第158節 試験と魔導書、港
次の日の放課後、新生徒会メンバーを含めた俺達8人は電脳室に来ていた。 もちろんこれから戦いを始めるためである。
「では今回それぞれに戦ってもらう相手を発表しよう。 まず一試合目は春元対山本、二試合目は塚沼対津雲、最後の試合に滋賀凪と俺で戦う。 こちら側からはそれぞれ生徒会に入るための条件を出しているが、それは対戦相手によって違うし、こちらから公開はしない。 自分が認められる為に全力で我々と戦うこと。 それが生徒会から出す最初の課題だ。」
みんな真剣に聞いているようで何よりだ。 質問もない所をみると、異論は無いようだ。
「では早速で悪いが、春元と山本はそれぞれの部屋に入り、電脳世界での対戦準備をしてくれ。」
そう言われて、夭沙と春元はそれぞれのドアに手を取る。 入り口に入ろうとした所で、
「二人とも、頑張れよ。」
俺が二人にエールを送る。 二人とも振り返り、夭沙は手を振り、春元はお辞儀をした。 さてさて、どんな試合になることやら。
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閉じた瞼から光が差し込むのを感じて目を開ける。 先程までいたブリーフィングルームから景色が変わっていた。
今回は高層ビル地帯のようね。 私はその高層ビルのてっぺんに立っていた。
「莉穂ちゃんはどの辺に着地したかしら?」
ロングスタイルのリモコンスナイパーのカメラ部分を使って一箇所一箇所調べていく。 この武器は射程こそどこまでも行けるけど、カメラをひとつしか使えないので、目に見えない部分には効果がないという弱点がある。
「今回も一対一だからよく分かるんですけどね。 ・・・見つけた!」
チラリとビルの影から見えた。 多分あちらも私のことは見えてるはず。
「ならこちらから行きましょうか。」
高層ビルから降りて、シュートミサイルを構えながら近づいていく。 顔が見えた! 牽制のために一度ミサイルを放つ。 土煙が発ったのを確認して一気に近づく。 その先にいる! そう思いシュートミサイルを構えていたら、そこにいたのは莉穂ちゃんではなく、ゴテゴテとした機械だった。
「えーっと、あれって「タレット」って言うものでしたっけ?」
「その通りです山本先輩。 私の武装は少々特殊なのでひとつひとつ見せていこうかと思いまして。」
莉穂ちゃんそう言った後にタレットから弾が発射される。 弾は直線的なので、避けるのは容易いものだった。 そしてその後莉穂ちゃんがそのタレットに手をかざすとタレットはまるで本のように折りたたまれて、その後すぐに本の形になってしまいました。
「私の武装は簡単に言えば魔導書です。 もちろんひとつで複数の事は出来ません。 ですがひとつの本で複数のパターンがあるので、状況に応じて使い分けが出来ます。」
「それを敵の私に話してもいいのかな? この時点で私が対策を考えるかもしれないですよ?」
「構いません。 私としても、一対一とはいえフェアじゃないのは好ましくないので。」
ほんとに真面目ですね。 でもその精神論は嫌いじゃないですよ。
「私も彼らほどではないにしろ、津雲先輩を尊敬をしています。」
「ほんと、飛空さんっていろんな子に慕われてますね。 なんだか鼻が高いです。」
「なので、私も津雲先輩に認めて貰えるように山本先輩。 あなたに全力の私を見てもらいます!」
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「なあ、気になった事を聞いてもいいか?」
「はい! 津雲先輩からの質問なんてなかなか受け取れるものではないので・・・」
「いや君に聞いたんじゃなくて。」
勝手に暴走する滋賀凪を無視して、塚沼に聞くことにする。
「俺って新入生の間でなんでそんなに有名になってんだ? 学校行事に貢献したとはいえ、ここまでなのはおかしくないか?」
「それは津雲先輩は新入生にとってはカリスマ的存在だからです。 去年の行事やら出来事やらを少しでも知っている同級生は「津雲先輩に認められたい。」「津雲先輩のようになりたい。」という人が大半だったりします。 ここにいる僕達も津雲先輩に認めて貰いたいと思い、生徒会に立候補したのです。」
「そのわりには積極性が足りない気もするがな。」
「尊敬すると同時に到底届かない存在だと思っているからですよ。 全く理想が高いんだか低いんだかって感じです。」
その話を聞いて凄く複雑な気持ちになる。 慕ってくれるのは大いにありがたいのだけれど、人を神だかなんだかと勘違いしてないかい? もっとお願いする相手いるでしょ。
「ほぉー。 破いた本が形あるものに変わったぞ。」
「あ、あれで飛び道具を作るのね。 で、でもページ自体は、そ、そんなに多くないわね。 い、一気には出せない、か、感じかしら?」
「いいですねぇ、 あの本。 想いをそのままぶつける感じがしてぇ。」
「ぶ、ぶつけてるのは、け、結構痛そうなものばかり、だ、たけどね。」
おっと、モニターから目を離してる隙に色々と戦局が動いていたようだ。
どうやら春元は「本」を武器に戦っているようだ。 ある時は最初には見せたタレットの入ってる本を取り出して展開し、またある時はショートスタイルなのだろう、小さな本から光の小さな槍が飛んでいく攻撃にしたり。 はたまた本を破り、投擲物を作ったりと・・・まあ結構な奇術めいた事をなさっていたのですが、最後は押し切られて夭沙の勝ちとなった。
「ふぅ。 負けてしまいました。 やっぱり山本先輩も強いです。」
「私も危なかったけれど勝てて良かった。 条件も満たしたので生徒会に就任します。」
「ありがとうございます。 山本先輩」
「良かったな。 春元。」
「津雲先輩もありがとうございます。」
どこか堅苦しさはあるが、彼女の個性だと思えば真面目さも悪くは無いと思える。
「では次は塚沼と津雲だ。 二人とも、準備の為にブリーフィングルームに入ってくれ。」
自分の番になったので、俺と塚沼もドアに向かっていく。
「飛空さん、 頑張って下さいね。 塚沼君も全力で!」
「津雲先輩、応援してします。 塚沼君も津雲先輩の気迫に負けないように。」
夭沙と春元からの応援を貰い、二人で入っていき、ブリーフィングルームに入り、そのまま景色が変わる。
今回のステージは港のようだ。 場所としては積み荷を下ろすような船が停まっている。 もちろんあの船に乗ることも可能だ。
俺はコンテナの所から始まったので、逆サイドは船のところになる。 塚沼はそこにいるだろう。 春元は慎重に来ていたが、塚沼はどう来るか・・・
そんなふうに見ていると船から塚沼が降りてきた。 そして俺を探すようにあちこちを見ている。
「結構動き回るんだなぁ。 まあ動き回った所で見つけられなきゃ意味は無いんだけどな。」
せっかくなので少しずつコンテナをかいくぐりながら塚沼に近づく。 そして最後のコンテナの所まで来たところで、こちらも準備をする。 そしてコンテナから姿を出して、構えるのが遅れたであろう塚沼の方に近づいて行く。
「警戒していたのは正解だけど、武器を構えてないのは・・・なっ・・・!」
敵に見つかったので人間の心理的に考えて、一度距離を取るものだと思っていたのだが、目の前にいる塚沼は逆にこちらに向かって突っ込んでくるかのように走ってきた。 それに反応が鈍り、攻撃する事が遅れそのまま素通りされてしまう。
「・・・人間の心理の裏を付いてくるとは、さすがだな。」
「伊達に心理学を読んでいたわけではないので。 それに今あなたは僕と交わしましたね?」
塚沼が不穏な雰囲気で俺に語りかける。 なんだ? あの交わした一瞬で何をしたんだ?
そんな事を考えながら塚沼を観察していると、
「ザシュッ」という音が後ろからした。その瞬間にバランスが崩れる。
「なっ・・・!」
どこからの攻撃か分からず足元を見てしまう。 しかし後ろにあるのは自分の影だけ。 一体何が起こったのか分からなかったが、どうやらこの試合、なにかカラクリを仕掛けられた。 このカラクリを解かなければ勝てないと確信を持った。
まあこれ生徒会就任の試験だから実際はどうでもいいんですがね。




