第104節 年越しと初詣、お雑煮
「そう言えばそろそろ年が変わるなぁ。」
夕飯を適当に済ませた後、テレビを見ていた父 (代わり)の津雲 範武 (こちらも名前の件は存在を示すものらしいので割愛)がそう呟く。
「この世界にも年越しはあるのか。」
その呟きに俺も呟く。 クリスマスみたいなイベントは無いのにな。 ま、クリスマスなんてリア充のなんたららしいから別にどうでもいいな。 え? 自分も充分リア充だろうって? ははは 「リア充爆発しろ」どころか修羅場になりかねんわい。
「飛空、今年はどんな1年だった?」
そう父が問いただしてくる。 ふむ、どうだった・・・か・・・
「凄く色々な事があった1年だったかな。 ほんとに色々あった。」
その言葉と共に今年の事を思い返す。
まだ3ヶ月前の元の世界にいた時は、高校が受かって浮かれてたっけ? だけど新入生になるって時に、異世界に連れてこられて、そこで新入生としてやって行くことになって、色んな人にあって、戦って、学ばさせてもらった事もあったな。 もしかしたら語りきれない位の事をしてきたのかもしれないな。
「そうか。 それは良い1年だったな。」
「うん。 と言うよりも神様ならそれなりにこっちの事見てますよね?」
「そこはほら、親の身になったから、そこは両親として聞きたいんだよ。」
複雑なんだな。 神様も。
「というか母さんは何を作ってるのさ。」
先程から会話に入らず、黙々と何かを作ってる母に疑問を飛ばす。
「おせち料理と年越しそばよ。 風流でしょ?」
「え? この世界でも年越しそばとかっていう風習があるの?」
「そういう訳ではないけれど、向こうらしい事をしておかないと忘れちゃうかもしれないでしょ?」
俺の為の事か。 でも確かに異世界まで来てそれを忘れるのは嫌だな。
「年越しの時は起こしてあげるから仮眠を取っておきなさい。」
「あ、そう? ならそうさせてもらおうかな?」
そう言って俺は一度自分の部屋に行き、布団の中に入りそのまま眠る。
「・・・ら、・・・ら。 起きて飛空。」
微睡みの中そんな声がして、目を覚ます。 目の前には母の千恵がそこにあった。
「・・・・・・今何時?」
「11時半よ。 そばも用意してあるから。」
体を起こして、リビングへと向かう。 父が見ているテレビには年越しを祝福するかのような事を色々と言っていた。
「はい、年越しそばよ。」
そう言って丼を用意される。 シンプルな感じではあるがこういう時は下手に飾らない方が俺は好きだ。 出来たてなのか熱々だったのでしっかりと冷ましてから口に運ぶ。 懐かしい味が口の中に入ってくる。 あぁ、この感じ、いいわぁ。
「年を越すのもあと少しだな。」
その時計をみると後2分となかった。 思い返せば色々とあった、この世界での1年も今日で最後。 ありがとう今日までの1年。
「あけましておめでとうございます!!!!!」
テレビの一言で年越しを実感する。 そして携帯がめちゃくちゃに鳴り響くのを確認する。 あけおめ通知半端ないわ。 それもまた始まりを祝福してるんだな。 始めよう、今日からの1年を。
「おう。 みんな、よく来たなぁ。」
夜が明ける前の神社。 この神社は俺の家の近くにあったのと、かなり大きい神社はここだったらしい。
集まったのは俺、海呂、輝己、啓人、雪定の男子勢と桃野姉妹、山本姉妹、瑛奈の10人だ。 ちなみに女子の格好は至って普通で晴れ着姿ではなかった。 残念。
「とりあえず行こうや。 このまま行くともう鳥居があるで潜ろうや。」
階段を登っていくと鳥居が見える。 かなりの人もいたが、初詣なんてこんなものだろうな。
「こういう時は現実的に神様頼りなのよね。」
「でも、みんな、真剣に、お祈りしてる、から、そんなこと言っちゃ、ダメだよ。」
神頼みって言うなら家に本物の神様がいるんだけどな。 まあ、その時になるまで黙っとこ。 今教えることじゃないしね。
「本殿まで遠いね。 こんなことしてる間に陽が登っちゃうよ。」
「凄い人だかりだよね。 お願いしてるのも一瞬なのかな?」
海呂と雪定が今の現状の感想を言う。 陽が登る前には、お願いしたいなぁ。
そうして人に揉まれる中30分。 ようやく本殿に着いた。 握っていた硬貨と手が開いた瞬間に一気に冷え込んできた。 もう賽銭箱の中に投げてしまおう。 賽銭箱の中に入れた後、2拍して、目を瞑り祈りを掲げる。
(今年も無事な1年でありますように。)
無難であり1番難しい願いを願いに込める。 みんなどんな願いにしているのか、真剣に願いを唱えている。
みんな願いを込めたところで、御守り売り場へと足を運んだ、やっぱり初詣と言ったらこれだよね。
「さてさて何を1番に思うか。 「勤勉」、「健康第一」、「恋愛成就」・・・」
今の自分には特に必要がないものばかりだ。 中には「厄除」の黒い御守りがあったが、家に神様がいるのに遠ざけるようなことはしたくないので見なかった事にする。
「あ、これがいいかな。」
そう思いその御守りに手を伸ばし、購入をする。 みんな買い終わったようで、俺の帰りを待っていた。
「おかえり飛空、随分と時間がかかっていたね。」
「まあなぁ。 なかなかいい御守りが無くてな。」
「それで? 悩み抜いた結果何にしたんや?」
「俺はこれだ。」
俺の買った御守りは、赤色で真ん中に矢で射抜かれた的が書いてあり、「必中」の文字が書かれていた。 これってよく弓道部の奴がつけるやつなんだろうが、この世界ではまあ電脳世界での戦いがあるため、これでもいいかなって思った次第だ。
ちなみにみんなそれぞれそれっぽい御守りを買っていたが輝己のみ「恋愛成就」だったことに驚いた。 あの文化祭の時の女子だろうなとは察せれた。
「あ、初日の出だよ。」
山の向こうから陽が登ってきた。 新たな1年の始まりを告げた。
「それで、初詣も初日の出も見たんだけど。 これからどうしようか?」
「ほな二度詣りするか? でもここより大きい神社ってどこや?」
「別に大きい所じゃなくてもいいでしょ。 せっかくみんな集まったのに、ここで帰るのは勿体ない気がするわね。」
「んー、なら家に来るか? みんなが良ければだけれども。」
その一言にみんなバッと俺を見た。
「ほぉ、言うたな? なら遠慮なくお邪魔するで?」
「ご家族の・・・人がいる・・・なら・・・挨拶しておかないと・・・ですね。」
「そうですね。 私達のことを知ってもらういい機会かも知れません。」
なんかみんな行く事になったからそれでいいんだけど・・・急に友達や恋人と一緒に帰ってきて度肝を抜かさないだろうか?
「あら、飛空の友達? 外は寒かったでしょ? お雑煮を出すからリビングで暖まっててね。」
なんの前触れもなく呼んだのになんの躊躇いもなく、受け入れていた。 凄い寛容の持ち主だな。 そこは神様と言ったところか。
「なにが出てくるんやろうな。 オゾウニって言っとったけど。 飛空、なにか知っとるか?」
「みんなが知らないなら俺は敢えて教えない。 まあ不味いものじゃないからそこは安心してくれ。」
この世界でお雑煮を知らないとは。 これは反応が楽しみだな。
「おまたせ。 お雑煮出来たわよ。」
出てきたお雑煮に皆目を丸くしていた。
それもそのはず、味噌ベースの汁物の中に、かまぼことお餅が入っているのだから。
「というか味噌にしたんだね。」
「あら。 嫌いだった?」
「ううん。 むしろ大好きだよ。」
昔の家ではスープ類は基本的に味噌ベースだった。 ラーメンだったり、お雑煮だったり、だから醤油ベースだと、なんかあっさりし過ぎてた部分もあったんだよね。 好みに合わせてくれたのかな?
そんな治療神お手製のお雑煮を躊躇いもなく手に取って食べる。 適度に伸びる餅とスープを味わいながら、昔馴染みの味だなぁとしみじみ感じた。
そんな様子を見て、みんなお椀に手を伸ばして同じように食べる。 するとみんなどこか納得したように、「ホッ」と息をついていた。
「美味しい・・・です。 とても・・・暖かくて・・・落ち着きます。」
「お餅をこんな風に食べるのは初めてだなぁ。 なかなか味わえないかも。」
「喜んで貰えたようで嬉しいわ。 せっかく来てくれたし、おせち料理も用意してあるわ。 ゆっくりしていってね。」
そう言って二段に重なった重箱を開ける。 そこには色とりどりの料理があって、みんな驚いていた。 こうやって新年に食卓を囲むってなんかいいなあ。
みんなで料理をつつきあって、みんな笑顔になって、いい新年が迎えられたよ。
その後、空いたお椀を片付けようとして厨房に入ったら、なんか母が自己暗示モードになっていた。 あ、緊張はしてたのね。
みんなを見送って、母と父のみになったのを確認して、
「あれが俺のこっちの世界での友達。 実際に見てみてどうでしたか?」
「みんないい子じゃないか。 これからも仲良くなっておくれ。」
「私達もあなた達を何時でも見ているわ。」
神様からのお墨付きだ。 もうあいつらも認められたんだな。
新年も張り切っていこうか!
こっちの世界での話ですので、今の時系列とは関係ありませんので悪しからず。




