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別世界で俺は体感バーチャルTPSの才能がとてもあるらしい。  作者: 風祭 風利
第12章 曜務電脳統合学園文化祭
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第96節 2日目と幽霊屋敷、クレープ屋

「・・・昨日以上にすっげぇなぁ・・・」


 文化祭2日目、俺は自分のクラスののっぺらぼう (ちゃんと周りが見えるように工夫はされている)の格好をしながら教室前で勧誘をしているが、まあ廊下を歩く人の多いこと多いこと。 売り子をしてるこっちがもみくちゃにされそうになる。


「入れてください!」


 小学生位の女の子2人と親御さんが来たので中に入るように催促する。 目の前にのっぺらぼうがいても驚かないというよりはほぼほぼ人間と同じなので怖がらないのだろう。 表で看板持ってるっていうのもあるしな。


「おーい津雲、そろそろ交代の時間だ。 入ってくれ。」


 クラスの男子にそう言われたので看板を外に出てくるやつに持たせて、所定位置に行く。


「きゃあ! あぁなんだ。飛空じゃないの。」

「いい加減慣れてくれよ。 顔が無いだけだぜ?」


 目の前の紅梨が驚く事にさすがに呆れが出てしまう。 慣れてくれよ。


「いやぁ、自分で作っておいてなんだけどこれ仕込みが難しいわね。」


 紅梨がそう言ってくる。 ちなみに今目の前で喋っている紅梨は棒の先端に綿が付いていて、首の部分が紙をジャバラ状に作ってあるため、棒を伸ばすと首が伸びるという仕様だ。 ろくろ首ならもっと首がうねらせれるような感じにしたかったらしいがそれはしょうがない。 雰囲気だけでも楽しんでもらおう。


 そんな紅梨と別れ、俺も所定位置につく。 役割としては「朝、顔を洗っていたら、手ぬぐいで拭いたら顔が剥がれてしまった。」という設定だ。 なので、手ぬぐいにも顔が付いている。 これはのっぺらぼうとして振り向いたと同時に手ぬぐいに取れてしまったというのを示唆して貰うためである。 さすがに高校生の発送なので某廃病院のようにはクオリティはない。


 そうこう準備してる内にお客さんが入ってきたようだ。 いそいそと後ろを向いてスタンバイする。 昔の人の暮らしを題材にしているこの幽霊屋敷。 紅梨と俺は朝の時間をテーマにしている。


「朝の始まりはやはり顔を洗うことに始まります。 昨日までの疲れを吹き飛ばす気持ちのいい朝にする為に。」


 その説明が俺の行動合図。 顔を洗う振りをして手ぬぐいで顔を拭く振りをする。


「あれぇ? おかしいなぁ? なんか自分の顔が・・・」


 そう言ってお客さんの方を向き、そして


「目の前にあるんだけどぉぉ!」


 そう言うとお客さんは「ひっ!」という声を上げて次のところに案内されていく。


 俺と紅梨の朝の時間の部はこれで終わりだが、昼の時間のところに「くねくね」、夜の時間に「あかなめ」と「提灯おばけ」を配置して、最後に海呂の「狼男」が襲いかかる寸前で退出するという感じだ。 ちなみに、この幽霊屋敷の出し物は時間によって出るおばけや妖怪が変わるのがウリだ。 つまり1度来たお客さんでも別の恐怖を味わえるという感じにした。 背景設定は変わってないが。


「しかしまあ、手の込んだ事をよくやったもんだなぁ。 あの2人も。」


 あの2人とはうちのクラスの委員長、副委員長である。 彼らなりのやる気が出たのか、この部屋のクオリティに負けないようにか、とにかく役割の交代制を持ちかけたのは彼等だ。 最初からそんな感じで案を出してくれれば俺らも動きやすかったんだけどなぁ。


「ま、終わった事だしいっか。」

「朝の始まりはやはり・・・」


 おっと次のお客さんだ。 準備して待ち構えないと。



「おーい。 お客さん少し引いたから、今なら休憩行ってきていいぞ。」


 あれからぶっ通しでやってようやく落ち着いたようだ。 出し物はちょこちょこ変わっているが俺と紅梨の朝の時間の部分だけは変わる時間が大分後になってしまった。 時間と配置の都合上仕方の無いことだ。 この後はもう出番はないため、頭の被り物を含めて、全ての衣装を脱ぐ。 そして誰もいないのを見計らって、教室を後にする。


「・・・っはぁ。 疲れたぁ・・・ ああ、外の空気が気持ちいい・・・。」

「お疲れ、飛空。」


 そんなことをボヤいていたら紅梨が飲み物を持って待っていた。


「ほら、早く行こうよ。 あんたの参加のイベントは夕方でしょ? その前に回ろうよ。」


 そう言えばそんな約束してたなぁ。妹である白羽は夭沙と文化祭を回っているのだそうだ。


「あぁっと ちょっと待って。 すぅ・・・はぁ・・・ よし! 行こうか!」


 深く深呼吸してから紅梨の持ってる飲み物を貰う。


「あ、そっちは・・・」


 紅梨がなにか言いたげだったが、喉が渇いていたこともあって半分位飲んだ。


「ふぅ。 生き返るぅ。 ん? どうした?紅梨。」

「そっち・・・あたしのだった・・・んだけど。」


 赤くなった顔でそう口を動かす。 ん? それってもしかして意図せずして間接キスしちゃったって事か!?


「あ、す、すまん。」

「いや、別に、いいのよ・・・」


 そう言って更に真っ赤になる紅梨。 うーん、意識させてしまったか。 だかこれは不可抗力であって、決して分かってたわけでは・・・あれ? 俺は誰に向かって弁解をしているんだ?


「と、とにかく、回ろうか!」

「え? あ! そ、そうね!」


 お互いに意識し始めてしまったので気を紛らわす為にサッサと行動をする。 いかんいかん、こんな事で意識し合っていてはこの先持たないぞ。


 さてとは言ったものの、文化祭ってどこ回ればいいんだ? 屋台?出し物をしてる教室? ただブラつくのは良くないよな。 あ、掲示板見ればなにがやってるか分かるかも。


「えっとなになに? 3年1組 大声コンテスト、3年2組 劇「電脳世界に閉じ込められたお姫様」、3年3組 屋台「包んで包んで」。 色んなのをやってるんだなぁ、改めて見ると。」

「生徒会の出し物の許可出すのになんか規定とかあったの?」

「あまりにも突拍子なものじゃなければ基本はOKだったよ。 その分内容重視にしたけど。」


 紅梨の疑問に答える。 実際何枚か文化祭の出し物の書類を見せてもらったが、キッチリしているものはキッチリしていたが、曖昧なものも少なくなかった。 クラスの出し物はともかくサークルでの出し物には幸坂先輩も頭を悩ませてたなぁ。


「とりあえずこの3年3組のところに行こう。 予想だとクレープ屋だろう。」


 そう思い、屋台の場所へと向かう。 その場に行くとやはりと言うか、大行列だった。 老若男女問わず並びに並びまくっていて最後尾が分からなくなりそうなくらいだ。


 とりあえず最後尾に並んで順番待ちをする。 チラッと店頭を見たが受付2人、裏で作る人2人の計4人体制でやっていたが、それでも若干間に合ってないようにも見えた。 まあ作ってもらっておいて文句なんか言わない。 そこまで心の狭い人間ではないのでね。


 やがて自分たちの番になる。 メニューは少ないが、お客さんにたいして丁寧な対応をしているので、お客さんにとってもチャラになっているようだ。


「いらっしゃいませ。 あら、飛空君。」


 声をかけられたので誰かと思ったら志摩川先輩だった。 エプロンに三角巾をして、なんか教育番組に出演している女の子っぽいなって思ったのは内緒だ。


「飛空君? 今失礼な事を考えたでしょ? この後のイベント、手加減しないよ?」


「ヤダナァ、カンガエテナイデスヨセンパイ。 あ、パルトクレープひとつ。 紅梨は?」

「あ、じゃあ私はアルイクレープで。」

「はいな。 ちょっと待っててね。」


 そう言って番号札を渡される。 数分すると、クレープを持ってきてくれた。 パルトは前にブルーベリーに似た果物として見た事があったのでそれにした。 紅梨の持ってるアルイはどうやらいちごのような果物のようだ。 2人で1口食べてみる。 うん、クリームの中にパルトの果汁が入ってて、甘酸っぱい味になっている。 うん、美味い。


「あんだぁ!? この店はァ!? 客をこんなに待たせておいてメニューこれっぽっちかよ!?」


 満足気に去ろうとした所に怒涛が響き渡る。 振り返ると明らかにガラの悪い兄ちゃんが生徒に突っかかっていた。 年齢は高校生位だろうがあんなのうちの生徒にはいない。 あんなに目立ったらすぐに分かるしな。


「はぁー・・・ここの文化祭がそこそこ人気だって言うから来てみたら、なんだよ。 しょぼいクレープ屋だぜ。 生徒会長の顔が見てみたいねぇ。」


 多分他校の偵察部隊のようなやつなのだろう。 あそこまで目立ったら偵察も何もないがな。 そして生徒会長という言葉に志摩川先輩が表に出てきた。


「私が生徒会長よ。 うちの文化祭にケチを付けたからには、それ相応の覚悟があるんでしょうねぇ?」

「あ? あんだよ。 生徒会長がこんなにちんちくりんじゃ、クレープ屋もしょぼくなるもんだなぁ。 その落とし前はつけてくれよォ!」


 そう言ってガラの悪い兄ちゃんが志摩川先輩に組みかかろうとする。


「あぶな・・・」


 紅梨が出ようとしてる所に俺が制止する。 すると目の前で行われたのは、組みかかろうとするガラ悪の伸びる手を躱した上でその腕を逆の方向に曲げて、そのままガラ悪の背中にのしかかる志摩川先輩の一連の動作だった。


「いてててててて!!」

「もう一度言うわ。 それ相応の覚悟があるんでしょうねぇ?」


 志摩川先輩のドスの効いた声にガラ悪は青ざめて一気に力が抜けていった。 その後ガラ悪は職員の手によって拘束をされた。一件落着だ。 紅梨を止めたのは出る幕はないと判断しての事である。


「飛空君。 夕方のイベント、手を抜いたらああするからね。」


 その一言に頬が吊りあがった。 勘弁してよ。

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