プロローグ 【楽しい楽しい、沈没以前出航以下の修学旅行】6
ぼく達が2人揃って食堂から出ると、
ヤマト・アユム「ぜぇぜぇ……」
と、冒険家と名乗った大和さんが肩で息を吐いていた。本当に苦しそうで、高鳴る心臓を自分の手で押さえている。
アイカワ・ユウキ「あれ……? 御剣緋色くんと一緒に、大急ぎで体育館に向かったはずじゃ?」
ヤマト・アユム「ぜぇ、ぜぇ……そ、そのはずだったんだけど、どうやらオレは【超逸材の冒険家】ではあるけど、運動はそんなに得意じゃないみたいでね……。ちょっと全力出した程度で、息切れしてしまったよ」
……運動が得意ではないって、ぼくの中で冒険家のイメージとしては、遺跡や洞窟を自分の持てる運動神経で大活躍するくらいの映画などの創作物から得た印象しかないんだけど。
ユキワリ・キョウヘイ「……運動が苦手、って、冒険家としては可笑しくないですか?」
ヤマト・アユム「ぜぇ、ぜぇ……そう、だね。けれども待てよ。【超逸材の冒険家】だからといって、身体能力が優れている必要はないんだ。大切なのは謎を解くだけの知識と行動力、ならば体力は要らないのかもしれない……と思う。うん、きっとそうだ。そうに違いない」
「なるほどなぁ」と一人で納得する大和さん。
ヤマト・アユム「けどまぁ、御剣くんとは離れてしまったな。けれどもまぁ、ゆっくりと行こう。お宝や夢は、いつもオレ達を、自分を冒険しに来てくれる勇者を待っている。そう考えれば、走るよりもゆっくりと歩くことも必要……と思う」
アイカワ・ユウキ「そうか、まぁ人生は長い物だ。一緒に体育館に向かおうじゃないか」
ヤマト・アユム「そうだね。……雪割くんもそれで良いかな?」
ユキワリ・キョウヘイ「ぼくも……別に構わないですけど」
そう聞くと、大和さんは「それは良かった」と嬉しそうな声でそう言った。
ヤマト・アユム「冒険家ってのは、一度仲間割れをすればそれだけで全滅するような職業。なら、そうならないようにするのが一番だからね。オレは、皆と仲良くなりたいんだ。出会った皆と、仲良く接する事こそがコミュニケーション能力が大切となって来る【超逸材の冒険家】としては大切な事だよね。そう……思うんだ」
ユキワリ・キョウヘイ「そうですね、良い心がけだと思うよ。ぼくも、助っ人として一番大切なのはそうだと思ってるから」
スケットと言うのは、結局はその場限りの仲間……それがぼくが今までのスケット人生で感じて来た事だ。だからこそ、ぼくはその場を全力で楽しむのだ。全力を尽くすのだ。
スケットとしてではなく、本当の仲間として認めて貰うように過ごす。
それが【超逸材のスケット】としてのぼくの信条の1つである。
アイカワ・ユウキ「おっ、体育館が見えて来たぞ」
そうやって大和さんと話している間にどうやら体育館前に来ていたようで、相川さんに着いた事を告げられた。
体育館。そこには先程戦場ヶ原さんが言っていたような、白い紙が貼られており、体育館の前には2人の人が居た。
1人は褐色肌の長身女性。赤いチャイナ服を着て背中には大きな巻物を背負い、頭にはカエルをイメージしたフードを身に着けている。そしてスカートの部分にはいくつものてるてる坊主を思わせるアクセサリーを付けていた。
もう1人は小柄な黒人男性。わかめを思わせんばかりの長い髪と、右眼を覆う黒い眼帯などからなんとも前が見えにくそうな男で、右手には泡だて器で左手には銀色のアタッシュケースを手にしている。
チャイナ・ジョセイ「オー、コンニチハー。ミーの名前は、平和島望イウです。ヨロシクネー。天気のことならオマカセヨーな、【超逸材の気象予報士】ネー」
【超逸材の気象予報士;ヘイワジマ・ノゾミ】
ヘイワジマ・ノゾミ「シェイシェ! また楽しそうな人がキタネー。ミーはミンナと仲良く出来るにちがいねー、と占いにも出てるねー」
アイカワ・ユウキ「……占い? そう言えば、聞いた事がある。驚異的な的中率にて、天気を予報する占い師が居ると……。まさか、同じ高校生だったとはね。驚きだよ」
ヘイワジマ・ノゾミ「ソレは多分、ミーのことネー。でも天気なんか当てられるのを褒められても、嬉しくナイネー。ミーはお天道様のご機嫌より、皆の未来を占いたいネー。だってその方が皆の役に立てるネー。けど【超逸材の占い師】じゃなくて、【超逸材の気象予報士】として呼ばれたのはあまりウレシクナイヨー」
がっくりとした彼女に、「そ、そんな事ないよ!」と隣に居た小柄な男性が大きな声を出す。
チョウハツ・ワカメ「み、未来も大事だけど、ショコラにとっては天気を教えて貰う事も大事だよ!」
ヘイワジマ・ノゾミ「オー、ショコラ、アリガトネー! ミー、嬉しいヨー!」
と、平和島さんはその長髪の男さんに思いっ切り抱きつき、いや身長差的にしがみついていると言った方が良いだろうか? 一方、抱きつかれている長髪さんの方は顔を真っ赤にして、どうにか逃げようとしている。まぁ、顔辺りに彼女の長身に似合ったご立派さんが当たっているから、照れているのだろうか?
ユキワリ・キョウヘイ「うらや……い、いえ。だ、大丈夫ですか?」
慌てて彼の手を取ると、長髪の彼は慌てて手を取って平和島さんから逃げ出していた。
チョウハツ・ワカメ「あ、ありがとうだよ。そ、そう言えば、自己紹介がまだだったね? ショコラはね、ショコラティッシュ・バニラって言うんだ。皆に美味しいお菓子を作りたい、【超逸材のパティシエ】なんだよ!」
【超逸材のパティシエ;ショコラティッシュ・バニラ】
ショコラティッシュ「パティシエにとっては、湿度とか温度とかが大事なんだって! ショコラはバカだから分からないけれども、平和島さんが教えてくれると嬉しいんだよ!」
ヘイワジマ・ノゾミ「オー、嬉しいネー! ショコラは良い子だネー! 求められる限りは答えるのが気象予報士……いえ、占い師として応えるのが平和島望海ネー!」
「イッェー!」と機嫌を良くして再び抱きつく平和島さんに、ドギマギしているショコラティッシュさん。
……うーん。
これはどうなんだろう。また助けても同じような気がしなくも……。第一、一番重要なのは抱きつかれているショコラティッシュさんの方がそんなに嫌がってないという事か。
ユキワリ・キョウヘイ(こういう時は助けなくても良いかもしれんな。【超逸材のパティシエ】である彼が本気を出せば、彼女の腕力くらい振りほどけるだろう。意外にお菓子作りは体力を使うからね、バレンタインにチョコ作りを手伝わされた時にその体力の必要さは経験済みだし)
例えばメレンゲ1つ作るのだって何十分も泡だて器でかき混ぜ続けなければならないし、お菓子作りというのは本当に体力を必要とするし。そんなお菓子作りを生業とする【超逸材のパティシエ】である彼に体力がないと考えるのは変だろう、服の上からの筋肉も分かるし。
ユキワリ・キョウヘイ(だから本当に嫌だったら逃げ出せるだろうし、放っておいても構わないだろう)
ヤマト・アユム「えっと、早く中に入らないかい? いつ、この【超逸材の冒険家】たるオレの演説が言えるかと楽しみにしてるんだよ。既に頭の中に話すべき文章は248パターンほど既に用意してあるからね。早く入って、演説したい限りだよ」
ユキワリ・キョウヘイ「……大和さんはそればっかりですね」
と、ぼくは呆れつつ、「ちょ、ちょっと待って~!」と言って来るショコラティッシュさんを無視して、体育館の中へと入って行く。
個人的に「ショコラはね」と、自分の事を名前で言うキャラって可愛い。
「アリスはね、人を殺すのが大好きなの」ってすっごい可愛い。話す内容は別として。