第9節 終了と呼び出し、当然の疑問
全ての過程を終えて、ブリーフィングルーム(これからそう呼ぶことにした。)から出る。 右を見ると同じように先程戦っていたチームが出てきた。彼女と目が合いそうになり、サッと目を逸らしてしまった。 かなり怨まれるだろうな。それだけの事をしてしまったし。
「では、いよいよ最後となった。 14番、30番。」
どうやら最後の試合となっているらしいが戦い終えた俺からしてみたらあまり参考にはならなかったな。 いや自分の試合がよかったとも思わないが・・・・
それよりも彼女のこれからの生活に影響が出ないかの方が心配になってきた。一生怨まれるんじゃね?
「気にし過ぎだと思うよ飛空。」
「そうよ、あんなの一時の恥に過ぎないわよ。」
「人の噂は七十五日と言いますし、そのうち風化して忘れられますよ。」
顔に出ていたのか声に出ていたのか、チームメンバーからそんなフォローが飛んでくる。 どうやら気にするなと言ってる訳では無いようなので、「そういうもんかねぇ?」と自分に投げかける。
そう言っていたら試合が終わり、先生が前に出てきた。
「これで新入生レクリエーション午前の部は終わる。 昼食を食べ終わったらもう一度ここの教室に来てもらいたい。 午後の部は君たちの先輩との交流会となる。 先輩だと思って緊張していてはいざ組むとなった時に連携が取れなくなる可能性がある。 それを無くすための午後のレクリエーションだ。 では解散とする。」
そういってみんな教室から出る。 こちらとしてもすぐに昼食にしたかったので、ありがたい。
俺と海呂はすぐに寮へと戻り荷物を置いてすぐに食堂へと向かった。 するとほぼほぼ全校生徒となるであろう人数の人が食堂に来ていた。 うわ、これが昼時の食堂か。
「これは席取りが大変だね。」
「だなぁ、いい席取れるかな?」
並んで券売機に電子生徒手帳をかざし、メニューを見る。
今日の昼は「ペペロンチーノ」と「グラタン」のどちらかだった。時期的には微妙な感じだったが、グラタンの気分ではないので、ペペロンチーノにする。
ペペロンチーノを受け取って、スープを注ぎ、さてどこが空いてるだろうか? あまり中側には行きたくはないが、かと言って入口近くというのも・・・・
「あ、飛空、海呂。こっちこっち。」
右側から声がしたので顔を向けると、紅梨と白羽が既に座っている状態で、こちらを手招きしていた。
「あんた達もこれからなら一緒に食べない?」
「僕達は構わないけど、いいの?」
「大丈夫ですよ。 他に話す人もいませんし。 紅梨ちゃんはボーイフレンドが欲しいってここに入る前に言ってましたから。」
「ちょっ! 白羽! そんなこと話さなくてもいいでしょ!?」
折角なので対面で席に座らさせてもらう。
「ほんとに良かったの? こういうのって普通は女子同士で話し合ったりするものじゃない?」
「さっきも言ったでしょ。話し相手がいないって。 それに別に話すだけならあんた達でもいいもの。」
「わたしはちょっと苦手な人もいるので、下手に話に行くのも嫌なんですよ。」
「ボーイフレンドが俺達・・・・の方が良いのか。最初からとんでる奴なんかとは友達になりにくいだろうし。」
「チームを組んだのが飛空さんと海呂さんでよかったです。」
食堂がチラホラ騒がしくなってきた。 耳を傾けると、先ほどのレクリエーションでの戦いの話が主に聞こえてきた。 新入生はともかく先輩達も見ていたので、その点もあるのだろう。
「どんな先輩から声がかかるかしらね。」
「あんまり変な先輩とは関わりたくはないな。 あんまりだけど、それでも避けたい所ではある。」
「そういえばこの学校って部活が無いって話じゃないかな?」
「部活は無いけどサークルみたいなのはあるって体験入学の時に言ってましたよ?」
「まあ俺は行ってないからどっちみち分かんないな。」
こちらの世界に来て2日目だから余計に分からん。
「そういえばこの後のレクリエーションは先輩達との交流会って言ってたけど、なにをするんだろうね?」
「ただのお話会じゃ交流にはならないしな。」
「そういえばなにも聞かされていませんね。」
「「先輩達と仲良くゲーム」って言うなら納得するけど、先輩達とチームで戦うなんてことないわよね?」
「安心して、今回のレクリエーションはそんな事はしないから。」
誰でもない第三者からの声に振り返ると、朝のレクリエーションで開始の挨拶をした生徒会長、志摩川 円香が後ろに立っていた。座っていてそんなに目線を上げなくてもいいということは、背はあまり高くないな。
「せ、生徒会長さんが、わたしたちになにか御用、ですか?」
突然の来客に白羽が戸惑っていた。
「いやぁ、あなたたちの出ていた試合、なかなかに参考になったわよ。 他のチームと違って、なかなかにバランスの取れた戦い方をしていたわね。 わたしから賞賛の意を与えるわ。」
生徒会長から賞賛の意を貰えるとは光栄な話だ。
「話を戻そうかしら。 あなた達に、と言うよりも伝えたいことがあるのは、津雲 飛空君! 君なのよ。」
生徒会長に名指しをされた。 え?俺? 訳が分からないという顔をつくっていると、生徒会長がこちらにきて顔を寄せてきた。鼻が当たるくらい近くに来ていた。 ちょっ!近い近い!
「午後のレクリエーションが終わったら教室棟2階にある生徒会室に来なさい。 そこで話をしてあげる。」
なにかを企んでいるかのような顔でそう告げて離れた後に「楽しみにしてるわよ~」と手を振ってその場を後にした。
「・・・・あんたなんかしたの?」
「むしろこっちが聞きたいんだが・・・・ なんなんだろう?」
こちらとしてもなにも思い当たらない。 周りを見てみると、色んな所で色んなどよめきがたっていた。 それは新入生、先輩問わずだ。 そんなにどよめかれると何も無かった時の反応に困るんだが・・・・・
「で、でも試合の事は褒めてくれたので、悪い事じゃないですよ。きっと。」
「だと思うんだけどさぁ。」
「大丈夫、骨は拾ってあげるわ。」
「どんな結果になろうと僕は飛空の味方だから。」
おい後ろ2人、勝手に悪い方向に進まそうとするんじゃない。 ほんとにそうなっちゃうだろうが。
ご飯も食べ終わったので、トレーを戻して、部屋に戻る。 すると輝己と啓人が先に戻っていた。
「おう、2人ともおかえり。」
「ただいま。 そういえば2人の姿を見なかったね。」
「食堂に行ったらクラスの男子の何人かと話が弾んでね。 そのまま昼食を一緒にしてたのさ。」
「あんたらも誘おうと思ったら先客がいたようやったし、そのまま見送ったんねん。」
別に先客でも何でもないんだけどな。 たまたまそこを通りかかって、相席させてもらったってだけで。
「さっきの試合の話をクラスの連中としていたんやけどな。 まあ何やねんあの2人! やりにくかったったらありゃせんわ!」
あぁやっぱりあの2人にはご立腹の様子だ。 啓人も表情こそ崩してはいないが、どうも煮え切らない所があるようだ。
「僕が作戦の指示をしていたんだけどね。 あくまでもあれは戦場で循環に戦うための作戦なのに、全くと言っていいほど言うことを聞いてくれなくてね。 おかげで僕と輝己の負担が大きくなるばかりだったよ。」
「こっちでも観てたけど、ほとんど武器を構えてなかったぜ? あの2人。」
「そうそう。 折角のチャンスも無駄にしていたようだし。」
「マジか! ほんと何しにチーム組んだんねん! そらこっちにばっかり敵の視線がくるわけや!」
「あれは自分たちは守られていると勘違いしているタイプだね。 あれじゃホントの戦場じゃ真っ先にやられるね。」
「本物の戦場じゃないから、そういうことが出来るんでしょ。 まあもう組みたくないとは終わった後で思ったけどね。」
「その方がいいぜ。 害悪もいいところだぜ?」
というかあれだな。 同じの部屋だって言っていた紅梨達も大変だろうな。
「ところでこの後先輩とのレクリエーション、なにをやると思う?」
「戦闘では無いってことらしいぜ。 まあ先輩達とは仲良くしたいところなんだけどな。」
「そんなことなんで知っとんねん? 誰かから聞いたん?」
「聞いたさ、生徒会長本人からな。」
「あのどよめきは君達の所だったのか、僕達は席が離れていたからか、状況が全く分からなくてね。」
「一番びっくりしているのは飛空本人だけどね。」
そら生徒会長直々に呼び出しなんか、驚かない方がおかしいんじゃないか?
「おっと、もうそろそろ時間になりそうやで? はよ行こや。」
時計を見るとお昼休みの時間がもう無くなっていた。 とりあえずは先ほどの教室へと向かう。
『午後のレクリエーションが終わったら教室棟2階にある生徒会室に来なさい。 そこで話をしてあげる。』
その言葉が気になって気になってしょうがなくなってきた。 なんの呼び出しなのか。 そもそも何故俺なのか。 どんな話なのか。
最悪の事態の覚悟も考えなければならないかもな・・・・・
「飛空? もうすぐ教室に着くよ?」
海呂の声に我に返り、いつの間にか先ほどの教室に着いた。 今は片隅に置いといた方がいいかもしれないな。
そう思いながら「電脳転送室」のドアを開けると、新入生だけだった午前とは違い、2年、3年共になっているので、ごちゃごちゃになっている。 はてさてなにをするのやら。
 




