第95節 文化祭初日と秘密の階段、伝える気持ち
いよいよ迎えた曜務電脳統合学園文化祭。 行われるのは週末の2日間で、正門から校舎内。さらには寮内も今回は解放して、大変大掛かりに大掛かりに文化祭の出し物が展開されている。
今日はそんな1日目。 平日なのでそこまで人は多くはないが、賑わいがある。 これ休日の2日目とんでもないくらいの来場者数にならないか? 整理券配布とかの措置が出来ないか聞いてみるか。
「しかし警邏と言っても、ほとんどやることも無いような気もするな。 あ、ゴミ発見。」
落ちていた紙コップを拾い、ゴミ箱に投函する。 出店フロアを巡回中なのだが、なんというか人があまりいないのでそんなに警戒しなくてもいいっていうか。 いや生徒会の仕事だからちゃんと見るけどね?
「よう。 暇そうやなぁ。」
「暇じゃないっつの。今は警邏だけだけど、明日は俺忙しくなるんだから、今のうちに確認しとけって会長が言うからやってるんだよ。ちゃんと。」
輝己の悪態に愚痴で返す。 まあ、話し相手が出来るからそれだけでも大分楽にはなるがな。
「それで? お前のクラスの出し物はどうなんだよ?」
「あんなもん本番は次の日やで。 あえて言うなら身内しかきとらへん。 みんな嫌がっとるしなぁ。」
嫌ならやるなよと言いたいところだがそういうことではないらしい。 身内が来るから嫌なのではなく、その身内が茶化すのでウザったらしいのだそうだ。 でも結局言ってること同じじゃね? そう思ったがあえて口にしなかった。 やりたいって言ってやった事だ。 最後まで貫き通して貰わねば許可した意味がない。
「まあ休憩中なら楽しんでこいよ。 俺の事は気にせずよ。」
「悲しい事を言うなや飛空。 そや。 なんか買うてくるわ。 朝以来食っとらんやろ? ちょい待っとき。」
そう言って露店の人混みの中に吸い込まれていく輝己。 俺も動くのに見つけられんのかね? まあ巡回しつつまた会えれば御の字だろう。 あ、またゴミが。
校内を巡回中すること1時間。 やたらゴミが落ちていたのを除けば特にそんなに問題もなく自由時間を貰えた。 まあ、巡回中に輝己に会えなかったのでここから自力で探さなければならない。 校内はそこそこ広いとはいえ生徒+今日の来場者を考えれば行き来するだけでもそれなりに動きにくい。 明日の休日どうなるんだろう?
「まあこんだけ人がいるとほんとに知り合いと会うのも一苦労・・・」
「あぁ。 飛空君だぁ。 やっほぉ。」
しなかったわ。 今は生徒会の順番で歌垣先輩が巡回を行っている。 うーん自由時間に最初にあったのが歌垣先輩かぁ。 いや悪いわけじゃないんだけど・・・なんか・・・こう・・・言葉に出来ない感じがあるな。 それにしても、
「歌垣先輩、その格好なんです?」
歌垣先輩が着ていたのは学園の制服でもなければ私服でもない。 ウエイトレス姿でいかにもご奉仕しますって感じの服だった。
「あぁ、これぇ? ほらぁ喫茶店やってる教室あるじゃないぃ。 あそこに行ってぇ、着てみたいって言ったらぁ、貸してくれたのぉ。」
輝己達の教室か。 というかよく貸してくれたと言うのもあるが、歌垣先輩のサイズがよくあったな。
「胸の大きい子用に買った服を借りてるのぉ。 あそこの女の子達可愛かったわよぉ。」
身長差をバストサイズの差で埋めたのか。 それはまた女子の怒りを買いそうな話だ。 というか最初に会った時に夭沙に抱きついていたのもそうだが、もしかして歌垣先輩って同性愛者? 異性の同性愛は見てて興奮するけど、同性の同性愛は見てて不快に思うってなんかの本に書いてあった気がする。 いや感覚的な問題だろうな。 普通に考えたらおかしいだろうという。
「というかそんな格好してたら変な輩に声掛けられませんでした?」
「何回かあっけどぉ。 全部すっぱり断ったよぉ。 興味ないもの。」
こりゃほんとに同性愛説が強くなってきたぞ?
そんな歌垣先輩と別れて、再び歩き始める。 俺達の幽霊屋敷は2日目限定で行われるのでこの後はほんとに何も無い。 さすがになにも無さすぎるのもな。 とりあえずなにか買って
「あ、飛空。」
おこうと思った矢先に声をかけられた。 声の主は鮎だった。
「生徒会の仕事終わったの?」
「今日の仕事はね。 しかし凄い人の波だな。」
自分自身あまり人混みに巻き込まれるのは好きな方ではないが、こんな時は例外だ。
「明日も忙しくなりそうね。」
「ああ。 生徒会の仕事にクラスの出し物に全体の後片付けだろ? 首が回らなくなるぜ。」
「まあまあ、生徒会に入ったからにはそれぐらいは許容範囲内なんでしょ?」
「そうは言ってもキツいもんはキツいって。」
これと言ってトラブルがなければ問題はないんだけど、今日はともかく明日はそのトラブルも多そうだ。
「正直この後は少しゆっくりしたいよ。 てんてこ舞いなのはいいけれど休暇だって必要だ。」
「あ、なら私、ちょうどいい場所知ってるわよ? そこに行く?」
それ屋上じゃないの? とは思ったがあまり詮索しないでおこう。 とにかく休息が欲しい。 文化祭準備まで必死こいたんだ。 休んでも怒られんやろ。
「ここだよ。」
「・・・・・・・・・・・・ここ?」
連れてこられたのは屋上では無くむしろその逆で、今いる場所が校舎1階なのに更に下に続く階段だった。
「こんな階段裏にこんなものがあるなんてな。」
「普段はハッチが閉まってるから見えないんだけどね。」
「え? じゃあなんで今は開いてるんだ?」
「私が見つけたから試しにハッチを開けたらあら不思議。 こうなってたってこと。 だからそのハッチは巧妙に隠れてるから今のところ見つけられるのは私だけって事になるの。」
なんの為にそんなのがあるのだろうか? 緊急避難用か? 考えてもしょうがないので地下へと続く階段を降りていく。 中は暗く、携帯のライト便りに降りていくと、ひとつのドアがあり、鍵がかかっていなかったが、かなりドアが重く、片手では開かなかった為、両手を使って力いっぱい開ける。 中はひとつの部屋になっていて、ドア近くにあったコンセントらしきものを押すと電気がついて部屋の全貌が見えた。簡素ながらどこか落ち着ける空間となっていた。
「秘密基地ってやつか。 それとも防空壕って言った方が近いか?」
「なにを言ってるのよ飛空。 でもいい空間じゃない。」
ううむ。防空壕という言葉は通用しなかったか。
「というか鮎もここに来るのは初めてなのか?」
「ハッチを開けてちょっと歩いたら暗くなってきたからやめたのよ。 入口だけでも十分だったし。」
危機感から来るものか探究心の無さなのか。 とにかくここに来ることは無かったらしい。 しかしこの部屋ならお世話になりそうだな。
「ま、今はゆっくりさせてもらうか。 どうせ明日も忙しいし、夜も長くなりそうだしな。」
「・・・そうね。」
鮎が、らしくもなくソワソワし始めた。 なんだと思い、ふと今の状況を思い返す。 ここは誰も知らない地下の部屋、そして鮎と二人きり。 いかん。 俺までも意識し始めてしまった。
「ねぇ。 飛空。 私は、まだあんたにほんとの気持ちを伝えてなかったと思うの。」
確かに今までのみんなは告白と同時に気持ちを伝えていた。 しかし鮎だけは素直に気持ちを伝えてもらってなかったような。
「あんたとは敵対が最初だったから一生徒としてしか見てなかった。 武装もそんなに強くないと思っていたから気にすることなんてないと思ってた。 だけど、夭沙があんたと生徒会に入って夭沙があんたの話をする時の喜んです顔を見て、あんたに興味を持って、あんたと一緒にいることが多くなって、あんたの良さが分かってようやく「あぁ、夭沙が好きになる理由が分かった」って思ったの。」
妹自慢かと思って聞いていたら「でも」と鮎がこちら側に顔を向ける。 鮎の顔には赤みを帯びている。
「私も一緒にいるうちに、あんたの良さに気付いた時、私も目が離せなくなったの。 その時かしら? あぁ、私恋してるんだって思ったのは。」
そう言って鮎は目を閉じる。 そして目を開けてこう言った。
「私もあんたの事が好き。 みんなと同じくらいとは言えないけれど、あんたを想う気持ちは私も同じ。 だから私もみんなと同じように愛して欲しい。」
そうハッキリと目を見て話した。
「あぁ、勿論だよ。 誰も蔑ろになんかするものか。」
そう答える俺。 全員の気持ちをしっかりと受け止めると決めたのだ。 もう迷わない。
そんな事を思いながら、文化祭の1日目が終わるまでこの部屋で時間を過ごすのだった。




