第155節 部屋立てとラジコン、冷却機
「へぇ、その子達随分あんたのこと慕ってるみたいじゃない。」
みんなのこの後の予定の事で話し合いをしていたが、今回はサークルの参加をすると言ったら紅梨がそんな事を言ってきた。 夕方の時間帯は食堂利用者はあまり多くない。
そのためこうして計12人で集まってもなんら支障がないのだ。
「ええなぁ。 飛空と雪定の所はすぐに入ってきて。 俺のところ一切そういうの無かったで?」
「まあ普通に考えて、サークルって行くのもあるけど、誘う方が自然なんじゃない?」
「誘われるサークルも、ひとつじゃない、ですし、行きたいサークルに、行けばいいんです。」
輝己、鮎、白羽が新入生のサークル移動についての意見を述べる。
「まあ、入ったところでまともなサークルならいいんだけどね・・・」
「あんたの場合は・・・まあ・・・ドンマイとしか言えないわ・・・」
「なかなかどんなサークルなのかまでは分からないですからね。」
海呂が落ち込んでる所を紅梨と夭沙が宥める。
「まあ教えるって言ってもアドバイス程度だせ? それ以上の事は自分で考えてもらうさ。」
「それが1番いいわよ。 全部教えちゃったら意味無いもの。」
俺の意見に文香が同意する。 後は下手に教え過ぎると彼らのためにならないって言う理由もあるんだけどな。
そんな感じで久しぶりにみんなで夕飯を食べ、寮の風呂で入浴した後に変わらない自室に置いてあるサンバイザーを装着して、曜務学園プライベートルームへと来る。 そして「ミステリアスサークル」の文字をつけてルームを作り、中に入って待機する。
それから数分後、ドアが開かれて現れたのは、
「やぁ、久しぶりだね。 なんか別の国に行ってるって聞いてたんだけど。」
俺の1つ上である八ツ橋先輩だ。 八ツ橋先輩にもその情報は入ってるんだ。
「僕も生徒会の人とは縁が少しあってね。 それで君のことを知ったんだよ。 今は大丈夫なのかい?」
「ええ、今は大臣が他国と交渉をしてるみたいなので、少しの間はこの国にいます。」
そんな他愛のない話を交わす。 そして少し疑問を感じる。
「そう言えば関先輩は? 一緒じゃないんですか?」
「今日は彼女は来ないよ。 というか僕と彼女が常に一緒に行動してる訳じゃないからね?」
おっとすみませんでした。 よく2人でここに来ていたのでてっきり・・・
今のミステリアスサークルにも当然卒業して行った人がいるため、人数は減っている。 二川先輩と糸門先輩もここの卒業生となった。 たまにOBとして来るとかって言ってたらしい。
「それにしても君がここを立てるとはね。 なにかあるのかい?」
「まあ、新たなサークルメンバーの紹介って言った所でしょうか?」
「へぇ・・・」
八ツ橋先輩は顔には出さないが、声はかなり上擦った。
「えっと、ここで合ってるのかな?」
そんな事をしていたら、1人目が入ってきた。 武装ラジコンを運用していた新美 蒼人だ。
「ここで合ってるぜ。 ようこそ「ミステリアスサークル」へ、ってな。」
本来は俺の台詞ではないが、ここでは俺がちゃんと言う。
その後に狩屋、阿東と来て、最後に和田が入ったところで全員となる。 関先輩は欠席、雪定も用事があるとの事で今回はいない。
「さて、みんなに武装を見せてもらう前にまずはここにいるお方をご紹介しよう。 八ツ橋 斗蔵先輩だ。」
「八ツ橋 斗蔵だ。 君達の2つ先輩になる。 名前から察してくれると嬉しいんだけど、このサークルは適正検査の中で、一風変わった武装となった人達を集めて、可能性の視野を広げていこうっていうサークルモットーの元設立されたサークルなんだ。 結構古い代からあってね、歴史はこの学校のサークルの中では一、二を争う長さだよ。」
自分の自己紹介と共にこのサークルの説明をしてくれる。 へぇ、そんなに長いのか。 このサークル。 学校の資料には載らない情報だからそこまでは知らなかったな。
「さて、君達は津雲君の紹介で来てもらったわけなんだけども。 早速で悪いんだけどどのような武器なのか教えてくれないかな?」
そう八ツ橋先輩が言うと、新入生組は先頭の譲り合いが始まった。 おい、そこは即決しててくれい。
「あ、そ、それじゃあ俺から行きます。」
先頭は新美だった。 彼の武器のひとつはラジコン操作による遠距離支援だ。 ただし、この武器の使用中は自分は全く動けないんだそうだ。
「なあ、それってその形で固定なのか?」
「いえ、そういう訳では無いそうなのですが、イメージしやすかったのがこの形なので、使ってるだけです。」
「なら他のものを考えてみたらいいんじゃないか? 車体を低くするとか、銃の形を変えるとか。」
この手のタイプは多分脳内でイメージしたものを投影して、そのまま形として存在させてるに過ぎない。 ならイメージを変えれば・・・ そう考えているうちにラジコンが現れた。 形として出てきたのはフォーミュラカーだった。 これなら車体も低いし、何よりも速度が出る。 多分曲がるのは難しいと思うがな。 そして気がついたことがある。
「あれ? 銃はどこにあるんだ?」
「ああ、それはですね。」
そう言って銃が車体横から現れた。 銃もハンドガン位の小ささになっていた。 なるほど、収納式にしたのか。
「でも大きさはこれが限界みたいです。 もう少し大きいのをイメージしたのですが・・・」
「車体の大きさに依存する感じのようだな。 でもこの感じで行けば、場面にあった使い方が出来るはずだ。」
「はい!」
「よし! それじゃあ次は・・・」
「わ・・・私が・・・!」
そう言ったのは阿東だった。 確か冷却機だったっけ?
「その冷却機、地面を凍らすだけなのか?」
「いえ・・・一応時間はかかってしまいますけど・・・相手を一時的に凍らせることが・・・出来ます。」
「でも相手もそんなの待ってはくれないからなぁ。」
そう言うと阿東はしょぼくれてしまう。 すると構えていたので見えなかったが、左の方になにか出っ張りのようなものが見えた。
「ん? これはなんだ?」
「ひゃっ!」
その出っ張りを触ろうとしたせいで、阿東の手に触れてしまったらしく、阿東が声を上げてしまう。
「うわっ! すまん! なぁ阿東。 この出っ張り、何か分かるか?」
「あ、えと、私にも・・・よく分からない・・・んです。」
「ふーむ、引っ張ってみてもいいか?」
「あ、はい・・・大丈夫だと・・・思います。」
許可も得たので、引っ張ってみる。 すると「キュキュキュッ」とどこかで音がした。 銃の所からしたのは分かるがどこかまでは分からない。
武器をくまなく見てみると、変わった部分が一つだけあった。 それは銃口の中の部分、ライフリングの部分が銃口の大きさよりも明らかに小さくなっていた。
「ライフリングは確か銃口と同じ大きさに作られるはずだ。 それが狭まったってことは・・・」
考察していると、「ジジッ」という音がした。 振り返るとそこには今まではいなかった場違いなウツボカズラがそこにいた。
「え!? なにあれ!?」
「今まであんなのいなかったのに!」
「は・・・はわわ・・・」
「ど、どうすれば・・・」
ウツボカズラを目の当たりにして慌てふためく新入生4人。 あ、ポイズンノイズの事はまだ知らせてなかったのか。
「心配するな。 あれの敵なら距離を取れば大丈夫だ。 それよりも丁度いい的が来たな。」
そう言って阿東の方を向く。
「阿東、あれに向かってその銃の引き金を引いてくれないか?」
「え・・・? でも・・・私のこの武器じゃ・・・」
「大丈夫。 俺の見立てが間違ってなければあの敵に当てれるさ。」
「・・・わ・・・分かりました・・・ やってみます・・・。」
半信半疑ながらも引き金を引く阿東。 すると銃口から出てきたのは戦いの中で見せた冷気ではなく、「ピキピキ」という音ともに鋭利な形をした氷の塊が現れて、敵に向かって飛んで行った。
するとウツボカズラは口の部分に当たったのだろう、その部分が氷漬けになっていた。 あれじゃ動かす事も出来なさそうだな。 そんな事を見ながらウツボカズラにトドメの一閃を食らわして、片付ける。
「先輩・・・今のは・・・」
「どうやらその武器、銃口のライフリングの大きさを変えれるみたいだ。 で、ライフリングが狭まっている時にはあんな感じで氷柱になって飛んでいく武器だったみたいだね。」
「凄い・・・です・・・! これなら・・・遠くからでも・・・戦えます・・・!」
喜んで貰えて何よりだ。 まあそんなに近くにあるのに気づかなかったのかな?って疑問には思うけれど、まあそれは言わないでおこう。
「先輩! 次は私、お願いします!」
2人を見てなのか狩屋が食い気味にやってきた。 本来なら発案者でもあるなら最初に来るべきではないかなと感じた。 複雑な気持ちになりながら狩屋の武装を確認し始める。




