第121節 生徒会室とリクエスト、実践
「すまないな。 ここが生徒会室だ。 君たちはそちらのソファに座ってくれないか?」
そう指摘されて、生徒会室の端にある来客用のソファに座る。
「ところで生徒会長さん? 生徒会の人はあなた1人なのかしら?」
「もちろん私一人ではない。 私は2年だから早めにここに来ただけだ。 あとのものは遅れてくるよ。」
席が4つほど空白になっているのでそこに来るのだろう。 役職としては生徒会長、副生徒会長、書記、会計、庶務といった一般的なものだろうな。
「人はいないが私だけでも本題に入ろう。 今回君達の相談内容は「電脳世界の情報を、現実世界に持ってこれないか。」という内容だったね。」
「ええ、そうよ。」
五河先輩 (2年だと分かったので先輩として呼ばせてもらう。)の質問に志摩川先輩が答える。
「まずは根本的な所から聞こう。 なぜそれを行う必要がある?」
「私達の学校内での電脳世界が今、ノイズによって攻撃をされたの。 実際何人か負傷者も出てるの。 そしてこの意見を出したのは私じゃない。 ここにいる、津雲 飛空君が今後の脅威のためを思って提案した事よ。」
そう言って名指しされたので、会釈をする。
「なるほど。 それなら答えを簡潔に言おう。 今我々のやっている実験がまさにそれと同じなのだ。」
「同じ・・・とはどういう意味ですか?」
五河先輩の答えに疑問を持ったのは幸坂先輩だった。 実験ってだけでも驚きだが、同じという言葉が引っかかった。
「そのままの意味さ。 君達の頼み事、「電脳世界の情報を現実世界に引き出す」方法を我々は追求している。 それの答えがあと一歩の所で出来そうなのだよ。 ふあぁ。」
欠伸をしながらそう言っている。 つまりその方法は確立しているに等しいということになる。
「で、でも、あ、あと一歩届かないって、ど、どういう事よ?」
夕暗先輩が疑問符を投げる。 緊張なのか焦りなのか、かなり早口だった。 (ように見えた)
「ああ、それは・・・」
「曜務学園の生徒会の人が来てるんだって!?」
五河先輩がなにかを言いかけた時、生徒会室のドアが勢いよく開けられた。 開けたのは生徒会長とは対称的に、活発的な男子だった。 金髪のトンガリヘアーで背は少し低い方かな?
「・・・蓮叶、もう少しゆっくり入ってきてくれ。 頭に響く。」
「曜務学園の人が来ているのにそれをやめろと言うのは無茶な話です! あ、あんたが生徒会長かい? 俺谷 蓮叶って言います! 以後お見知り置きを!」
「え? わ、私は・・・」
蓮叶と呼ばれたその生徒は夕暗先輩の腕を上下に揺らしている。 当の夕暗先輩はわけも分からずブンブン振られていた。
「離してやってくれ、その人は生徒会長では無い。」
「え? そうなんすか? すみません。 てっきり眠たそうにしていたので、そちらの生徒会長もそういう事なのかと思いまして。」
慌てて手を離す蓮叶、手を離されてぐったりしている夕暗先輩。 相性悪過ぎるかもしれないな、この2人。
「すまない、話が逸れたね。 話を戻そう。 先程言った「あと一歩届かない」という意味は、我々の戦力不足によるものだ。 武器や防具を考えるのは我々は大得意なのだが、いかんせんそれを主力に戦えないのが我々の学院最大の悩みなのだ。 戦闘力と知識が合致しないのだよ。 困ったものさ。 ふぁ・・・」
そう言ってもう一度欠伸をする五河先輩。 ほんとにちゃんと寝てるのか? この人。
「これは利害の一致と考えてもいいかもしれないですね。 我々は電脳世界の情報を引き出す方法を知りたい。 そちらは戦闘データが欲しい。 我々の戦いを保存出来ればそれは可能だと。」
「察しがいいのは好きだよ。 それじゃあ、早速で悪いんだけど、電脳室へと行こうか。 ちょうど被検体の来たし。」
「え? 被検体って俺の事ですか? やめてくださいよ! 会長! 俺の考えた武器みたでしょ? 戦闘向きじゃないですって。」
「それを確かめる為にもお前がいるんだよ。 役員になったからには仕事をまっとうしてくれ。 それに相手はあの曜務学園生徒会だ。 相手に不足はないだろ?」
「そうかもしれないっすけどねぇ・・・。」
生徒会室を出た2人の後を追うように俺達も歩いていく。
ものの数分で着いた電脳室は俺達の学校の電脳室よりも少し狭めかなといった具合だった。
「では電脳世界に入るんだけど、蓮叶、誰かリクエストはあるか?」
「そうっすねぇ。」
そう言って蓮叶は俺達を品定めし始めた。
「うーん・・・よし! あんたにするっす!」
そう言って指をさしたのは夭沙だった。 さされた本人も驚いていた。
「だ、そうなんだけど、大丈夫かい?」
「・・・分かりました。 それじゃあ、よろしくお願いします。」
「へっへーん。 よろしくっす! いやぁ俺もこんな可愛い子と戦えるなんてなぁ。 あ、もしこれが終わったらお茶でも・・・」
「お言葉ですが、私には飛空さんがいるので、ご遠慮致します。」
そう言って俺の腕を組み、ニッコリとそう跳ね返す。 うおぅ、すげぇ。 一瞬にしてお誘いを断ったぞ。 そう言われた蓮叶は俺を見て、
「ふーん。 あんたは交流戦の時の代表だった人だな。 見た目は弱そうだけど・・・ま、生徒会に入れて、選手代表に選ばれてるなら、仕方ないよなぁ。」
なんか若干嫉妬のようなものが混じっている気がしないでもない。 というか彼氏持ちだと分かった時の態度が露骨すぎね? こいつ。
「蓮叶、相手をそんな風に見定めるなと前々から言っているだろう。 ほんとに治らないな。 その性格は。」
「ならうちの夭沙ちゃんが治してくれるわよ。 その曲がりきった根性、叩き直してきなさい! 夭沙ちゃん!」
「会長がそういうのなら、やりますけど・・・」
乗り気じゃなかったな、夭沙のこの感じ。 まあ分からんでもないんだがなぁ・・・なんというかこの蓮叶という男子、戦闘向きな感じではないのが滲み出ているからなぁ。
「あ、電脳世界に入る前にこれを持って行ってくれないかい?」
そう言って五河先輩が夭沙に渡したのは1枚の厚紙だった。
「これは?」
「それにはデータを入れるための特殊な記憶処理メモリが入っている。電脳世界に入ると電子化して、武装の中に入れることが出来る。 出す時は自動的に出るから、電脳世界に忘れないようにね。」
昔のラジオのカセットに録音したいものを焼き回しする感じか。 ちょっと違うか?
渡された厚紙を夭沙、蓮叶双方に持たせて電脳世界に入ってもらう。 ここはモニターが発達していないようで、小型モニターに1人しか見ることが出来ない。 今回は蓮叶の武器がみたいと要望したら快く受け入れてくれたので、モニターに映っているのは蓮叶だ。
「所で彼の武装がどうとか言ってましたが、あれどういう意味です?」
先程蓮叶が言っていた事に疑問を覚えたので聞いてみることにした。
「私達の学院は最初に武装適正検査を行わないで、自分が使ってみたい武装で戦うんだけどね。 そしてそれを3ヶ月行ったら今度は自分が考えた武器を夏休みの課題として行って、それを新学期でお披露目と同時に暫くはその武装で戦ってもらうのさ。」
「そこまで聞くとやりたい放題に聞こえるんですけれど・・・」
「ところがどっこい。 バランスを考えずにただ闇雲に使ってみたい武装を取り入れると、今度は武装が体に追いつかなくなってくるのさ。 自分で自分の首を締めている羽目になるのさ。」
「それが彼の武器ってわけね。」
いつの間にか始まっていた試合モニターを見て、そう志摩川先輩が言った。 蓮叶の武器を見てみるとショートスタイルがダブルマグナム、セミロングスタイルがアサルトライフル、ロングスタイルがスナイパーライフルと、一見近距離でも遠距離でも対応出来る武器だと思うだろうが、本人もこの武装の弱点に気づいているか気づいてないか分からないが分かることがあった。
「あの武器では弾数管理がかなり肝になるだろう。 そしてどの武器もリロードに時間がかかる武器だ。」
「その通りだ。 あいつはああ見えて弾をばら撒くよりも1発1発丁寧に当てる方が自分のスタイルだと思っていて、あのような武装構築にしたのだが、その弱点に気づけていなかったのはやつの落ち度だ。」
たしかにあれなら俺でも敵の発砲に気を付ければすぐに対応出来そうな武装だ。 サシでは戦えない武装だな。
そんな事を考えていたら試合が終わったようだ。 予想通り夭沙が勝った。
「くっそー、同じような武装だったのに負けたぁ。」
「どこが同じ武装ですか、あんなに弱点モロだしの武装と一緒にしないで下さい。」
夭沙が若干お怒りのようだ。 なにかを馬鹿にされたのだろうなとすぐに察せれた。 夭沙が機嫌が悪くなるのはそういう時以外ないのだ。
「それじゃあ二人とも、データを渡してくれるかな?」
「了解っす。 はい。」
「どうぞ。」
「ありがとう、折角来てくれたんだし、私たちももう少し君達のデータが欲しいな。」
「それぐらいなら問題ないわ。 今度は誰が出ればいいかしら?」
「なら次は津雲君を指名しようかな? 私が直接戦うよ。ふあぁ。」
五河先輩は欠伸をしながら俺を指名してきた。 マジすか。




