第138節 許可と卒業式、出発
「あんたがそうと決めたなら行ってきなさいよ。」
「前にも、言いましたが、私達は、大丈夫なので。」
「ちゃんと貢献して来なさいよ?」
「飛空君も少しは休めばいいのに・・・ まあ君らしいけどね。 私も止めないよ。」
「学校の事はわらわ達に任せるのじゃ。」
「生徒会の仕事は任せてくださいね。」
うーん。 なんかもう少し抵抗するのかなと思ったんだけど、あっさりと行くことをみんな承諾してくれた。 これって浮気しててもなんら影響のない夫婦みたいになってると思うんだけど・・・ まさかもう俺の事はどうでもいいんじゃ・・・
「違うわよ。 この国であんたを独占してちゃ勿体ないと思ったのよ。」
「飛空さんの、魅力をもっといろんな人に知ってもらいたいんです。」
俺の変な考えに紅梨と夭沙が否定する。 そ、そういうものか?
「みんながいいって言ってるんだから。 行ってくればいいじゃない。」
追い討ちをかけるように海呂からの援護射撃がくる。 いやこういうのって止めるもんじゃないかなかって思ってさ。
「変なものの見過ぎじゃない? 別に永遠のさよならじゃないって分かってるわけだし。 彼女達の気が変わらない内に決めちゃった方がいいと僕は思うよ?」
啓人からも宥めるような言葉が飛んでくる。
「ま、まあみんながそういうのなら行ってくるけど・・・ なるべく早めには帰ってくるようにはするから。」
「なんであんたの方が情けない事言ってんのよ。 あんたらしくないからやめてよね。」
鮎にそう言われてしまった。 心配症すぎるかな。
「私はついて行く。」
そう言って手を挙げるイバラ。 その宣言にその場にいるみんながイバラの方を向く。
「ちょっ! イバラ! せっかくここまで決まったのになんでそんなことを言うのよ!」
「みんなは学校があるから飛空と一緒に行けない。 でも私は寮にいるお手伝いアンドロイドなだけ。 それなら私が行っても問題ないと思う。」
「そういう事ではなくて・・・!」
「大丈夫。 みんなの見えないところで飛空が変な女に引っかからないかの監視をするだけだから。」
そうイバラが宣言する。 信用が無いのは分かるけど、そこまでか・・・
「まあイバラちゃんなら私達の知らない所で一線越えるような事はしないと思うけど・・・ 飛空の監視頼んだわよ?」
「任された。」
文香の頼みを胸を張ったポーズで立っているイバラ。 アンドロイドの為表情は動かないが多分勝ち誇ったような顔してると思う。
「それで、出発はいつなんだい?」
「後1週間後、だからその間に色々と準備がしたいんだ。」
「そういう事なら僕達も手伝うよ。 友の旅立ちに最適なものをあげようじゃないか。」
啓人がいつになくやる気になっていた。 お前そんなキャラだったっけ?
「まあまあ、そういう事なら早速みんなで行こうよ。 1週間って言っても長い訳じゃないし、卒業式とかもあるから時間はないよ。」
海呂も席を立ち、出掛けようとしている。 確かにこの1週間は重要だからな。 しっかりとしなければな。
――――――――――――――――
「以上225名、卒業生、在校生、着席。」
今日は卒業式、多くの卒業生が卒業証書を貰い、自分達が座っていた席に着席する。
「在校生からの言葉。 在校生代表、倉俣 蓮。」
「はい!」
次期生徒会長である倉俣先輩が壇上に上がる。
「卒業生の皆様。 ご卒業おめでとうございます。 思えば右も左も分から無かった1年生だった僕達を導いてくれたのは当時2年生だった先輩方々でした。 先輩達の戦いを参考に自分達なりの戦い方を見つけたり、先輩達と交流する機会では本当に色んなことを学ばさせて頂きました。そして・・・」
倉俣先輩が在校生の言葉として、卒業生に色んなことを綴っている。 倉俣先輩なりにも志摩川先輩達に色々と教わっている。 それは2年生である先輩達も俺達1年生に教えるのと同じだ。 そうして意志は意志として受け継がれていく。
「卒業生の方々はこれから社会という新たな世界に旅立ちます。 ですが、その道にもきっと栄光はあると信じて進んでください。 長くなりましたが、ご卒業おめでとうございます。在校生代表、倉俣 蓮。」
倉俣先輩が一礼して、拍手が送られる。 そして倉俣先輩が壇上から降りた。
「卒業生代表、志摩川 円香。」
名前を呼ばれてスっと立ち上がる志摩川先輩。 そして倉俣先輩と同じように壇上へと上がる。 あれ? あの人言葉を記した紙持ってなくね?
「みんなごきげんよう。 前生徒会長の志摩川 円香よ。 ここの生徒とであるのも今日まで。 明日からは社会人として私も生きていく。 並大抵のことじゃないわ。」
そこまで言い切って、一度話を区切る。
「だけどね。 それを新たな気持ちを持って行けるのもまた面白いと思うの。 なんだか世の中が少し変わっちゃったけれど、それだけの話でしょ? 普段と何も変わらない所に、ちょっと刺激が入っただけ。 それだけで生きにくく思っているならそれは間違いよ! これからが楽しみの始まりよ! 私達がいなくてもやって行けると確信しているわ。 みんな、私達は近くにいないけど、応援してるわ! 以上卒業生代表、志摩川 円香。」
志摩川先輩の言葉に拍手が飛び交う。 流石は我らが生徒会長。 元だけど。
その後は普通の卒業式のように校歌を歌い、先輩達を見送り、在校生も体育館を出る。 そして少しして教室から出て正門から出る先輩達を見送るイベントがある。
基本お世話になった先輩達のもとに行く。 俺達ももちろん志摩川先輩達生徒会メンバーに会いにいく。
「ご卒業おめでとうございます。 志摩川先輩、幸坂先輩、志狼先輩。」
「みんなありがとう。 ここまで来れたのもみんなのおかげよ。」
「僕達1年生組はあまり関係は無いですけどね。」
志摩川先輩のお礼を言うのに対して海呂がもっともな意見で返した。
「時間に余裕が出来れば様子を伺いには来るさ。 生徒会は任せたぞ。 倉俣。」
「うす! しっかりと受け継がせて頂きます!」
「堅い堅い。 それにいなくなるって言っても学校からいなくなるってだけよ。 ちゃんと見に来るわよ。」
幸坂先輩の励ましに倉俣先輩に熱が入るが志摩川先輩がそれを冷ます。 今までと逆のパターンだな。
「それと、ここから出るのは僕達だけじゃないようだけど?」
そう言って志狼先輩は俺を見る。 そしてそれに合わせてみんなが俺を見る。
「出発するのは今日の昼頃からか?」
「ええ。 もう行く準備は出来ているので、後は待つだけですね。」
幸坂先輩に言われて答えを返す。 とはいえ卒業式があったので、時間はずらしてもらった。
「随分と寂しくなるものね。 この学校も。」
「他のみんながいるので大丈夫ですよ。」
そう言って他のみんな、彼女達や友人達を見る。 俺がいなくなった位じゃ寂しくも無いだろう。
「まあ新入生が見れないのは残念だとは思うわ。」
「志摩川先輩。 一応言っておきますが、俺退学になったわけでは無いので、学校には戻ってきますよ?」
「そうですよ志摩川先輩。 あ、でも生徒会の席はどうしましょうか?」
「その辺はどうなるんだろうな?」
夭沙の質問に俺も疑問に思う。 名ばかりになるのかな? 俺。
「飛空、そろそろ来るって。」
イバラが寮から現れ、そう伝えてくる。 おっと思ったより早いな。
「では俺も準備の為に一度寮に行きます。」
「せっかくだから私達も見送るわ。 ってこれじゃどっちがどっちか分からなくなるわね。」
全くですよ。 そう思いながら寮に戻り、荷物を持ってくる。 ほとんどスーツケースばりの大きさだがどんな所に行くか分からないので準備は万端にしておいた。
「イバラ、飛空のことよろしく頼んだわよ。」
「無事に帰ってくること。 それがわらわ達の1番の願いなのだからの。」
「向こうの国で余計な事してこないでよ?」
「みんなの思い、受け取ったよ。」
彼女達の声援をイバラが受け取った辺りで1台の車が到着する。
「飛空様。 お出迎えに上がりました。 お乗り下さい。」
ワゴン車から現れた1人のスーツの女性に案内される。 エレアの付き人以外で見ることになるとはな。
「それじゃあ、行ってくる。」
そう言って車にイバラと乗り込む。 その後先程の女性が運転席に乗り、出発した。 離れていくみんなの姿を見送り、俺は前方を向く。 どんな事がこの世界の国にはあるのだろうか。 不安半分、楽しみ半分な気持ちな自分がいる。
神様達はどこまでお見通しだっただろうか? それは神のみぞ知る事だ。 分かるわけもない。ならばこの機会を精一杯貰おうではないか。 新たな物語の幕開けだ ってね。
このタイトルも1周年を迎えました。
それは皆様が見てくれていたおかげです。
本当に感謝感激雨あられです。
次回からは主人公が世界を飛び回る展開を広げていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




