第105節 3学期とサポート武器、影
「冬休みは短くも、休みは休み。 みな思い思いに休みを満喫出来ただろうか?」
3学期の始業式、相変わらず多くを語らない校長先生の挨拶も程々に、3学期始めは休みで使っていなかった体を取り戻すために、早速電脳対戦をすることになっている。 ただしクラス内のみではあるが。
「ま、今回は別の奴とチーム組むよ。 さすがにこのメンツでの勝率がおかしくなりつつあるからな。」
このメンツとは入学当初のメンツ、俺、海呂、紅梨、白羽のチームの事である。
「そうだね。 さすがに別れないと贔屓目で見られちゃう。」
「今回は敵同士って訳ね。 あんた達と戦うことなんてなかったから少しワクワクする。」
「当たっても、文句は、なしです、よ?」
分かってますって。 そこで文句を言うほど馬鹿じゃないっすよ。
順繰り試合を観戦して、自分のチームの番になった。 今回の武装は最初に貰った武装だ。 相手がどんなであろうと動けなくしてしまえばこちらに分はある。
「飛空と組める日が来るなんてね。 今回はよろしくね。」
目まで前髪のかかった男子からは好印象に受け止めてくれた。 いいチームに組めたかも。
ミーティングルームからの景色が変わった。 場所は駅周辺となった。 無人駅のような造りにしてあるため、駅を中央に置いて、それぞれステージ端まで広々と使える。
「さてとまず相手がどう動くか・・・」
「そんなの考えてたらキリがないわ。 私は行くからね。」
「あ、突っ込むと危ないよ。 ごめんなさい、私は彼女と行動します。」
先走る紫ロングの女子の後をついて行こうとした赤ツインテールの女子がこちらに頭を下げてから、一緒に行ってしまった。
「行っちゃったね。 僕らはどうする?」
「不本意だけど、彼女で様子を見よう。 危なくなったらサポートに入る感じで俺らは回ろう。」
「分かったよ。 女の子の扱いに慣れてるんだね。」
そういう事じゃないと思うんだけどなぁ? とにかく先に行ってしまった2人を追いかけるように後ろから走っていく。
「左右に敵はないよ。 後あの二人が結構交戦してるみたい。 僕らもそちらに向かおう。」
「ああ。 しかしこの距離からよく見えるな?」
「目はいい方だし、それに僕の武器は遠距離支援型だからね。 ん、ちょっとピンチっぽいね。 飛空、悪いんだけど援護してくれないかな? この武器を使うとそっちに集中しちゃって動けなくなっちゃうから」
そう言って取り出したのはサンバイザーと、2丁の小型銃。 一見この距離から狙うのかと思うだろうが、違うようだ。 そしてそちらに集中してしまっているせいで周りが見えなくなってしまう意味が理解出来た。 あんなバイザー付けたらそら見えんだろうに。
周りに敵が来ていないか、周囲を確認し、彼の周りに注意を集中する。
「オッケー。 とりあえず相手との距離は一時的に離した。 今なら合流出来るよ。」
時間にしてものの3秒。 すぐにサンバイザーを外して、前進し始めた。
「一体なにをしてたんだ? あの状況下であそこまで射程は届かないだろ?」
「僕の武器、「サポートバレット」は味方の近くから撃つことが出来るようになっているんだ。 味方にターゲットを当てて武器とサンバイザーを構えるとその味方の左右に僕が操る銃が現れて、そこから敵に向かって発砲出来るんだ。 だけど、動きの方はその味方の動きになっちゃうからそこだけは味方任せって感じかな。」
便利そうではあるが、1人では身を守れない、動けないと考えるとやはり使い所は考えなければならないのだと感じた。
走行しているうちに先程先行していった2人と合流出来た。
「やっと来たわね。 遅いわ・・・よ!」
「お二人とも無事に着けてよかったです。」
ロング女子が敵の撃ってきた弾を避けつつ、牽制をしてる中にちゃんと合流完了した。
「君達が敵を引き付けてくれてたおかげだよ。この方法でも・・・」
作戦を練ろうとした時に、なにか違和感を感じた。
「どうしたのよ?・・・ なにかしら? あれ。」
その視線の方に向けると、1つのノイズがはしっていた。 なにかのギミックかと思ったがすぐに違うと実感した。 何故ならそのノイズからは黒い影が立っているような状態で現れたからだ。 味方は全員後ろにいる。 という事は敵の誰かか? そう思ってミニマップを見たが、その影の部分に誰もいない。 正確には敵味方どちらもその影の部分を見ているのだ。
「なんだなんだぁ? これがここの隠しギミックってことなのかぁ?」
みんなが気味悪がって近づかない状況で敵チームの1人が近づいていく。
「なんだよ? 脅かし系か? なら出すタイミング間違えてんじゃねぇの?」
状況をイマイチ理解出来ていないのか、それとも誰かが仕掛けたのかと思っているのか、警戒心の欠けた状態で1歩、また1歩と近づいていく。
影は動かない。 7m、5m、3m、いよいよ手が届きそうな距離になり、影がようやく動く。 腕を真上に挙げた。
「なんだよ。ちゃんと動くんじゃねぇか。」
手を伸ばしたそいつの手は・・・
瞬きをしたその刹那、影が振り下ろした腕と共に地面に落ちた。
目の前で起きた事に理解が追いつかなかった。 あまりにも一瞬の事だった。
「・・・・・・え? ・・・なんだよこれ・・・・・・?」
そいつが発した言葉の後に俺は
「先生!! 強制終了して下さい!! 今俺達がいるのは危険です!!」
トランシーバーから現実の先生にすぐに強制終了してもらうように言う。 そしてその後すぐ様ミーティングルームの景色へと変わった。
「う、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ホッとしたのも束の間、甲高い声が響いた。 ミーティングルームから出るとそこには先程、電脳世界で手を切断されていた男子生徒が他の生徒に囲まれていた。 手は切られてなかったが、その手を押さえるように蹲っていた。
「一体なにがあった? あの影に何をされたんだ?」
「手が・・・痺れて・・・震えが・・・止まらなくて・・・い、痛い・・・痛い!!」
よく見てみると握られている手先がガクガクと震えていた。 腕から先が痙攣しているのだろう。
その生徒は他の人に支えられながら保健室へと向かっていった。
「どうなっている? ただの電波じゃないのか?」
「・・・先生、もしかして今回の事、初めてじゃないんですか?」
1つの先生の言葉に疑問を感じ、質問をしてみる。 その質問に先生は驚いた顔をした後に、少し考え込んで、俺の方に顔を向けた。
「君は生徒会の一員だったね。 なら教えてあげられる。 この後生徒会で集まってこの話をすると思うけど、今のあれは実は一昨日程から発生しているんだ。 君達が戻ってくる時に不備が無いように先生達も何回か試運転がてら動かしているんだ。 ところが一昨日、先程のノイズが少し走っていた。 現れたのはあのように形がしっかりしたものではなかったし、なによりすぐに消えたから、報告を行っただけで終わったんだ。 こんな事になるとは思ってもみなかった。」
先生がそこまで述べて頭を下げる。 その時点では驚異ではなかったと言うことか。
「・・・彼は大丈夫でしょうか。」
「分からない。 もしかしたら彼の手は動かないかもしれない。」
警戒心を無くし、無謀にも体を張って驚異だと教えてくれた彼には侮蔑はしない。 驚異に立ち向かったことに敬意すら表する。
「みんな! 今回の授業はこれにて終了だ! 驚異の排除、もしくは対策が取られるまでは各部屋にある小型装置からの電脳世界への侵入も禁止する。 申し訳ないのだがみんなには理解してもらいたい。」
そう言ってクラスメイトはみんな解散をする。 しかし俺はこのまま寮には戻らない。
「飛空さん、どちらへ?」
「こいつが行く場所は決まってるわ。 生徒会室でしょ?」
「ああ、今回の事は多分だけど学園の事だけじゃないと思うんだ。」
「そっか。 夭沙にもよろしく言っておいてね。」
「ああ、それじゃあ行ってくる。」
そう言って俺は今回の事件を解決に向かうべく、生徒会室へと向かった。




