第137節 国会議事堂と大臣、ノイズ風
それから体調が元に戻り、1週間後には話を聞きに行くために国会議事堂のような建物に来ていた。 うへぇ、宰相さんもよくここから来てくれたよな。
「お待ちしておりました。 津雲 飛空様。 大臣が先にいますので、参りましょう。」
執事のような初老人が案内をしてくれる。 1人なので心細い。 緊張で吐きそうだ。
そして1つのドアの前に着き、扉が開かれる。 その部屋には2つのソファと机、奥にオフィスデスクがあった。 ネームプレートもあったが、仕事ではないからか伏せられていた。
「大臣。 飛空様がお見えになりました。」
大臣と呼ばれたその人は黒髪で少し長め、タレ目で少し顎髭の生えた、なんとも頼りなさげな感じの雰囲気を醸し出していた。
「ご苦労。 一度下がりなさい。」
大臣がそう言って執事の人を部屋から出す。
「初めましてだね。 津雲 飛空君。 私は・・・まあ今は大臣と呼んでくれたまえ。 とりあえず座ってくれたまえ。 緊張するのは分かる。 だからこそ君にはゆっくりしてもらいたいのだよ。」
「はぁ・・・」
座ってくれと誘導されたのでソファに座る。 柔らかい感触が腰に伝わるが体か硬くなってるせいかあまり伝わってこない。
「あの・・・大臣。 話を聞く前に、こちらから質問をしてもいいでしょうか?」
「当然の権利だ。 なんだね?」
「なんで俺の事を知っているんですか? 一度たりとも大臣と接触した覚えはないですよ? いくら宰相様の息子が通ってる高校からの情報でもそこまでは届かないと思うんですけれど・・・」
「そうだね。 でも君の知らない所で情報と言うものは流れているものだよ? まあ今回の場合はちょっと違うがね。 君はクリマという国は知っているかな?」
「えぇ、名前だけなら。」
というか知ってるも何もエレアの生まれ故郷じゃないか。 曜務の技術をクリマにも応用できないということでエレアが学びに来ているっていう話のはずだけど。
「そのクリマの公爵殿が、同盟国としての条約を結びに来てな。 そのきっかけとなったのが君だったんだ。 クリマの王女の婚約者候補になったと言ってね。」
「はぁ・・・」
エレアの父親に当たるコレン公爵。 まああの人なら同盟国として条約を結ぶ事をしてもおかしくはないとは思うが、エレアの婚約者候補って・・・ まだお付き合いから始めて半年も経ってないのに気が早くね? というか口が軽いな。
「そんな訳で君の事が気になってね。 調べて貰っていたんだよ。 生徒会の一員となり、電脳学校の交流会、「ブラッド」の更生。 これ程までにこの国に貢献している人材もそうは居ないと思ってね。 今回の事を期に君に接触をしたということだよ。」
話は理解出来た。 まあ決めてしまった以上は後には引かないが。
「しかし僕高校には通っているんですけど、休学届けを出さないといけないです?」
「その辺も対策はしてある。 宰相から聞いてるとは思うが、一国に滞在期間は1週間程度だ。 そこでの報告書を作ってもらえればそれに応じて学校の成績に加担させる事にしたよ。」
マジですか。 それ逆を言えばお粗末な報告書なら成績に乗らないこともあるってことだよね? 軽く見ていたつもりはないが・・・うーむ。
「まあ最初はちゃんとしたところから行かせるよ。 我が国と友好国である。 機構国家 アスベルガルドに様子と報告をして貰いに行ってもらいたい。 ここは機構国家なだけあって我々の生活と似たような生活をしている。 1番馴染みやすい場所になるかもね。」
確かにいきなり過酷環境に行かされたらと思うと半ば血の気が引いたが、そうでなければまず問題にはならなそうだ。
「一応出発はいつになるんです?」
「そうだね。 本当の所は直ぐにでも向かってもらいたいのだが、新年度になってからでも構わないかい? 少しの間は準備やら休息やらで使ってくれて構わない。」
「心遣いありがとうございます。 なら新年度になったタイミングでと言うことで。」
「よろしく頼むよ。」
大臣から手を差し出されたので、思わず出し返して握手を交わす。
「他国のお偉いさんでもした事の無い大臣との握手を一生徒がやっていいものなんでしょうかね?」
「やましい事がある訳では無いから関係は無いよ。」
そりゃそうか。 そんなこんなで話が進み、国会議事堂を出たタイミングで、風が吹いてきた。 もう春先だと言うのに冷たい風だと肌に感じる。
「まだこの冷たさは続くのかな?」
そんな独り言を呟くと「パリッ」という音が耳元で聞こえてくる。 なんの音だ?
「大臣。 今なにか聞こえ・・・」
そう言って一緒についてきてくれた大臣の方を振り返ると、体調を悪くして跪いている大臣の姿があった。
「なっ・・・! だ・・・大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だ・・・ 心配ない・・・」
とてもそうには見えない。 しかし1分程で体調を戻して、先程のようにピンピンし始めた。
「ふう・・・ 心配をかけて済まなかったね。」
「いえ、それはいいんですが・・・ どうしたんですか? 急に。」
「さっきの吹いてきた風が原因だよ。」
さっきの風? 今は止まっているので分からないがあの風のなにが原因なのだろうか?
「ここ最近吹く風の中に「パリッ」というなにかが弾けたような音をする事が多くなってね。 それを聞くと体調が崩れるんだ。 我々はその風を、まるでテレビにノイズが走ったように感じたことから「ノイズ風」と名付けた。 このノイズ風に関しては気象庁に情報を提示してある。 みんな知っている事さ。」
そう言えばこの事で外に基本いなかったからそういうのがあるのを知らなかったな。
「でももう大丈夫そうですが。」
「ああ、ある程度その場にしゃがんでいると直ぐにノイズ風の影響は去っていくんだ。 不思議なものでね。」
その話を聞いて、雷に当たらない方法みたいだなと思った。 あるいは静電気を体から放出するような措置の取り方かな? 事実そうなんだろうなとは思うけど。
「あれ? でも俺もその音聞きましたけど、なにも起きませんでしたよ?」
「個人差があるのさ。 多くの人は体調を崩すが、それと同等に変化のない人もいる。 原因や理由はまだ追求中だ。 少しでも早く解決策を見つけ、国民の安心する姿を見たいよ。」
そう言って落ち込む大臣。 国民の事を考えるってほんとに凄いよな。 元の世界の同じ立場にいる人に聞かせてやりたいぜ。
「それではまた来週だな。 飛空君。 君にはとても重い任務を任せてしまう事を許して欲しい。 だが君にとっても悪くない話だとは思う。 今言うことではないが、武運を祈っているよ。」
「ありがとうございます。 それではまた。」
そう言って大臣と別れる。 このまま帰るのはおしいとは思ったが特にやることも無い。 1週間で準備か・・・ なにから手を付けるか・・・ とりあえずは服からだろうか、まあ清潔感は大切だからな。 資金の件に関しても、まあ大丈夫だろう。 となると残るのは・・・
「そうか。 行くと決めたんだな。 なら私達も遠くからお前を見守っているぞ。」
「飛空、辛くなったら何時でも戻っておいで。 私達は待っているから。」
自分の両親代わりの神様達にまずは報告をすることにした。 息子の決意を聞くのは親の役目だと思うのでそういう事にした。 したのだが・・・
「ここからじゃなくても別に見れるよね?」
「そこはほら、雰囲気と言うことにしておいて下さい。」
「親らしい所を見せるのも神様達に安心をさせるためですので。」
そう二神は言っている。 天界みたいなのが見えるわけもないが上を見る。 常に見られてるんだよな、俺。
「それに行く先々でなにかないように交代で我々のような他の下級神達も来るそうなので。」
「え? そんな話いつ決まったんです?」
「君がこの旅立ちを決意した日からです。 我々としてもあなたには頑張って貰いたいので。」
んー。 過保護な気もするが、この先なにが起こるか分からないからな。 神様たちなりの気遣いなのかもしれない。
「それに我々に話したということは、他の子達にも話すのだろう?」
「うん。 しばらくここにいないしね。」
「心配かけさせないように言葉は選んで来なさいな。」
分かってますよ。 そこまで鈍感でも無いですから。
「それじゃあ、寮に戻りますので、また何かあったらよろしくお願いします。」
そう言って頭を垂れてからこの世界の家から出る。 さてと、ここからが本番かもな。 彼女達を説得出来るだろうか? 正直な話不安しかないんだよな・・・




