チャプター2 それでもボクは殺ってない クロ探し裁判編(8)
タカナシ・アカリ「……あなたらしくないミスですね、【超逸材の棋士】こと戦場ヶ原桂馬さん」
小鳥遊さんはモニターに映し出された、戦場ヶ原さんの《外に出したくはない秘密》を見ていた。
タカナシ・アカリ「あなたの手紙……それと、私が見た2人の手紙。その2つを比べますと、戦場ヶ原さんの手紙が間違っていることは明らかです」
そう言って、小鳥遊さんは自分の手紙を見せる。同時にぼくも彼女の推理に合わせるのと同じく、ぼくの手紙も提示する。
【-【超逸材の棋士】戦場ヶ原桂馬の秘密ー
戦場ヶ原桂馬は二歩をしてしまった事がある】
【―【超逸材のネイリスト】小鳥遊灯里の秘密―
小鳥遊灯里は、顔のメイクもいける】
【ー【超逸材のスケット】雪割杏平の秘密ー
雪割杏平は、書くモノを置けと言われているのにも関わらず、テスト終了後に問題を解いた事がある】
3人の手紙が、ゲシュタルトから同時に渡されたはずの手紙が見せられた結果として、皆も小鳥遊さんの指摘が分かって貰えたようである。
トキワギ・トオカ「あっ、あれ? なんか同じようで、ちょっと……」
カスガ・ハルヒ「妙な違和感がありますね。なんだか、戦場ヶ原さんのだけ違和感が感じます」
ショコラティッシュ「ショコラ、分かった! 読点! 句読点の、読点の方!
【名前は】の後に点がないんだよ! 戦場ヶ原さんのは!」
……そう。並べてみると、良く分かる。
【戦場ヶ原桂馬は二歩を――――】
【小鳥遊灯里は、顔の――――】
【雪割杏平は、書くモノを――――】
ぼくと小鳥遊さんのは、次の文章に入る前に読点が存在する。
対して、戦場ヶ原さんのはそれが存在しない。
タカナシ・アカリ「同じゲシュタルトが用意したのにも関わらず、1つだけ読点が違うのは変です。
3つある内の1つだけ変という事は、戦場ヶ原さんが間違っている。……つまりそれは、こうなると思ってあなた自身で用意したモノでは?」
彼女の鋭い指摘に対して、戦場ヶ原さんの駒の音がさらに機敏になる。
パチンッ。
パチパチ、パチンッ。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……パチンッ。
長い、本当に長い、駒を打つ音の後。
【超逸材の棋士】、戦場ヶ原桂馬は短く言葉を発する。それと共に、戦場ヶ原さんは1枚の紙を、見せる。
【-【超逸材の棋士】戦場ヶ原桂馬の秘密ー
戦場ヶ原桂馬は、将棋で人を殺してしまった事がある】
センジョウガハラ・ケイマ「――――少し、昔の話をして良いか?」
それは彼が犯人であること認めた後の、話である。
☆==Senjougahara Keima Memory==☆
【超逸材の棋士】といえば聞こえは良いんですが、元々吾輩……戦場ヶ原桂馬の本分は、勝負師。
囲碁。
オセロ。
チェス。
麻雀。
双六。
おおよそ運という要素が絡まなければ、吾輩はほとんどの勝負事で負けはしなかった。
その中でも、将棋を選んだのは親が将棋が好きだったのと、吾輩のライバルが将棋好きだったという所である。
"賽河原成香"。
将棋の世界では強者ともなると、大抵は顔見知りが多くなってくる。野球とかでも決勝戦に残って来るのは似通って来るように、将棋の世界でも私のような小・中学生だと強い相手も大抵似通って来る。
私の場合はその成香と優勝を争う事が、特に多かった。
成香は一流の、私以上に将棋の才覚に溢れた少女であった。
相手の先の、そのまた先にどう打って来るかを読み取る将棋の世界では「どれだけ先の手を読み取れるか」というのが一流の証となって来るんですが、彼女の場合は最大で百手先まで読み取るほどの卓越した騎士としての才能がありました。
また、勝負師としての才能も超一流で、相手の戦い方から次にどう言う戦術が来るかも予想していた節もあります。
――――だけれども成香には、棋士として致命的な問題があった。
持病。
致命的とまでは言わないけれども、彼女には棋士として長時間打てるほどの体力がなかった。
そんな欠陥があるのにも関わらず、優勝して来たのは短時間で読み勝てるほどの凄さがあったという事です。
多い時期では月に7回も対戦する事があった吾輩と、成香の間に、妙な信頼感が生まれるのはそう時間がかからなかった。
「今日も吾輩達の一騎打ちか」「そうね、今日は勝たせて貰うわよ?」……お互いに相手をどうやって騙し、どうやって相手を追い詰めるかを考える敵同士でありますが、それだけの信頼感が生まれるのも不思議ではありません。
将棋の大会以外でもお互いプライベートで逢う事も増えて、時にはお互いに将棋の勉強会もしたりして……そんな風に、吾輩と成香は信頼を深めていた。
――――しかし、勝負の世界においては常に非情である。
どちらかが勝ち、どちらかが負ける。
それが勝負の世界であるのだから。
あれは中学2年の夏の出来事だった。前日に降った雨のせいで、じんわりと蒸し暑い日だった。
その日は私立幸福ヶ淵学園のスカウトマンが来ていて、大会の成績で吾輩か、彼女か。
どちらを【超逸材の棋士】として学園に招き入れるかを決める、重要な大会だった。
吾輩も、そして成香も、互いに私立幸福ヶ淵学園に入学したかった。
卒業すれば将来が約束されている学園、というお題目と実績があれば、期待しない方が嘘となるだろう。
吾輩と、成香は、死力を尽くした。
十手先なんてのは甘い話で、百手先、先手先……無数に広がる相手の攻撃をどうやって凌ぎ、そして自分の有利へと勧めるかの攻防戦。
激しい戦闘の中、ふと吾輩の勝負師としての頭脳は、こう囁きかけた。
【この場を長引かせれば、彼女が勝手に自滅するのでは?】
元々、彼女は長期戦には向かない身体。
長い闘病生活の結果、冴えわたり続ける頭とは違って彼女の身体は弱っている。
そして、じめっとした夏の日。湿度はいやおうにも高くなり、気温は既に35度を上回っている。
しかし、それは彼女にとっても、棋士としても、恥ずべき行為だ。
相手の弱みに、身体的なハンデを見て、それを使って相手を苦しめるだなんて、蔑まれるべき行いだ。
――――吾輩の身体は、正直だった。
ただ戦闘を長引かせ、彼女を苦しませ、ろくに休憩も取れないように早差しを続けて……
待っていたのは、【超逸材の棋士】という称号と、
8時間にも渡る勝負に耐え切れずに、倒れた彼女の苦しそうな顔だった。
☆==Fin==☆




