第149節 王子と婚約者決定、決闘の申し出
「・・・いきなり入ってくるのは些か礼儀がなっていないのではないか? ワーライド王子?」
「ハッ! これは失礼致しましたコレン侯爵。 しかしこのワーライド・ダレイオス。 エレイダルト姫が帰ってきたと知り、いても立っても居られなくなってしまいまして・・・」
朱色でオールバックの髪型をしている高身長の青年、ワーライド王子は一度礼儀正しくなるが、またすぐにオーバーリアクションをとる。 根は悪いやつじゃないんだろうな。 多分。
「これはワーライドがご迷惑をかけましたな。 コレン侯爵。」
後ろから現れたのはワーライド王子と同じような朱色の髪をして、こちらは少し薄めになっている。 ワーライド王子よりも背は低いが、威厳はあると言った感じの雰囲気だ。
「それよりもエレイダルト姫。 私は去年君が曜務に学びに行ってから君の事が忘れられなくてね。 前に帰ってきた時は我々も同じように新春の儀をしていたので、次に会えるのは何時になるのかと不安だった。 しかしこうもお早い再開が出来るとは思っても見なかった! さぁ、私に存分に・・・」
そんなオーバーリアクションをとる王子とは引き換えにエレアは俺の後ろに隠れてしまった。 そこまで怖がる事無いんじゃないか? いや急にあんな風にリアクション取られたら流石にビビるか。
「む? なんだね君は? 何故エレイダルト姫を庇う?」
「俺は津雲 飛空。 曜務からの使者だ。 というかエレアが怖がってるじゃないか。 もう少し落ち着いて話したらどうだ?」
「エ、エレア、だと? 貴様! その御方が誰か分かっているのか!? この国を担う姫君をそのように軽々しく・・・」
「これはエレアからの注文なの。 そっちの方が呼びやすいし、親しみが持てるんだってさ。 今のあんたにはそう言ってないって事はなりふり構わずって訳じゃ無さそうだけど?」
「ま、また・・・!」
「コレン侯爵、このような者はあまり宜しくないのでは無いですかな? いくら友好関係のある国の使者とはいえ、姫君をそう易々と親しみを込められた言い方をなさられるのは。」
「それも一理あるな。」
「確かにこちらにもそれには非がありました。 軽々しく呼んでしまって申し訳ございませんでしたエレイダルト姫。」
「う、うむ・・・?」
普段言われ慣れてない方で俺が言うのでエレアは困惑を極めていた。 ゴメンなエレア、今回は我慢してくれないか?
「このようにエレイダルト姫は誰彼構わずに愛想を振りまいてしまうのです。 ですから婚約者候補としてではなく、正式に婚約者として・・・」
「・・・ふむ。 確かにこれ以上厄介な者が付きまとうよりは幾分マシか。 候補としてではなく、正式な婚約者として迎えてしまうのも悪くはないか。」
「コレン侯爵、決心がついたのですな。 それでは大々的にワーライド王子との婚約発表を・・・」
ワーライド王子の父親がそう言い終わる前にコレン侯爵は俺の隣に来て俺の両肩に手を置く。 え? なに?
「エレアの婚約者は曜務の使者であるこの彼、津雲 飛空君に決定することにしたよ。 これは私も承知しているし、何よりもエレア自身が選んだことだ。 これ以上の文句はあるまい?」
その言葉でニカリと笑うコレン侯爵。 うわぉ。 大胆な行動に出たなぁ。 同じ国の王子に対しての宣戦布告みたいになってるわ。 かたや一王子、かたや一高校生。 どちらが有益かなんてものは分かりきっているこ事のはずなのにな。
「なっ! ば、馬鹿な! 正気ですか!? 侯爵! 一国の使者なぞが婚約者などと・・・!」
「だから言ったであろう? エレア自身が選んだこと。 民はもとい、娘の意見も尊重出来ぬほど、私は偉くはないぞ?」
一国を担う人材としてそれはどうなの? とは思うがこの王子にエレアは任せられないと思うのもまた一理ある。 当の本人は王子としては名状し難いくらいに顔が怒り顔に崩れきっているがな。
「そこの貴様!」
そして矛先が俺に向けられた。 急な大声でビックリしたがこういうタイプの言いたい事は大体想像出来る。
「津雲 飛空と言ったな!? 私という存在を差し置いてよくもエレイダルト姫の婚約者になれたものだな! エレイダルト姫は私の婚約者候補なのだぞ!? よくもぬけぬけと私の婚約者候補を奪ってくれたな!?」
「貴方から奪った覚えはないし、そもそもエレイダルト姫はあんたを婚約者候補として考えてなかったんじゃないのか?」
「うるさい!! 貴様に指図される筋合いはない!」
そう言ってワーライド王子は手袋を脱ぎ始め、そしてそれを地面に叩きつける。 俗に言う決闘の合図だ。
「私は文武両道、常に優れている! 最近覚えた銃術もある。 貴様の得意なもので決闘を挑ませてやる!」
そう言って俺を指差す。 どうやら相当ご立腹のようだ。 そんな事を思いながら俺は床に叩きつけられた手袋を拾い上げ、
「ならその銃術で戦いましょうか。 自分も少しばかり自信があるのでね。」
「ふん! いいだろう! 決戦は明日にする事にしよう! 場所は国立公園でだ! 時刻は明朝! あそこなら広いグラウンドがある! 精々自分で選んだ決闘方法に後悔する事が無いようにな!」
そう言ってワーライド王子とその父親は部屋から出ていった。
「・・・済まなかったな飛空殿。 面倒な事になってしまって。」
「まあ、いきなり候補に上がってなかった人物がいきなり婚約者になってしまったら候補者なら怒ってしまうでしょうね。」
「まあそう思っているのは実際は向こう側だけなんだがな。」
ありゃ、そうなのか。 ってことは向こうが勝手にそうなるって決めつけてるだけって事か。 はた迷惑な話だな。
「一度は候補者にしたんだがな。 ああも「私が婚約者になるんだ」とうるさく言われてしまってはこちらとしても参ってしまってな。 向こうには伝えていないのだが、候補者からもう外してあるのだよ。 伝えていないのはその後駄々をこねられるのが面倒だったからだ。」
「わらわはあの様な者とは婚約する気はないぞ。 それに育ちは良いのだ。 わらわよりもいい人物を見つける事も出来るだろうに。」
国から出たことが無いなら難しいんじゃね? 今回の事で和解出来たら、ワーライド王子には他国に行かすことを考えてみてもいいかも知れないな。 他国の同じような貴族の王女とか、探せば相性が会う人もいるだろう。
「しかしお主も意地悪が過ぎないかの? 経験値の差ならお主の方が格段と上なのに。」
「だからって意味もあるよ。 世界は広い。 そうあの王子には教える必要があるかもって思ってね。 ああいう「俺が一番だ」って奴は基本狭い世界でしか生きてない可能性が高い。 「井の中の蛙大海を知らず」って諺通りの勘違いをしてるんだと思うぜ? 根は悪いやつじゃないだろうし。」
「わらわは苦手なんじゃがの。 あの仰々しい感じが。」
自分以上に騒がしい人間は苦手なんだろうな。
「それよりもいいんです? 仮にも王子でしょう? 俺みたいな平民を相手にしてる場合じゃ無いんじゃないです?」
「確かに本来ならこのような事は今後の債務に支障が出るのだが、今回ばかりは特別って所だな。 飛空殿の実力を見せつければ諦めも付くだろうて。」
「もう話はついてるのに、なんで決闘する羽目になってんだろ? 俺。」
そう言って少しばかり頭を悩ませる。 アスベルガルドの時みたいに作り終えるまで観光したかったんだけどなぁ・・・
「エレアを守る為だと思って、まあやってはくれんか? なに、お主の事だ。 全力を出なくてもあの様なものなら容易いだろう?」
「ちゃっかり実力差がある事を公言しちゃってますね。」
ちょっとやそっと触ったくらいで身に付くなら曜務学園のような学校に通ってるやつは大体出来るんだよな。 その地点でもう負けてる気がするぜ。 あの王子。
「わらわは応援しとるぞ。 まあ飛空が負けるなぞ有り得ない事だがの。 しっかりと分からせてきてくれ。」
「仰せのままに。 エレイダルト姫。」
「むう、あの王子はいないのだ。 いつも通りエレアで呼んでくれ。」
むくれてしまった表情を見て、エレアも俺もまだまだ子供だなと感じた。 ま、やるだけやってやりますかね。




