第130節 決行と先輩達の今後、夢でのお話
「そろそろ決行してもいいと思ってるの。」
生徒会の仕事をしていた2月も終わりを迎えようとしていた頃。 志摩川先輩からそんな言葉が飛び出した。
「決行って何をですか?」
「犯人を捕まえる事よ。 場所はある程度把握してる。 協力者もいる。 なのに我々が動けない? そんな馬鹿な話があってたまるもんですか!」
「落ち着け。 準備が万端ではないし、なにより俺たちだけで行くのはかなり危険だ。 俺達は高校生だ。 一般市民が勝手にやっていい事でもないだろう。 警察に完全に任せるまでにはいかなくても、どんな事をしてくるかわかったものじゃないぞ。」
志摩川先輩が熱くなるのに対し、幸坂先輩は冷静だった。 このバランスが保たれているからこそ生徒会は安定した動きが出来るのだ。
「なによ。 生徒会長最後の仕事としては相応しい事だと思うんだけど?」
「規模が大き過ぎるぞ。 生徒としてやれる許容範囲を超えている。」
「でも・・・」
「分かっているさ、お前が言いたいことは。 だが俺達だけでは解決出来ないことだろう? 応援は必要だ。」
珍しくしおらしくなる志摩川先輩。 それを宥める幸坂先輩。 ほとほと名コンビなんじゃないかと感じる。
「それでどうだ朝倉? 誰か協力してくれそうな部署はあったか?」
「それなら問題は無いよ。 君達の入る「電脳犯罪対策課」の人達が協力してくれることになったよ。 まだ出来たての部署みたいだし、実績を残すのには丁度いいと上の判断もあったそうだしね。」
志狼先輩が警察に関与してくれていたみたいで、すでに話はついているようだ。
「それよりも二人とも警官になるんですね。 いや、なんかイメージと違っていたもので。」
「アスリートやるよりも動けそうだったし、犯人を捕まえるには脚も必要でしょ?」
「決してこの世から犯罪は消えない。 だが抑制は出来る。 俺はその糧の1人になりたいんだよ。」
志摩川先輩と幸坂先輩のそれぞれの想いが彼らをそういう未来に導いたのだろう。
「僕は劇団に推薦されているから、そっちの道に行こうと思うんだ。 僕の戦いのスタイルに魅力を感じたんだってスカウトしに来た人がいてね。 多分どこかで試合をしてる時に見られたのかな?」
志狼先輩がそう答える。 この世界では意外にも一般的に電脳世界での戦いを行っている場所があるのだ。 場所はかなり絞られるらしいのだが。
「とにかく、協力してくれる警察関係者がいるなら私達だって動くのは可能なはずよ! ここに二人電脳犯罪対策課志望がいるんだからね! 色は付けてもらえなくてもなにかしらの評価には繋がるはずよ!」
どっちが本音か分からないが、志摩川先輩の言う通りではある。 早く捕まって無理矢理こんな事をさせられている、輝石の父親含めた被害者のみんなも解放しなければならない。 そういう意味では一大作戦だ。
「段取りは向こうと組むことになるからまだ少し先らしいよ。 後は君達が来るなら適性かどうかを判断したいそうだよ。 大人数での突撃はしないそうなんだって。」
「まあさすがにそこまではしないわよ。 敵の人数が分からないんだもの、電脳世界と違って。」
志摩川先輩でもそこは突貫はしないようだ。 あの人の戦い方は1人突貫していって、前線を荒らすような感じだと思われるが実は違う。 志摩川先輩は敵を確実にねじ伏せるために敢えて後ろよりの戦い方をしている。 そして仕留めれると思った瞬間に畳み掛けるのだ。 俺と同じ闇討ちタイプなのだ。
「その間は電脳世界のポイズンノイズの処理ね。 パッチがまだ少ないから、行けるのは私たちの中でもごく一部なのよね。」
「・・・俺を見ながら言わないで下さい。」
「分かってるわよ。 でもあんたの武器があるのと無いのとでは処理速度が雲泥の差程に出るのよ。」
志摩川先輩が俺に向かってそう断言する。
前に俺がいない状態で相手がリザードマンだった時は、ものすごく手を焼いていた。 影や食虫植物、フグ辺りなら何とかなるのだが、リザードマンやサソリなど素早い相手には生徒会の武装では相性があまり良くない。 そのため、生徒会内でのポイズンノイズの処理は俺のロープリングとスパークガンが役に立つのだ。
「そう意味ではある意味羨ましいわ。 あなたの武装。」
「みんなからはあまり良しとは思われてはいませんがね。」
相手の動きを封じ込める武器はこの電脳世界での戦いの上では「邪道」なんだそうだ。 こんなのが邪道なら王道とはなんなのか教えて欲しいものだ。
「とにかく私達がやろうとしているのは電脳世界での戦いじゃないわ。 私達も無茶は出来ないわよ。」
「さっきの言い分だと「なにがなんでも捕まえてやる!」みたいな雰囲気でしたよ?」
夭沙がそう志摩川先輩にツッコミを入れる。 俺達は特攻野郎みたいにするのかと思ったが違うらしい。
「今は作戦を待つのが優先だ。 では今回はここまでとしよう。 今回の書類も終わった事だしな。」
「そういう事、ありがとね。 幸坂。」
「・・・この書類の3分の1程はお前宛てだったんだぞ。」
やっぱりこの2人はこのバランスが良いようだ。
その日の夜、就寝時間となったので眠りに入る。 浮遊感を覚えて目を開けると、そこはなんとも言えない不思議な空間だった。 しかしここの事はよく知っている。 ここは夢の中、俺は明晰夢を見ているのだ。 そしてここを呼んだ人物、いや今回の場合は俺がここに呼んでくれと頼んだ事になるが。
「珍しいというか、そんな事ってあるんですね。」
現れたのはここの明晰夢を作り出した転移女神様だ。 ここでしかこの人とまともに話せないからな。
「すいません。 自分でも急だとは思っていますが、今回ばかりは許してください。」
そう。 先程も言ったが今回この明晰夢を作ってくれと俺が頼んだのだ。 生徒会の仕事が終わった後、誰もいないところまで行って、周囲を確認した後、ヘッドホン姿の女神様に「今夜話したいことがあるので、あの明晰夢を作ってください。」と言ったのだ。
「まあこちらとしてもいつも唐突にこの夢に連れてきているので、頼まれた方がやりやすいといいますか。」
「分かってくれてありがとうございます。 早速なのですが、話を聞いてもらっても・・・」
「「従属神の動きと状態を知りたい。」ですね。」
俺が言おうとしていた事をいとも簡単に・・・って常に俺がヘッドホンしてるから断片的には話の内容は耳に入るのか。
「話が早いに越したことはないです。 それで、どうですか?」
「今従属神はあなた達が対抗出来る手立てを知った事で更に強固な個体を作り出そうと検討をしています。」
「一応聞きたいんですけど、社員・・・って言っていいのかな? 他の人の様子は?」
「半分は進んで従い、もう半分は反対しながらも行っている感じです。 とは言ってもその半分の人達は半ば強制的に作業をやらされてるようにも見えましたね。」
つまりその半分の人達を味方に付けれれば勝機はぐんと上がるわけだ。 犯人の逮捕も大事だが、今回は戦力の補充も重要だ。
「それと従属神としての力は日に日に弱くなっています。 このまま行けば2週間程で神では無くなり、普通の人となるでしょう。」
つまりその辺りが分岐点って所か。 多分なのだが、これだけその従属神の事を見れていたのはそいつがまだ「神」という括りにいるからだろう。 しかしそれが外れては変装して、どこかに身を潜められたらもう探す事が困難になるという事だ。
「それを俺以外の誰かに伝える予定は?」
「私にそのようなお告げを行う資格はありません。 ですが、未来を見ることの出来る神、予知神によればあなた達は何も言わなくても2週間、しっかりと作戦を練り、準備万端の体制で敵を迎え撃つと言っていました。」
予知神って・・・そんな神どこに需要があるのか。 まあそちらの事情に首を突っ込めないのは確かなので何も言わないが・・・
「他に聞きたいことはありますか?」
まあほとんど疑問が解消されてしまってはもう何も無い。 流石は神様と言ったところだろうか。
「今回はそんなに長くはなかったので、しばらくはこの明晰夢を楽しんで下さい。」
明晰夢を楽しむってなんだよ。 まあ夢っぽい事を自分の意のままに出来るのは面白いとは思うけど。
「あ、そうそう、次にここに来る時には前に言っていた獏を連れてきますので。 それでは、ごゆっくりお楽しみ下さい。」
アトラクションでも始まるかのようなノリで女神様は去っていった。 とりあえず覚めるまではこの明晰夢を楽しむ事にした。 不思議な感覚だが。




