第100節 みんなのいる夜とお迎え、誕生会
この一週間がとても早く感じた。 自分の誕生日が近づいてきているから? 学校の授業や生徒会の仕事で忙しいから? バーチャル世界で時間の感覚が狂ったか? どんな要因であろうがとにかく時間が早く過ぎていった。
過ぎていって、週末前の平日の夜になる。 寮に戻り、部屋に入りみんなが帰るのを見送ろうと思ったが、
「・・・あれ? 今日はみんな帰らないのか?」
全員帰るための荷物を用意しておらず、準備を始める訳でもないようだ。
「今日はみんな残るんだ。 いやぁ、飛空は寮に残る方が多いから馴染み深いかもね。」
「今日は家に両親が帰ってこないからね。 家に1人でいてもしょうがないし、それなら寮にいた方がいいと思ってね。」
「家は逆に集まりすぎるんや。 人口密度が凄いんでそれを避けるためにここに残る事にしたんや。」
理由は様々だが、残る事には変わらない。
「というかここに休日にみんなが残るのって何気に初めてじゃないか?」
「そう言われてみればそうだね。 早く帰ったりはあったけれど、寮に残るのは初めてだね。」
なんだか奇妙な気分だが、いつもの休日とは違う楽しみ方が出来そうだ。
とりあえずいつも通り、夕飯を食べるために食堂へと向かう。
「あら、珍しいわね。 みんな残ってるなんて。」
寮母の明石さんも驚かれていた。 いつもは1人だからなぁ。 そりゃ最初からみんないれば驚くか。
食堂に入るとやはりガランとしていた。 うーん、いつもは1人で食べてるからほんとにいつもと違ってみんながいるって新鮮だなぁ。
「っはぁ。こんなに食堂が空いてるなんて入学式以来なんやないか?」
「改めて見ると凄い広さだよね。 食堂って。」
「こんなに広いと疎外感感じちゃうかも。 飛空、よくこんな状況でご飯食べれるね。」
馬鹿にしてんのか? それ。 ならお前らにも味あわせてやるだけだ。 ははは。
食事を終えて、風呂にも入って、いつもは話し合いで済ませているが、今回は色んなボードゲームをして、眠りにつく。 うん。休日にこういう事をするのも、悪くないな。
翌日の朝、いつもと違う休日、本来帰ってるみんなが寮にいる。まだみんな眠っているため、外の空気を吸いに玄関から花壇の方へと出る。 んん。 外の空気は美味い。
「おはよう飛空。」
その声に振り向くとイバラが相変わらず花壇に水をあげていた。 というか花の種類、異様に多くなってね?
「渚が色んな花の種を買ってくるから、植えてあげなきゃ勿体ないと思って。」
だからって買ってきた種全部撒くことないんじゃね? 花壇の肥大化は免れなさそうかもな。
「そうだ飛空。 瑛奈がこっちに来たいって言ってた。」
「こっちってこの曜務学園にか?」
「うん。 だけど、午前中は用事があるとかで来れないらしいから午後に学校に迎えに来て欲しいんだって。」
「軟瑠女子高校にか? 俺が行ったら違和感を感じないか?」
「別に中まで入るわけじゃないから大丈夫だと思う。 そんな訳だからお願い。」
うーん。行くのは構わないんだがなぁ・・・ まあ部屋でゆっくりする理由も実際何も無い訳だからな。 鈍った体を動かしがてら行くことにしますか。
「あ、飛空。 そこにいたのかい? 朝ご飯食べに行こうよ。」
玄関から声がしたので、顔を向けると、海呂、輝己、啓人がそこにはいた。 どうやらみんなが起きる時間になっていたようだ。
「おう。 今行くよ。」
そういって玄関に戻る。 イバラも花壇の水やりに戻って行ったが、どこか嬉しそうだった。
みんながいるので、昼頃までプライベートルームにて学校から出ているミッションを行って、昼ごはんを食べ終わった後に玄関へと向かう。
「お? どこ行くねん?」
「軟瑠女子高校に瑛奈がここに来たいって言ってたから迎えに行くんだ。」
「そっか、気を付けてね?」
「ああ、そんじゃあ、行ってくるわ。」
そう言って寮を後にする。 正門を出た辺りで、軟瑠女子高校までの道のりを携帯のマップで確認する。 えっとここからだと・・・・・うわ、遠いな。 早くても1時間半かかんの? まあ、瑛奈の為だ。 行きますか。
・・・舐めていた・・・・軟瑠女子高校の遠さに・・・。
バス、電車、ケーブルカー、色々なものに乗り換えをしてようやく軟瑠女子高校の前に着いた。 しかし休日だから良かったものの、平日にこんな所彷徨いてたら変質者扱いだぞ。 というか肝心の瑛奈が近くに居ないんだけど。 あんまり長くここにいる訳には行かないんだが・・・ 部活なのかサークルの一環なのか、外から女子の声を聞きながら待っていると、
「お待たせ・・・致しました・・・飛空さん。」
息を切らしながら瑛奈が現れる。 青いカーディガンを来ていたので少し走るだけでもすぐに暑くなってしまうだろう。
「やあ瑛奈。 用事は終わったのかい?」
「ええ・・・大丈夫・・・です。」
「うん。 それじゃあ、行こうか。」
「あ、行く前に・・・ちょっとスーパーに・・・よりません・・・か?」
「うん? 別にいいけど・・・?」
珍しくと言っては失礼だが、瑛奈から寄り道発言が来るとは思ってもみなかった為、少したじろいてしまった。
曜務学園周辺に戻って近くのスーパーでお菓子やらジュースやらを購入して曜務学園へと戻る。 気がつけばもう夕日が沈み掛けていた。
「こんな遅くになっちゃって、そっちは大丈夫なのかい?」
「大丈夫・・・です。 むしろ・・・今日は帰らないと・・・言って・・・ありますので・・・」
?? 帰らない? なんだか瑛奈の喋りに違和感を覚えた。
そんな事を思いながらも、曜務学園の正門に着き、寮へと足を運ぶ。
「へぇ・・・曜務学園って・・・こんな感じに・・・なってるんですね。」
「文化祭の時は来なかったのか?」
「授業が・・・休日まで・・・長引いて・・・しまったので。」
そりゃ残念だ。 来年は来れるといいな。
寮へと戻ると食堂の辺りがやたら騒がしかった。
「ん? 今日ってそんなに生徒が残ってたのか?」
玄関へ行って寮の中に入ると、
「あ、飛空。 おかえり。」
イバラが迎えに来た。
「うん、ただいま。 食堂のこのうるささはなんだ?」
「やあ、飛空君。 やっと主役が戻ってきたようだね。」
明石さんが寮母室から出て、そんなことを言ってきた。 主役? なんの事だか分からず首を傾げる。
「行こうよ飛空、みんなが待ってる。」
「みんな?」
イバラに手を引っ張られながら食堂に向かう。 もう訳が分からなくなってきた。 食堂の扉が開かれるとそこには・・・
『誕生日おめでとう!』
「わっ!」
みんなの声とクラッカーの音でびっくりしてしまったが、もっと驚いたのは「HAPPY BIRTHDAY 津雲 飛空」と暗幕があったからである。
「こ、これは・・・」
「君の誕生日だと聞いてね。 食堂を貸切にさしてもらったんだよ。 休日はなかなか使われないからむしろ好都合だったよ。 君は幸せ者だな。」
後ろから明石さんが事のあらましを聞かせてくれた。 なんでも今日の為に色々とみんなが動いていたようで、瑛奈をここまで連れてくるまでにセッティングをしていたようなのだ。
「しかし、よくやるぜ・・・こんなことをさ。」
「何を言うか飛空! みなお主の為に準備をしたんだぞ?」
エレアがこっちによってきて強く主張する。 おっと勘違いさせちゃったな。
「いや、そういう事じゃなくてさ。 今までこんなことされたことなくてさ。 むしろ嬉しいんだよ。」
元の世界でもこんな盛大に祝ってもらったことは家族ですらなかった。 なので感慨深いのだ。
「ほらほら、主役なんだからなにか言ってよ。」
紅梨にジュースの入ったコップを持たされて、みんなの視線を集中させる。 うわぁ、なんにも考えなかったぞ。
「あーっと・・・本日はわざわざ俺の誕生日の為に・・・」
「ええーい! 辛気臭い挨拶はなしや! とにかく誕生日おめっとさん! 乾杯!」
『乾杯!!』
おい、ぶった切るなよ。 まあでもなにも思い付いていなかったしこれでいいか。 そんな人生初の賑やかしいパーティが始まった。
「あ、ズルい! それ私が取ろうと思ってたのに!」
「早い者勝ちだよ。 お姉ちゃん。 あ、エレアちゃん。 これとかどうかな?」
「どれどれ? お、これまた面白そうなのを引いたの!」
「やばいなぁ。 また引っ掻きまわされるかも・・・」
食事が終わったあとみんなでパーティゲームをしていた。 俺だけがルールを知らないゲームだったので、最初は持ち主である紅梨と白羽が付いて、説明しながら戦っていたが、
「それをそうするなら俺は・・・いや、まだ使う時じゃないかもしれないな。 これを使った後に返し手があるのならまだ警戒して・・・」
いつの間にかすっかりハマってしまって、今では戦術もある程度なら考えれるようになった。
「あの状況の飛空は危険やで、先生。」
「そうだね。 なら先にこっちから動いて、あぶり出してみようか。」
「先生、意外と狡いなぁ。 しかしこの状況ならやらん手はないか。」
みんなチームを組んで思い思いに対戦を楽しんでいる。 最初こそ俺がなかなか勝てなかったが、今ではいい所までいける。 これで勝てるとまた楽しいのだ。
「戦い以外で・・・飛空さんの・・・笑ってる所・・・初めてかも・・・知れません。」
「そうなの? ああ、でも飛空って学校にいる時でも結構センチメンタルな所あるから、笑ってないと言えば、笑ってないかも。」
そんなに笑ってないか、俺。 でも普段の生活だとあんまり笑わないから、こんなに楽しいのは戦い以外ではほんとに久しぶりかもしれない。 なら今日はとことん笑ってやろうじゃないか。
こうして異世界での誕生日会は今までにないくらいに楽しんで、夜が更けていくのだった。




