チャプター3 お前はまだサツイを知らない 非日常編(1)
――――《未来の部屋》。
近未来を思わせる様々な器具が用意されたこの部屋には、ぼく達が向かうと既に4人の人間が居た。
【超逸材のネイリスト】、小鳥遊灯里。
【超逸材の漁師】、鈴木シーサー。
【超逸材の恋人】、橋渡恋歌。
そして――――部屋の真ん中にその人物は居た。
その人物はいつもと同じようなニコヤカな笑顔を浮かべており――――
それと同時に、もう既にその顔が変わらない事を意味していた。
ぼく達の前に居たのは、【超逸材のパティシエ】であるショコラティッシュ・バニラ。
彼はバラバラ死体となって、部屋の真ん中で倒れていた。頭、胴体、両手、両足……全部で8つに分かれたショコラティッシュさんの身体は、どう見ても死体でしかなかった。
――――そんなショコラティッシュさんの死体を、橋渡さんはねっとりと犯していた。
ハシワタリ・レンカ「はぁはぁ♡ 良い、ですねぇ♡ いい良いイイ言いイいですねぇっ♡
やっぱりショーンちゃんの、身体は、サイッコウだねぇ♡ 滑らかな身体つき、小さいながらもしっかりとついた筋肉、そしてココがまさに……っ!」
タカナシ・アカリ「……やめなさい、この橋渡恋歌が」
バラバラ死体となったショコラティッシュさんの胴体をまさぐる橋渡さんに対し、小鳥遊さんは首根っこを掴んで無理矢理引きはがす。
引きはがされた後も、胴体に性的な事をしようとする橋渡さんを、御剣さんが溜め息を吐く。
ミツルギ・ヒイロ「おいおい、恋歌。いくら調査のためとはいえ、流石にそれをやってはいけないんじゃねえのか?」
ユキワリ・キョウヘイ「御剣さんの眼には、あれが調査に見えるの?」
調査=死体との性行為、どう考えてもその2つは結びつかないと思うのだけど。
ミツルギ・ヒイロ「とりあえず、ショコラティッシュについて既に分かってる事を教えて欲しい。俺と杏平、それに歩は今来たばかりだからな……っと、あれ? 歩とシーサーは?」
キョロキョロと辺りをうかがう御剣さんが気付いて、ぼくもいつの間にか2人の姿が居なくなっている事に気付いた。
タカナシ・アカリ「2人ならさきほど、この隣の《化石の部屋》に行かれました。まぁ、あそこが"本当の死体発見現場"みたいなものですからね」
……? 本当の死体発見現場?
どういう事だろう?
ユキワリ・キョウヘイ「《化石の部屋》が本当の発見現場と言うのは、どういう事? 小鳥遊さん、教えてくれますか?」
タカナシ・アカリ「……雪割、さん。あなたはどうして、そんな"眼"でこちらを見ていられるんですか?」
と、小鳥遊さんはぼくの方を見て、少し怯えが混じったような声でそう言う。
ユキワリ・キョウヘイ「……? どう言う意味?」
一方のぼくからしたら、彼女の言っている意味が分からない。
だって、ぼくは普通に彼女の事を見ているだけであり、そこに上も下も、そんなものは存在していないからである。
他の人(一部の恋人を除く)と同じように見ているだけであり、別に小鳥遊さんだけ特別視している訳はない、はず、なのだが。
タカナシ・アカリ「…………」
こっちを見て、ちょっと考え込む小鳥遊さん。
そして、なにか納得したような様子で、
タカナシ・アカリ「無意識、ということでしょうか。なら、指摘するべきではありませんね。
……ショコラティッシュさんの本当の死体発見現場の事でしたね。それなら、《化石の部屋》に戻りながら説明しましょう」
☆==Takanashi Akari Commentary==☆
【超逸材の怪盗】の小鳥遊灯里――――つまり、私がこんな時間に観覧船庭園ネイチャーエルに来ていたのは、《未来の部屋》にある3Dプリンター目当てである。3Dプリンターには色々と制限こそあるが、それでもこの船の外から出る、自分達から出来る唯一の手段と言っても良いからだ。
大きすぎる問題が2つほどあるんだが、1m×1mの樹脂を組み合わせて行く方式ならば、1人程度ならばイカダを組み上げられるだろう。
そう思って、観覧船庭園ネイチャーエルの《自然庭園》へと来たのだが、《未来の部屋》方面に向かう道の方にて私以外の人間――――鈴木シーサーさんの姿があったのだ。
こんな時間にどうしてこの場所に居るのか、コロシアイ殺人事件を求められている今の状況上――――私自身も容疑者としてなるので、そこに関しては私自身も説明して置いた。この先の《未来の部屋》の3Dプリンターに用事があるという事を。
鈴木シーサーさんの理由に関しては、どうも私と同じみたい。
彼の目当ても、あの3Dプリンターであり、あの3Dプリンターにて彼は釣竿を作りみたいです。
何故、釣竿を求めるのかは、私は彼ではないから分からなかったけど、話を良く聞いて見ると、彼自身と仲が良い御剣緋色と春日春日の2人と釣りがしたいみたい。
近くの海には魚は居なかったけれども、それでも《魚の部屋》に行けば出来るから、という理由。
鈴木さんと場所が同じだったので、とりあえず道すがら一緒に行動する事にしました。
他に人は居なかったと思います、薄暗いとは言えども人の見る眼はある。むしろ【超逸材の怪盗】である私にとっては、夜こそが専門ですので。
勿論、あくまでも《自然庭園》から《化石の部屋》に向かうまで、という限定付きです。
それ以外は分かりませんから。
そして、とりあえず《化石の部屋》に入ると
――――目に飛び込んできたのは、ショコラティッシュさんのバラバラ死体でした。
正確に言えば、バラバラ死体の入った"水槽"という感じでしょうか。
あれは《魚の部屋》にあった、クラゲなどを展示する用に使う縦長の水槽でした。
鈴木さんによると、見えない所に隠し扉があって、そこに予備として置いてあったモノだとか。
助ける……事は出来なくても、ともかく触れようとしたその瞬間、水槽が爆発したのです。
そして爆発によって水槽は破裂し、煙によって視界が遮られました。
煙に作動したスプリンクラーが終わった後、残っていたのは水槽の破片と包丁だけでした。
バラバラとなった死体はどこに行ったのか、焦っていると隣の部屋から鈴木さんの悲鳴が聞こえてきました。
そこで消えたはずの、少し燃え焦げたショコラティッシュさんの遺体を発見しました。
そう、私達の目の前で、ショコラティッシュさんの死体は瞬間移動したのです。
7/23追記。




