第117節 デートと追跡、同じ境遇
電脳世界にポイズンノイズが現れてから2回目の週末。 前回言われた通り文香とのデートの日になった。 まあ二人きりでのデートではないんだけど・・・
「なによ? 私がいて不満?」
「そうは思ってないさ。 ただこの状況、他人から見たら妬みの対象だろうなって思ってるだけ。」
場所はいつもの大きなショッピングモール。 今回のデートには文香ともう1人、鮎が同行している。 その分に関しては文句はない。 鮎だって俺の彼女だ。 居たっておかしくはない。
俺が思っているのは今この状況についてだ。 右腕に鮎、左腕に文香が自分の腕を絡ませているこの状況の事で頭を少し抱えている。 傍から見たら「リア充野郎!」とか「爆ぜろ!」とか思われてもなにも文句を言い返せないという事だ。 毛頭言い返すつもりも無ければ、勝手にそう思っててくれと感じるのも事実だ。
「それで、今日はなにを買う予定なんだ?」
「せっかくだから、服や装飾品をと思って。 冬も終わりかけるから、春物が出てくる時期なのよ。」
そうか、この国は四季があるからそういう季節物は流行るのか。
「それじゃあ早速服屋に・・・ん?」
「どうしたの? 飛空。 早く行こうよ。」
「いや、あれ・・・」
そう言って靴屋に入っていく2人組を指さす。 2人もそれに釣られて俺の指さす方向を見る。 そこには・・・
「・・・今の輝己・・・よね? ニット帽してて見えにくかったけど。」
「そうね。 それにもう1人、あれ女子よね? 一緒に居たの。 しかもどこかで見た事あるんだけど。」
「・・・文化祭の時に輝己と戦った気の強い女子だ。」
俺には見覚えがあった。 輝己が副将戦の時に戦っていた「姉御」と呼ばれていた人だ。
「あの二人、いつの間に連絡取れるような仲になったんだ?」
「面白そうじゃない。 ついて行ってみましょうよ。」
「え?買い物は?」
「それはあれの行く末を見送ってからでも遅くはないでしょ? ほら靴屋から出てきたわよ。」
文香に言われて近くの柱に隠れる。 少し遠目から見ているから声まではさすがに聞こえない。
「ふんふん。 あの人はリツカって言うのね。 あ、別に連絡を取り合った訳じゃなくてたまたま会ったんだ。 買うものはお互いにスポーツ関連のものを買いに来たのね。」
鮎がブツブツとなにかを呟いている。 どうやらあの二人の会話を掻い摘んで話しているようだ。
「というか会話が分かるのか? 鮎。」
「私これでも地獄耳でね。 あれくらいの距離ならギリギリ聞こえるわ。」
サラリと凄い特技が飛び交った。 こりゃ下手に鮎のこと悪く言えないじゃないか。 言わないけど。
「あ、次はエレベーターで移動するみたい。 どこに行くんだろ?」
ここのエレベーターはガラス張りどころか、周りを囲うものが何も無いため相手が何階で降りたかハッキリと見えてしまう。 これどこかに隠れようと思っても無理なんじゃ?
2人は3階に降りたようなので、距離を取りつつ、俺達も後を追う。
次に着いたのは装飾品を売っている小物屋さんだった。 ネックレスやブレスレットなんかを売っている。 ピアスなんかを売っている辺りは昔の世界と変わらないな。 ここなら顔を見られない限り近づくことが出来る。 俺達はそれぞれバラバラのところに行き、様子を伺う事にした。
「なあ、これなんかあんたにピッタリなんじゃないかい?」
「ん? どれや? ちょいごつくないか?」
「そんな事ないって。 ところでなにを持ってるんだい?」
「これか? そこでチョーカーを見つけてな。 あんさん動き回るタイプなら腕や足に付けるアクセサリーは邪魔やろなと思ってな。」
「へぇ。 これ他には無かったのかい?」
「あっちに沢山あったで。 一緒に見に行こや。」
そう言ってチョーカー売り場に2人は向かっていった。 うん。 雰囲気は悪くない感じだな。 後を追おうと思った時にふとネックレスが見えたので、せっかく俺達もデートとしてきたのだ。 なにか買っておこうと思い、見えてない事を確認した後にこっそりとネックレスを購入する。
2人と合流して引き続き輝己達を追跡する。
「なんかこうやってると、浮気調査をする探偵やってるみたいね。」
文香がそんな事を言っているが、あまり俺はそうは思わない。 思いたくないだけかもしれない。
輝己達が次にやってきたのは本屋だった。 彼らは真っ先にスポーツ関連の本の陳列棚に行ったが。
「そう言えば最初のデートの時もここに来たよね。」
「行く宛もあまり無かったしな。 そう言えばあの時文香はなんの本を見に行ってたんだ?」
「私? 私はあの時文具のところを見てたわ。 ほら、電子ペンが欲しくなっちゃってさ。」
最近は本屋と文具屋が一緒のところが多いが、こっちの世界にも進出していたか。 いや、前の世界が遅いだけか? うーん。 向こうの常識と合わせるとなんかズレるんだよな。
そんな中輝己達はあるページを見ながら興奮気味で語り合っていた。 やっぱりスポーツやってると、趣味とか似るのかね。
「・・・あぁ、あんなに楽しそうな姉御、初めて見た・・・ 「あたいはこんななりだから、男なんて出来そうにないねぇ。」って言っていたあの姉御が・・・ 良かったっす・・・」
鮎でも文香でもない第3の声が聞こえてきたので、何事かと反対側を見たら、1人涙ぐんでいる女子が居た。 独り言の内容から察するにあの「姉御」と呼ばれている女子の同じ高校の女子だろう。 こっちの視線を感じたのか、その子もこちらを向いた。
「あ、す、すみませんっす。 今のは独り言なんで気にしないで下さい。」
「君、あの人の知り合いの人?」
「ええ、そうっすけど、あんたは?」
「俺達はその隣の男子の友人なんだよ。 良かったら話を聞かせてもらえないかな?」
「そちらの文化祭行った時、戻ってきた姉御の様子が日を跨ぐ事に変化していって、こっちとしても不安だったんすよ。」
お昼時、輝己達も昼を食べるためにフードコートに入ったので俺達もフードコートに入る。 丁度近くの席に座れてよかった。
「そう言えば自己紹介がまだっしたね。 あたいは恵比寿 塔子。 地凛女学院 (ちりんじょがくいん)の1年生っす。」
「俺は津雲 飛空。 よろしくな恵比寿さん。」
「私は山本 鮎。 鮎って呼んで。」
「私、長楽 文香。 これからよろしく。」
「よろしくっす、3人がた。 あたいの事は塔子でいいっすよ。」
塔子と共に仲良く本題に戻る。
「それで、彼女の事を詳しく教えて貰えるかな? こっちもあいつの事は教えるから。」
「いいっすよ。 これも何かの縁っすから。」
そう言って、輝己達の席を見る。 二人ともまだなにも注文をしていなさそうだ。
「姉御の名前は奈良宮 六花。 あたい達が姉御って言ってるのは、その性格と行動力からっす。 今まで出来なかったことを出来る人なんっすよ。 あの人は。 それに憧れて、ついて行くようになった女子は多いっすから。 なので親しみを込めて「姉御」という肩書きが付いたっす。 彼女の足技捌きはとても綺麗なんっすよ。」
「なるほど、キッカーなのか、彼女は。 ならこっちも。 あいつは嵐山 輝己。 あいつは中学まではボクシングをやっていたらしくてな。 今でも時々、シャドウボクシングやジムに通ってるんだと。 風呂の時にやつの身体を何回か見たことあるが、ボクサーにふさわしい身体付きだったぜ。」
「キッカーとパンチャーっすか。 それだけ聞くも釣り合わなそうに見えるっすけどね。 あたいの偏見っすかね?」
「どっちもスポーツマンシップには乗っ取ってるし、そういう意味ではある意味紳士淑女なんじゃないか? あの二人。 趣味は似たり寄ったりだろうし。」
そんな話をしていると、文香と鮎が注文待ち用の札を持ってきていた。 なら俺達もとそれぞれ食べたい料理を注文してくる。
向こうの輝己と「姉御」もとい奈良宮は丼だったり、鉄板焼きだったりと、スポーツマンらしく力のつきそうなものを食べていた。 こちらもこちらでそれぞれそれっぽいものを注文してきた。塔子だけは男の俺ですら胸焼けしそうなくらい注文をしてきたようで、量が多かった。
「あたいもこれぐらい食べないと身体動かないんすよね。 そっちこそ、それっぽっちで足りるんすか?」
これでも相応の量を頼んだのだが「それっぽっち」と言われるとどうなのだろうか? こういう時ばかりは向こうの方が平和だなと感じながら目の前の料理を食べた。




