第134節 事件の結末と従属神の意見、悪あがき
「警察だ! ここに無理やり連れてこられて仕事をされられたもの達よ! もう大丈夫だ! この会社はまもなく倒産する! もう君達がここで働く事はもうないんだ!」
警察の武力介入により、大半の人は何もせずにただただ警察に従うのみとなっているのだが、
「この会社が倒産・・・? ふざけるなよ? 行く当てのなかった僕を救ってくれたこの会社を倒産させるのか? そんな事させないぞ! ここがなかったら、僕はこの後どうすればいいんだよ!」
会社の倒産に納得のいかない人が吼える。
「ならば我々と対峙しない方が、まだ社会は見捨てないぞ? それにそういう人達もいるのは想定済みだ。 こちらでアフターケアもしよう。」
そう言うと先程吼えた人はその場で泣き崩れた。
「どうやら、ここの上層部は宗教的な何かをしていたようだ。 このように人の感情を操るのは宗教団体では割と多くあるんだ。」
何度も経験したのだろう。 扱いが慣れているのか、直ぐにその人も確保されたを確認して、私は先輩達の待つ3階へと向かう。
3階にあった部屋は食堂になっていて、厳重警戒の中で私は部屋に入れさせてもらった。
「お疲れ様、夭沙ちゃん。 作戦は大成功よ。 上層部も完全に捕まったし、ここの会社はもうおしまいよ。」
「これで、ポイズンノイズはもう起きないってことですよね?」
そう安心したのも束の間、全員が渋い顔をした。
「ポイズンノイズの事だが、どうやら放出は出来ても回収は出来ないそうだ。 だからこれからもポイズンノイズは出続ける。」
「そんな・・・」
「でも新種は放出される前に止められたから、完全な対処はこれからになるけれど、それでも元通りにはなるそうよ。」
それを聞いてホッとする。 それなら今まで通りになるのだから問題は無い。
「ところで飛空君は? 一緒じゃなかったの?」
「え?」
そう言って全体をキョロキョロする。 しかし彼の姿はどこにもなかった。
「私てっきりここに先に来てるのかと・・・」
「私達は夭沙ちゃんと一緒にいるもんだと思ってたけど・・・」
私と志摩川先輩で意見が食い違う。 ということは彼はどこへ・・・?
「わ、私来た道を戻ってみます!」
「私も行くわ。 こんな所で誰一人として欠けさせてなるもんですか!」
そう言って私と志摩川先輩は北側の階段を下るのだった。
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「では聞きましょう。 まずは何故こんな事をしたのかを。 世界に害を及ぼす事は禁じられているのは分かっているはずです。」
「ええ、そうですね。 神の世界ならそうでしょうが、今の自分は神から追放されたもの。 故に「神」という部類から外れている。」
「それは屁理屈だろ。 そもそもまだ神の力を使えるんなら、それは使っちゃダメだろ。」
「だからだよ少年。 自分は神から追放されたもの。 そして今でも神の力は失われつつある。 なら最後の足掻きとして使ってももう文句の言い様があるまい?」
「・・・女神様? 神様に仕えるものって傲慢な奴が多いんですか?」
「否定は出来ませんね。 しかしその要望を聞くのも神なので、全員が全員という訳ではないですよ?」
女神様がそう答える。 言われてみれば俺の親代わりとしてこの世界にいる治癒の神と戦神は神様に意見を言って、許可を得て、この世界で俺の親としているのだ。
「って事はこの従属神の願い、というより話の内容は受け入れてもらえなかったと。」
「受け入れてもらえなかったと言うのは聞き捨てならないな。 あちらが納得しなかっただけだ。 納得して実行して貰えればそれで良かったのに。」
それを受け入れてもらえなかったって言うのでは? とにかくどんな事を言ったのかは分からないが、ここにいる時点であまり神としては威厳ないんじゃないか?
「しかしあなたの計画も総崩れしました。 これに観念して真っ当な人として生きれる術を身につけなさい。」
おおぅ。 この女神様、情けも慈悲もお与えにならないようで。 この場合は大抵は無条件降伏状態になるとは思う。 神の力ももう無くなるらしいし。
「ええ、総崩れしましたよ。 これで自分はもう打つ手すらもない。」
あっさりと敗北を認める従属神。 これで完全にこの一連の騒動も終わりを・・・
「だから、最後に神の力を使って足掻けるだけ足掻こうと思ってますよ!」
そう言って従属神は画像が映っているモニターに手を伸ばし、そして
「なっ・・・!?」
伸ばした手はおろか、腕すらもモニターに吸われるように入り込むという、明らかにおかしい光景を目の当たりにしている。
「何をしようとしているのです!」
「人というものは何かの間違いや些細な違和感に敏感な生物だ。 知能がある分そういう不快感を感じるのは本能と言えるだろう。 だが、それが許容範囲外になると脳が処理出来ずにパニックを起こす。」
いきなり人の心理的な話を語り出した従属神。 それに聞き入ってしまったためか、それとももう手遅れだったのか、従属神のこれから行う事に反応が出来なかった。
「人はこの新たな環境にどれだけ順応出来るかな!?」
そう言ってモニターに突っ込んでいた腕を、薙ぎ払うように出すと、先程のモニターから得体の知れない何かが見え隠れして飛び出してきた。 それと同時に気分が悪くなる。
「うっ・・・な、何を・・・したんだ?」
「はははははははは! どうだ!? この膨大な情報量を受けた気分は!? そして電波というものはこちらの世界でも多少は流れている! つまり! ここから発信された全てのネットワークは既に光の速さで様々なネットワークと繋がったのだ!」
そう高らかに言う従属神は再度腕をモニターの中に突っ込む。
「まさか電脳世界に逃げるつもりですか!?」
「この世界ではこの体は不便だからね。 だから電脳世界に身を潜めることにするよ。」
くっそ・・・ こんな所で逃したら今までの苦労が意味無くなるじゃないか・・・ でもさっきの電脳波を食らったせいでまともに動けない・・・
「先輩! この先はこれだけのようです!」
「隠し部屋とは舐めた真似を・・・! 開けるわよ! 夭沙ちゃん!」
「これ以上長居は不要だな。 それではサラバだ、この世界に転移してきた者よ。」
「待て! ・・・っぐっ!」
体に踏ん張りが聞かず、そんな状態でも従属神はモニターの中に入っていく。 そのまま後方のドアが全て開けられる頃にはもう従属神の姿はなかった。
「飛空さん! だ、大丈夫ですか?」
夭沙が近くに寄ってきて心配そうに俺の顔を覗き込む。
「あんまりいいとは言えないけど・・・ あの懐中電灯の光、分かってくれたんだな。」
「床から光が発していたら気になるわよ。 それよりもこの不快な気分になるのはなに?」
「ああ、それは・・・」
事のあらましを伝えようとしたその時、
「うっ・・・うぶぉえ! ゲホッ! ゲホッ!」
突然襲ってきた不快感に耐えきれず、思わず吐き出してしまった。
「ひ、飛空さん!?」
「どうやらこの不快感、私だけのものでは無いようね。 飛空君、その体制から動かない事をオススメするわ。 直ぐに医療班を呼んでくるから。」
そう言って階段を颯爽と上がっていく。 相変わらずの不快感に溺れ、正直こうやって意識を保っているのもやっとな状態だ。 ったくあの従属神め、次会うことがあったらマジでただじゃ置かねぇぞ。
「飛空さん。 もう大丈夫ですからね。 もうすこしですから。」
「ははは・・・ もう終わった事なのに、何を心配しているのさ。 分かってるさ。 今は事が終わったのを喜ぼうよ。 今はね・・・」
自分の中でそう言い聞かせているのか、夭沙に言っているのか自分でも分からなくなってきた。 そんな俺に暖かい感触が伝わる。 多分夭沙が俺を包み込んでるのだろう。 その暖かさに俺は安堵を覚え、そして
そのまま意識を手放した。




