プロローグ 【楽しい楽しい、沈没以前出航以下の修学旅行】4
ぼくと相川さんの2人は倉庫の中へと足を踏み入れると、そこにはいくつもの物が所狭しと並んでいた。バスケットボールやボールといった球技に関係するもの、ハードルや鉄球など陸上関係。他にも非常食やスコップなど、一見学校に関係なさそうな物も並んでいた。そして倉庫の奥には段ボールがいっぱい並んで、詰まれていた。
エフデ・オンナ「あっ、嬉しいです! わたし達以外にも人は居たんですね! 今わたしの顔は、唇を少し上向きに書いて笑顔になる感じの表情になっているでしょう!」
メイド・オンナ「……素直に喜びも表現出来ないとは、【超逸材のイラストレーター】というのは厄介な職業みたいですね」
倉庫の中に居たのは、2人の女性。
1人目は腰に絵筆、頭に赤いベレー帽を被った、腰まで真っ直ぐ伸びる黒髪の女性。着ている白いワンピースには色々な色の絵の具が飛び散っており、真ん中には明るい赤色で太陽が描かれていた。
2人目は黒いシックなメイド服を着た、濃い藍色の髪のツインテールの女性。頭には藍色のツバ付きの郵便マークが入った帽子を深々と被り、手首を黒い手袋で両方とも隠している。
ユキワリ・キョウヘイ「えっと、あなた達ももしかして私立幸福ヶ淵の?」
エフデ・オンナ「おっ! ということはあなた方もそうなんですね! 今わたしの顔は、向日葵を描いた瞬間のゴッホ並みに頬が緩んでいるでしょう! わたしの名前は【超逸材のイラストレーター】、倉中りぼんと申します!」
【超逸材のイラストレーター;クラナカ・リボン】
クラナカ・リボン「ほらほら、春日ちゃんも自己紹介! 自己紹介~!」
メイド・ジョセイ「……ちっ、仕方がないですね。無能で低能とは言えども、会話するくらいの能力があるなら、こちらも礼を尽くさねばなりませんね」
はぁ~、と溜め息を吐いてメイド服に似合わない辛辣な顔を向けていた。
メイド・ジョセイ「……春日春日、【超逸材の配達員】です」
【超逸材の配達員;カスガ・ハルヒ】
カスガ・ハルヒ「あなた達は? こちらは名乗っているのに、そちらは名乗らないとはいいご身分ですね」
クラナカ・リボン「ちょ、ちょっと春日ちゃん! そんな、辛辣な辛口コメントは良くないよ! もっとマイルドに! アルフォンスの連作『四季』の『秋』の女性くらい、優しいコメントをしないと、そのままじゃ嫌われちゃうよ!」
カスガ・ハルヒ「少なくとも、そんな訳が分からないような絵の話をする女とは仲良くなれそうにないですね」
春日さんは心底嫌そうな顔を倉中さんに向けると、こちらへと視線を向ける。
カスガ・ハルヒ「で? 本当にあなた達は誰なんですか? こんな簡単な事を何度も言わせずに、早く自己紹介をして貰えませんか?」
ユキワリ・キョウヘイ「え、えっと……ぼくは雪割杏平。【超逸材のスケット】です。そしてこちらは相川祐樹さん。【超逸材のカウンセラー】さんです。どうやらぼく達は幸福ヶ淵学園に入学した時に、拉致されてこの船に拉致されたみたいで……」
カスガ・ハルヒ「スケットにカウンセラー……。なんともまぁ、頼りないと言えば頼りない2人組ですね。そしてあなた方と残念ながら状況は似ているみたいですね。私達3人とも学園へと入った後、記憶がないんですよ」
ユキワリ・キョウヘイ「……3人?」
この倉庫に、春日さんと倉中さん。それにもう1人居るのか? けれどもパッと見る限りは、他に誰も居ないが……。
ユキワリ・キョウヘイ「相川さん、他にもう1人居るみたいで――――」
アイカワ・ユウキ「――――だからわたしとしましては、アルフォンス・マリア・ミュシャさんの『四季』なら、『春』の金髪の女性の春の温かさを思わせる優しい母性を感じる微笑みの方が良いかも知れないと思うんですよ」
クラナカ・リボン「そう言う考えもありますか……確かに『秋』の多様な恵みを称える笑みも捨てがたいですけど、『春』の温かさも――――」
……何であの2人は、この状況下で絵の話で盛り上がっているのだろうか? もっと話すべき事があると思うけれども……。
ユキワリ・キョウヘイ「えっと、あの2人の事は放っておいて、3人目の人はどこに居るんですか? 姿が見えないんですが」
カスガ・ハルヒ「あの2人のことなら同意見ですが、まさかこんなに近くに居るのに気付かないなんて。まぁ、あの不気味な外見なら仕方がないと言えば、仕方がないですが」
春日さんはそう言うと、近くにあったダンボールの前で手をあげると、そのダンボールにかかげた手を振り下ろす。
ダンボール?「いったぁ!」
ユキワリ・キョウヘイ「!?」
ダンボール?「いったぁい、デス。カスガ、いきなり手を振り下ろさないでくださいデス。頭が痛い、デス」
ユキワリ・キョウヘイ「ダンボールが、喋った?」
するとそのダンボールはゆっくりと、いやダンボールの下からにょっきと出た長い脚とスカートが現れ、段ボールの真ん中が開くとそこから赤い2つの眼がこちらを見ていた。
ダンボール?「……おやっ? また新たな人が居るみたいデスね。ワタシの名前、久能環といいます。何故かは分かりませんが、【超逸材の神】と呼ばれてるデス」
【超逸材の神;クノ・タマキ】
ユキワリ・キョウヘイ「超逸材の……神?」
クノ・タマキ「ワタシ、久能コーポレーションというゲーム会社の社長兼筆頭プログラマーなのデス。今まで作ったゲームは数知れず、そのうちの9割は神ゲーと呼ばれているデス。そんな経歴から、【超逸材の神】と呼ばれるようになったデス。今は配達員さんの超絶なる過去を、ゲームとして再構築しているデス。これは神ゲー決定、デス!」
カスガ・ハルヒ「人の過去を、勝手にゲームにしないで欲しいのですが……。まぁ、こんなダンボール女に何を言っても無駄だから諦めますが」
クノ・タマキ「ダンボール……女!? ああっ、新しいゲームキャラクターがワタシの脳裏で、生まれてるデェス」
……なんか相手しづらい2人だなぁ。
そんな事を思っていると、春日さんと久能さんの手(1人はダンボールだけど)を後ろから倉中さんがガシッと掴んでいた。
クラナカ・リボン「お話は分かりました、相川ちゃん。要するに2人を連れて体育館とやらに向かえば良いんですね! それでは、あの参勤交代の画のように早速、向かいましょう! 善は急げ、モナリザは微笑えめです!」
そして2人を連れて、倉中さんは倉庫を出ていく。
カスガ・ハルヒ「は、放せぇ! 私は【超逸材の配達員】! お前のようなイラストバカなんかに配達される言われはないわぁ~!」
クノ・タマキ「上左下右A、コマンドを入力してイラストレーターモンスターを破壊……出来てない、デス? あ、あぁ、ダンボールが歪むぅ、歪むぅデェス!」
……2人の辛辣な悲鳴は無視しておこう。
アイカワ・ユウキ「これで3人、か。まぁ、後は食堂を見に行こうか。行くよ、雪割杏平くん」
ユキワリ・キョウヘイ「は、はい。そうですね」
こうしてぼくは倉庫を後にしたわけだが……あんなキャラが強い人がまだ居るかと思うと、頭が痛くなる。
【イラストレーター】【配達員】【神】……普通だったら揃わないような人達も出せる! なんと素晴らしい事でしょう。