんなこんなで倉俣先輩の一方的な試合運びによりゲームセットとなった。
「なんでですか・・・? どうして、僕は負けたのですか?」
おう、あんだけ自信満々だっただけにショックがデカすぎたか。
「今回のお前の態度を改めさせて貰ったぞ。 どうやらお前は味方との連携による戦い方を自分の力だと過信し過ぎていた節があったからな。 だから今回の一対一で、君の本来の力を自分で分かってもらうように立ち回った。」
「僕が・・・僕が、弱いというのですか・・・?」
「それは断じて違う!」
自虐思考に走りかけている滋賀凪に倉俣先輩が喝を入れる。
「お前の戦いは最初のレクリエーションの時に見させてもらったが、お前は味方との連携に関しては変な話かもしれないが津雲以上だと俺は感じた。 だから個人の力を上げれば高みは目指せれるはずだ!」
「・・・はい! 僕も頑張って行きたいです!」
「よし! その意欲も生徒会としては必要だ! 生徒会に入り、その力を高めようぞ!」
「よろしくお願いします!」
あの傲慢さが削がれたのか、倉俣先輩に従順に従う生徒として完成した。
「ところで倉俣先輩。 彼の連携プレーが俺に勝ってるって本当ですか? その試合を詳しく見ていなかったので分からないのですが。」
滋賀凪に聞こえないように小声で倉俣先輩と話す
「連携自体はなかなかに強かったが、お前に勝ると言ったのは方便だ。 変な話だがお前に勝るとは思ってないさ。 少なくとも俺はな。」
えぇ・・・ 嘘も方便ってか。 意外にも倉俣先輩が生徒会長に向いているんじゃないかと思ってしまった今日この頃。




