プロローグ 【楽しい楽しい、沈没以前出航以下の修学旅行】3
ユキワリ・キョウヘイ「海、海、海、海海海海……。どこまで行っても海しか見えないな」
辺りをざっくりと見渡しても、どこまでも海という青色しか見えない。
一生懸命陸地を探すも、どんなに目をこらしても青と白以外は一切目に入って来ない。
アイカワ・ユウキ「……絶海の孤島、いえ正確に言えば絶海の難破船とでも言うべきでしょうか? ほら、これを見てください」
と、相川さんが指差すのを見るとそこには【超逸材船舶型学園コウフクガブチ・船内見渡し図】と書かれており、ざっくりとしてだがこの船の地図が描かれている。それよりも気になるのは……
ユキワリ・キョウヘイ「超逸材船舶型学園コウフクガブチ?」
この名前から思い浮かべるもの、それは超逸材の才能を集める私立幸福ヶ淵学園。つまりはぼくが通おうとしていた学園の名前である。
アイカワ・ユウキ「今出て来たのがこのゲームセンターだから……っと、学園と銘打っているだけあって、教室や体育館なんかもあるみたいですね。ショッピングモールがある学園ってのは変ですが。まぁ、どうも船である事は間違いないみたいですが」
ユキワリ・キョウヘイ「一体、どうしてこんな船に……と言うか、こんな船の学園なんかぼくの記憶にはないんだけど」
アイカワ・ユウキ「わたしもですがね。船型の学園なんて聞いた事がないですよ。でもまぁ、ショッピングモールもあるくらい、大きい船なんです。どこかに操舵室くらいあるでしょう。まぁ、この地図には載っていないみたいですけど、探せば見つかります。地道に探して行きましょう」
ユキワリ・キョウヘイ「ほかに選択肢はないみたいだし……それに探していれば他に乗っているかも知れない人とも会えるか」
もし見つかればラッキー程度で辺りを見渡していると、目の前の廊下から1組の男女が早速狙い澄ましたかのように現れる。
男の方は薄緑色の和服に身を包んだ淡い藍色の髪をした男。その男は鋭く真っ直ぐに貫く視線をこちらに向けており、頭には将棋の駒をモチーフにした髪留めを付けている。
女の方は赤いジャージを着たポニーテールの少女。その長いポニーテールをマフラーのように首に巻きつけており、髪留めとしてサッカーボールの髪留めを2つ髪に付けていた。
ワフク・オトコ「ふむ。どうやら吾輩達と同じく、この船の中へと拉致されてしまった御仁だと思うが、どうかな?
ちなみに先に吾輩の名前を名乗っておくと、吾輩は戦場ヶ原桂馬と申す者なり。【超逸材の棋士】として、先日私立幸福ヶ淵学園へと入学果たした者だ」
【超逸材の棋士;センジョウガハラ・ケイマ】
アイカワ・ユウキ「これはこれはご丁寧に。わたしの名前は相川祐樹と言います。多分、こちらもそちらと同じ状況ですね」
センジョウガハラ・ケイマ「……なるほど。やはり吾輩達は何者かによってこの絶海の孤島へと連れられたということか。例えるならば、王将を取り囲む敵陣の駒を目の当たりにしている盤面かのようだな。
ふむ、そして相川殿の後ろにもう1人。例えるならば歩兵の後ろに控える飛車のように構えている君の名は?」
ユキワリ・キョウヘイ「えっと、【超逸材のスケット】の雪割杏平と言います。よ、よろしくお願いします」
ポニーテール・ショウジョ「わぁっ、ケイマッチの言ってた通りだったね! 私達以外にも同じように人が居たんだ! 仲間だよ、仲間だよ! ケイマッチ!」
と、戦場ヶ原さんと一緒に来たポニーテールの少女は嬉しそうにジャンプをしてなど、全身でその喜びを表現している。それに対して戦場ヶ原さんは決め顔で、瞳をキラッと輝かせて作った顔を見せていた。
センジョウガハラ・ケイマ「その通りだな。初めは絶海の孤島かと思いきや、このように少しだとしても仲間の駒が残っているようなこの状況を喜ぶべきだろう。焦らず、盤面を見渡すように周りを探って正解だったな」
ポニーテール・ショウジョ「そうだね、そうだね! きちんと探して良かったよ、流石は【超逸材の棋士】のケイマッチだね! れいせいちんちゃくぅ~!
あっ、キョウヘイッチとユウキッチって呼んでいい? あたしのことも名前で呼んでいいよ! あたしの名前は【超逸材のサッカー選手】の常盤木十香って言うんだ!」
【超逸材のサッカー選手;トキワギ・トオカ】
センジョウガハラ・ケイマ「しかしこれで8人、か。まだまだ先は長いな」
ユキワリ・キョウヘイ「……8人?」
この場にいるのはどう見積もったとしても、4人しか居ないのだが……。
なのに8人、ってどういう意味だろうか?
アイカワ・ユウキ「8人? もしかして今の戦場ヶ原桂馬くんの発言は、まだ監禁されている者が居ると? それを確信しての発言かな?」
センジョウガハラ・ケイマ「その通りだな。吾輩は先程体育館に向かったのだが、その時に入り口に紙が貼ってあったんだよ。【この学園の生徒16人は、体育館に集合】とね。だから吾輩はとりあえず会った人間にこの事を伝えているのだよ。
気になる文章であるし、なにより1人だと孤立する角行のようで気分が悪かったのでね。とりあえず見つけた者には体育館に向かうように頼んで常盤木殿と辺りを散開していて、雪割殿と相川殿らで8人となったと言うことだ」
なるほどと、それを聞いた相川さんは頷き、そして名案を思いついたとばかりに明るい笑顔で提案する。
アイカワ・ユウキ「なるほど……なら、こうしないかい? ここに居る雪割杏平くんと2人で残り8名の生徒を見つけて貰うと言うのは」
ユキワリ・キョウヘイ「なっ⁉︎」
なんてことを言うんだ、このカウンセラーさんは!
ユキワリ・キョウヘイ「ちょ、ちょっと相川さん!? ぼく達2人で残り8人も探すのですか? 戦場ヶ原さんと常盤木さんもかなり時間がかかっているみたいですし……ちょっときついのでは……」
トキワギ・トオカ「そうだよ! ケイマッチと2人で探しても結構苦労したんだからね! 後、キョウヘイッチも気軽にあたしの事はトオカッチで良いから!」
いや、《トオカッチ》と呼ぶ気はないんだけれども……。そんなにすぐに女性をそんなあだ名で呼ぶ度胸は、ぼくにはない。
アイカワ・ユウキ「いや、多分大丈夫だよ。それに全員を見つける必要はないんだよ。君達が戻る間に会う可能性も残っているしね。それなら先に待って貰った方が良いしね。
わたし達は先程地図を見つけたんだが、ここから先は部屋が2つ……倉庫と食堂だけみたいだしね。それならば2人も居れば十分でしょう」
ユキワリ・キョウヘイ「……なるほど、確かにそうですね」
アイカワ・ユウキ「後、君達と同じように呼びかけている人も居るかもしれないから、もしかしたらもう全員揃っている可能性もありますから。ならば、わたしと雪割杏平くんの2人はちょっとした確認の意味で行くだけだよ。それで済む可能性もあるしね」
相川さんのいう事も一理あるんだけど、なんでぼくまで……。まぁ、別に嫌って程ではないんだけれども……。
センジョウガハラ・ケイマ「……なるほど、ならば穴熊のようにしっかりと陣を張って待つのも1つの戦法と言う訳か。よろしい、ならば相川殿の言う戦法に賛成し、この先の倉庫と食堂の中の探索をお任せしよう。我々は一応、そこのゲームセンターの中を捜索した後、体育館へと帰還――――」
アイカワ・ユウキ「いや、その必要はない。ゲームセンターにはわたし達以外には居ないからね。もう戻って貰って構わないよ」
えっ? もうゲームセンターには居ない?
少なくともぼくはまだ探していないんだけれども、先に起きていた相川さんが探していたということだろうか?
センジョウガハラ・ケイマ「ふむ……。相川殿がそう言うのなら、信じようじゃないか。
では、常盤木殿。我々はこの事を他の皆に伝えようではないか」
トキワギ・トオカ「そうだね、そうだね! あと、あたしのことはトオカッチで――――」
そう言いつつ、戦場ヶ原さんと常盤木さんの2人は先程来た方向へと、体育館の方へと戻って行った。
アイカワ・ユウキ「さて、まずは倉庫から見てみようじゃないか。なーに、2部屋くらい2人で探せばすぐに終わるさ。それにあの2人に任せ過ぎるのもどうかと思うしね。【超逸材のスケット】である雪割杏平くんなら、頼りすぎはいけないと分かってると思うんだけど」
ユキワリ・キョウヘイ「……まぁ、頼りすぎもいけないですね。
……うん、確かにいけないですね」
確かにあの2人は今まで少なくともぼく達を除いても6人見つけてくれてるんだし、ぼく達もなにか手助けした方が良いだろう。これは【超逸材のスケット】としての感覚としてではなく、ニンゲンとして頼り、助け合うのが重要って事を思い出しただけである。
ユキワリ・キョウヘイ「さて、気持ち切り替えOK! さぁ、行きましょうか」
まぁ、2部屋だったら相川さんの言う通りすぐに終わるだろう。
ぼくはそう思って、まずは倉庫の方へと向かった。