第99節 腑に落ちない事と誕生日、飛空の彼女達
文化祭も終わり、後は冬休みに向けて授業を受けるだけなのだが、何故だか腑に落ちない。 頭に引っかかるこの感じはなんだろうか? この世界に来て嫌な事なんてほとんどなかった。 むしろ前いた世界よりも楽しいと思える程だ。 だが、なんだろうか? 何がそんなに気になる事があるのだ。
思い返せば色んな事があった。異世界での高校入学。 電脳世界での戦い。 イバラとの出会い。 学校交流会。 夏休み。 「ブラッド」の事件。 この世界の女子達からの告白。 文化祭。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・文化祭?
「あ、そっか。 誕生日。」
その言葉と共に俺は目が覚めた。 どうやら夢の中で今までの事を思い返して、中学までの自分をリンクさせていた。 そして思い当たった。 自分の誕生日だ。 この世界に来て (体感的に)半年以上いる。 仮に元の世界での入学式が同じ時期になっているのだとしたら・・・
「そろそろ来てもおかしくないよな?」
いや、もしかしたら過ぎているかもしれないが、確認したくなってしまった。
そう思い、部屋の壁にかけられているカレンダーの元に行く。 みんなまだ寝ている時間なので静かに動く。
えっとこの世界に来たのがちょうど4月 (この世界だと呼び方は多少違うが今はこっちの呼び方にしよう。)の頭からだろ。 で、今が8月の終わりがけだ。 日数を元の世界と大体照らし合わせると・・・
「んー。 今週末に誕生日って事になるのか。」
秋の終わりがけが俺の誕生日、あまりにもごく自然に自分の誕生日をスッポリ忘れていた。 文化祭が終わった週の初めに思う事ではないがな。 こっちの世界の誕生日の祝い方って元の世界の祝い方と変わらないのだろうか? ケーキを用意して、歌を歌って、プレゼントを貰ってというものだろうか?
そんなことを思いながら陽は昇り、みんなが起き始めた。
「おはよう飛空、今日は早いんだね。」
眠気眼の海呂からそう言われる。 早いっていっても30分位の違いだろ。 あまり当てにならないだろ。
「で? カレンダーなんかとにらめっこして何しとんねん?」
輝己が当然とも言える質問をしてきた。 朝から友人がカレンダーなんか凝視してたらそりゃ疑問に思うよな。
「いや、なんだ。 そろそろ俺、誕生日だなって改めて思ってな。」
「あ、そうなの? それで、いつなんだい?」
「今週末。」
啓人が聞いてきたのでそう返す。 平日と休日の区別はあるのに曜日の区別がないのがこの世界なのだ。 なので今週末と答える他ないのだ。
「ほーん。 そうなん。 それなら誕生会をしないとな。」
「誕生日を盛大に祝うのは小学生までだよ。」
「別にパーティしようとは言っとらんやん。 プレゼント渡すだけでも誕生会は成立するで。」
あ、プレゼントは貰える可能性あるのか。 まあ、この世界で祝ってもらえるだけでも十分だったりするんだけどな。
「とりあえず点呼とご飯食べに行こうよ。 今週末に誕生日ならまだ話す時間はあるし。」
海呂のひょんとした言動に「それもそうだな」と思い、部屋を出る。
点呼を取り終えて、食堂に入り、おかずの野菜炒めを貰い、ご飯のお供に納豆もどき (名前が違うらしいのだが、面倒なのでそう呼ばせてもらう。)の容器を取って、ご飯を盛り付け、味噌汁をお椀に入れて席につけば朝ご飯のセッティング完了だ。
「しかし自分の誕生日なんて忘れるもんかいな?」
向かいに座った輝己にそう言われる。 そうは言うが俺は今朝思い出したんだ。 誕生日なんていつの間にかスッポリ抜けるもんだろ? そもそも俺は元々はこの世界の人間ではないしな。 感覚が違えばズレが生じるというものだ。
「その事彼女達にも教えてあげないの?」
海呂がそう言ってくる。 んー。 教えてもいいんだがなぁ。 「俺の誕生日近いんだぜ?」って言われても困るだろ。
「まあそうなんだ程度に思ってもらえればいいのかなとは思うんだがな。」
「何の話をしてるのよ。」
そんな話をしてると山本姉妹が現れた。 噂をすればってやつか。
「おう、おはようお二人さん。 早速なんやが、こいつ今週末誕生日なんやと。」
あっさりと悩んでいたことをバラしていく輝己に少し睨みつける。
「別に減るもんやないしええやん。」
そうかもしれないが反応に困るだろうが。 そんな「彼氏の誕生日だからなんか祝ってやれないか?」みたいな感じにされると。
「おらそうなの? 結構遅い方なのね。」
「誕生日に早いも遅いもないと思うよ。 お姉ちゃん。」
2人ともそんなに気にしてない様子だ。 まあ確かにあんまり気にする事でもないか。
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「急に集まってもらってゴメンなさい。」
誰もいない食堂、そこに集まっているのは女子6人とアンドロイドが1機。 彼女達、飛空の恋人の女子達が放課後に集まって会合を開いている。 第一声で夭沙がみんなに対して謝罪をした。
「気にすることじゃないわ。 確かに急だったけれど、そういう事なら仕方ないわよ。」
紅梨が謝罪する夭沙にそう言って宥める。
「しかし飛空もズルいのぉ。 こんな期間のない時期に誕生日の事を言うなんての。」
エレアはそう言っているが、どこかワクワクしている。 なにを贈るか、彼女はもう決まっているのかもしれない。
「でも、飛空さんが、欲しいものが、わからないです、ね。」
白羽は少し心配気味だ。 もし好きでもないものを贈ってしまったらと思うとショックを起こすかもしれない。
「大丈夫。 飛空はどんなものでもちゃんと受け取ってくれる。 それは1番分かってるでしょ?」
イバラはそんなに心配をしていないようだ。 貰った経験からだろうか?
『私は・・・そちらに・・・参加・・・出来なさそう・・・ですね。』
携帯越しに瑛奈が悲しそうに言ってくる。 違う学校故に近くに居ないため、1番会えないのがツラいのだろう。
「その辺は大丈夫よ瑛奈。 飛空の誕生日は今週末みたいだから、一緒に祝いましょ?」
瑛奈の心配を鮎が一掃する。 その言葉に瑛奈も「ホッ」と胸をなで下ろした。
「それで、彼をどうやって祝おうか?」
文香が、1番の問題に話を聞いていく。
「休日に誕生日ならちょっと大袈裟にやってもいいわよね。」
「でも、飛空さんは、あまり好まない、かもよ?」
「サプライズにしてみるのはどうだ? 飛空もびっくりすると思うぞ?」
「飛空は意外と勘がいいから何気ない事からバレちゃうかも。」
『飛空さん・・・どんなものが・・・欲しいですかね?』
「やっぱり身に付けるものがいいんじゃない? ほら、飛空って着飾らないから。」
「私は出かけれないけれど、飛空の為に精一杯考える。」
「でもどんなものをあげても飛空は嬉しいと思うわ。」
みんな思い思いに飛空をどうやって祝おうか意見があがる。 もちろん当の本人には分からないように隠しながら。
「それにしても飛空さんって不思議な人だと私は思うんです。」
夭沙の何気ない一言にみんなの視線が集まる。
「不思議ってなにが?」
「いえ、なんと言いますか・・・ なんだかこの世界の住人じゃ無いみたいで・・・ 私の感覚がそう訴えかけているだけなので気にしないで下さい。」
夭沙がそういうとみんな黙ってしまう。
「この世界のって言うのは、この国のって事?」
「・・・ではないです。 どこか、もっと違う所から来た感じがするんです。 例えば別世界・・・とか。」
「でも、それを確証する、ものはない、んでだよね?」
「ええ。 ですので忘れてもらって結構です。 私の思い過ごしだと思うので。」
「もしもそれが事実だとしても、それを明かすのは飛空自身よ。 私達が簡単に入っていい領域ではないわ。」
鮎の一言は厳しいがそれで正解だと思う。 彼の秘密はなんなのか。 それを解き明かしていいものなのか。 彼女達には分からない。
「私は飛空がどんな事になっても、常に味方でいる。 例えみんなから嫌われるような事になっても、私は飛空のそばに居る」
重たい空気を察したのかイバラがそう告げる。 彼女にとって彼は命の恩人以上のものになる。 なのでどんな事に彼がなろうとも彼のそばに居たいと思うのだ。
「イバラ、その「みんなから嫌われる」って言うの。 私達は入れないでよね。」
紅梨がイバラの一言に訂正を入れる。 ここにいるみんなは飛空が好きだからこそ、彼がどんな事になっても決して離れないだろう。
「重い話は終わりじゃ。 みんなで飛空の誕生日プレゼントを買いに行こうぞ!」
エレアの一言にみんな笑顔を浮かべて頷く。 彼の誕生日わ良いものにしよう。 そう思うのは皆同じだったようで、飛空の誕生会の為に動き始めた。




