第127節 ドライブと桃野父、見定め
イバラの定期メンテナンスが終わった次の日、俺は今車に乗ってドライブへと洒落こんでいる。 いや洒落こまれていると言った方が近いのか。
え? 車も免許も持ってないのにどうやってドライブしてるのかって? ならこの時間よりも1時間程前に戻そうか。
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『君も私たちと一緒にドライブに出掛けないかい?』
朝ごはんを食べ終わった午前7時半の話。 部屋に戻った瞬間に携帯がなり、受信先の「紅梨」という文字を見た後に「もしもし」と言い切る前に放たれた言葉である。 しかも男性の声だ。
「あーっと、どちら様です? なんで紅梨の携帯から電話してるんです?」
『ほら父さん。 やっぱり飛空困ってるじゃん! ごめんね飛空。
父さんが連絡したいって言うからこうなっちゃったんだけど。』
そんな紅梨の声が電話の向こうから聞こえてきて心から安堵する。
「そうなのか。 それでさっきお父さん?の話だとドライブに行かないかって話になってるんだけど。」
『ああ、ドライブって言うよりはちょっと遠くまで行って、その場所の景色見て帰ってくるだけの話よ。 父さん、趣味で写真を撮ったりするのよ。』
確かお父さんって解体屋だって話だったと思うんだけど。 解体する時の美意識の延長線だろうか?
「んー、まあ迷惑じゃないなら行くけれど・・・」
「ごめんね急に。 じゃあ寮で待ってて。 父さんの車でそっちに行くから。」
そう言って電話が切れる。 彼女の両親に会う・・・ しっかりと身だしなみを整えなければ。 ううん・・・変に気を使ってしまうかもしれない・・・ 会う前に胃がキリキリしてきた。 彼女の両親に会うってこんなに緊張するものなのか・・・
寮に来ると言うことで、今か今かと寮の前でウロウロしてしまっている。 どう印象付られるだろうか。 それだけでも怖い・・・
そんな時間がいつくらいだろうか? 10分位が1時間に思えるほど長かったと感じた時、
「飛空さん!」
声がしてその方を向くと、かなりモコモコな格好をしている白羽が呼びに来てくれた。
「お待たせ、しました。 ・・・飛空さん?」
「うん。 大丈夫。 待ってないから大丈夫。」
明らかに様子がおかしい俺を見て白羽が心配しているが、平常心を装う。 多分出来てないけど。
「えっと、紅梨とご両親は正門かな?」
「はい。 みんな、待っていますので、行きましょう。」
そう言って正門の方に歩いていく。 正門を見ると白色の、年季の入ったような車が停車していた。
「遅いわよ飛空、せっかくこっちから来たのに。」
「やぁ飛空君、久しぶりだね。」
車の後ろに立っていた赤のカーディガンを着た紅梨と、黒のニット帽に灰色のウィンドブレイカーを着た紅梨と白羽の母、桃野 朱華さんがそこにはいた。 朱華さんの格好をみると、とても2人の娘を持つ母には見えない。 姉と勘違いされてもおかしくないかもしれないな。
そんな事を思いながら見ていたら運転席のドアが開き、長い髪をヘアゴムで結び、身長もガタイも俺よりも一回り大きい男性が現れた。 察するに2人の父だろう。
「君が飛空君かい? 私は紅梨と白羽の父で、朱華の夫の桃野 兼人だ。 こうして会うのは初めてだよね。」
「あ、はい。 はじめまして、津雲 飛空です。」
そう言って兼人さんが差し出していた手を取り、握手を交わす。
「・・・」
「・・・あの、どうしたんですか?」
「・・・傲慢さはない。 むしろ腰が低い。」
「・・・えっと・・・?」
「しかし気品さと丁寧さが感じかれる。 それは下手な気高さを持った男よりは信頼に値する。」
「・・・・・・」
「ふっ。 君なら2人を安心して任せられるな。」
「またそうやって人を品定めする。 その癖、少し自重しなさいよ。」
「すまないすまない。 しかし娘に彼氏が同時に出来たとなれば話は別だろう?」
「私も保証してるから大丈夫だって言ったじゃない。」
「分かってはいる。 こういうのは直接見る方が感じ取れるんだよ。」
訳が分からないまま手を話されたあと朱華さんと兼人さんが2人だけで話をし始めた。
「まああんな父さんだけど、飛空の事は私たちがなんだかんだ話してるから心配しなくてもいいわよ。」
「「2人の彼氏がどんな人なのか見てみたい」って、唐突に言われた時は、息が止まりそう、でしたよ。」
でしょうね。 俺も正直、いつ鉄拳が飛んでくるか分からないもの。 あの大きな拳から放たれる一撃はさぞ重いだろうなぁ・・・
「立ち話もなんだ。 早速行こうではないか。 さあ乗った乗った。」
そう言って車のドアが開かれる。 助手席は朱華さんが座るので俺は紅梨と白羽に挟まれる形で後部座席に座る。 そうして俺たち5人を乗せて車は学校から出発した。
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で、車の中で他愛のない話をしながら今に至る。
「そう言えばどこに向かっているんですか? いやドライブという事なので多分聞くことではないと思うのですが、気になって。」
紅梨と白羽の間に挟まれているが外の景色は見れる。 ずっと下道のような場所を走っているため、どこに行くのかが全くと言っていいほど想像がつかない。
「今日は君も来るということで、私のオススメの景色を見せたくてね。 あ、もし喉が乾いたり気分が悪くなったら遠慮なく言ってくれ。 長旅になるからね。」
「お気遣いありがとうございます。」
そうお礼を言うと兼人さんは助手席の朱華さんと話し込んでしまった。
「随分と優しいお父さんじゃないか。」
「お父さんが、私たちに、怒ることって、ほんとに滅多な、事なんですよ?」
「自分がある程度ズボラだからかもって自分で言ってるのよ? そんな人が毎日のように火薬を扱える物ですか。」
紅梨は一見貶してるように聞こえるが、その目には尊敬の眼差しがある。 いい家族だ。
「でも俺の事説明するの、大変だったんじゃないか?」
「まあねぇ。好きな人がいるのって言った時はそんなにだったのに、彼氏が出来たって言った時の動揺の仕方と言ったらある意味傑作だったわよ。」
「笑えるような、事じゃないよ? 紅梨ちゃん。 でもそれ以上は、取り乱すこと無く、そのまま話は、聞いてくれました、よ。 終始、落ち着かない、様子でしたが。」
まあ自分の娘が「彼氏出来たんだ」って言ったらそりゃお父さん驚いちゃうよな。 何処の馬の骨かわからないやつだもの。
「まあ、私も君の事は話したし。 それで1回会ってみたいって話になってこの状況になる訳。」
会話を聞いていたのか朱華さんが後ろの俺たちに向かってそう話してくる。
「でもそれならこんな風にしなくてもまた日を改めて会えばよかったのでは?」
「君の本心が知りたかったんだよ。 それがガチガチに緊張した状態じゃ、本当の君を隠してしまうかもしれないからな。」
それのせいでこっちは肝が冷えっぱなしなんですけど・・・
「まあ先程も言ったけれど、君なら2人を安心して任せられる。 それは誇りに思ってくれていい。 これ以上変なものも寄っては来ないと思うし。」
「ま、これで両親公認になった訳だから、私達はクリアかしら?」
「そうだね。 これで、正式に飛空さんと、いられますね。」
正式にって、今までは仮だったんか? そう思ったが、白羽が腕にギュッと体を寄せてきた。 それを見た紅梨も逆側の腕を取る。 両手に花状態なのは嬉しいのだが、いかんせん両親を目の前にしてその行動はどうなのだろうか? 冷や汗が止まらない。
「ほら見て兼人さん。 私たちがいるのにあの子達ったら。」
「バックミラーで見えてるよ。 仲睦まじい限りでいい事じゃないか。 私にはもうしてくれなくなったというのに。」
ご両親はなんとも思ってないようだ。 こんな調子で俺はどこへ連れていかれるやら。 変にトラブルにならなければそれでいいのだが・・・




