プロローグ 【楽しい楽しい、沈没以前出航以下の修学旅行】2
目を覚まして一番に感じたのは、臭いだった。そしてそれは感じた事のある臭いだった。
ユキワリ・キョウヘイ(ぞうきん? それにモップ? それに動いても動き辛いこの感じは……もしかして、ここはロッカーの中か?)
掃除用具ってのは独特の臭いがする。そして自由に身動きできないこの感覚は、教室にあるロッカーの中で間違いない。
何故間違いないって言えるかというと、前にこれとよく似たロッカーの中に入れられた事があるからだ。勿論、あの探偵という名目で人に作業を押し付けてくるクソ兄貴の仕業だが。
ユキワリ・キョウヘイ(とにかく……出なくちゃ……)
ドン、と壁を手当たり次第殴っていると右の壁の間隔が少し開いた感じがする。そこが扉だと思って、ドンと今度は狙いを付けてぶつかると扉が開く。
ユキワリ・キョウヘイ「よしっ……!」
扉が開いた事を確認して外へと出ると、そこはピンが一番並んでいるレーンが並んだ場所……ゲームセンターのボーリング場だった。モニターにはぼくの名前、雪割杏平が映し出されていた。
ユキワリ・キョウヘイ「ここは、ボーリング場? 可笑しいなぁ、ぼくは学園へと足を踏み入れたはずで……」
ショウネン「あれっ? 雪割くん?」
と、そんな素っ頓狂な声でぼくの名前を呼ぶ人。
その人は銀色の三つ編みの髪をした巫女服男であった。背中には白と黒の二色のリュックサックを背負っており、頭には白い包帯をマフラーのようにたなびかせて巻いていた。
ショウネン「君は雪割くんじゃないかい? ……あれっ? 良く見ると雪割くんじゃないのかな?」
ユキワリ・キョウヘイ「……あなたは?」
ショウネン「おやおや、そう言えば自己紹介がまだだったね。わたしは【超逸材のカウンセラー】として選ばれた、相川祐樹だよ。君のことはお兄さんから良く聞いているよ」
【超逸材のカウンセラー;アイカワ・ユウキ】
アイカワ・ユウキ「君のお兄さん、雪割花江さんとは事件でお世話になった事が多くてね。なにせ【超逸材のカウンセラー】として、犯人や遺族の心のケアがわたしの仕事の1つなのですから。その件で、君のお兄さんとは仲良くさせていただいているよ。君の話も良く話題に出るよ、優秀な出来た弟だとね」
ユキワリ・キョウヘイ「は、はぁ……ど、どうも……」
アイカワ・ユウキ「しっかし、これはどうなっているんだろうねぇ。わたしの記憶だと幸福ヶ淵学園に右足を踏み入れた瞬間に記憶が飛んで、次に目を覚ましたらこのボーリング場だったんだけれどもねぇ……君はどうだい?」
ユキワリ・キョウヘイ「ぼくも……そんな、感じですかね……。校門に足を踏み入れたら……記憶が……」
あれっ? けれども相川さんは幸福ヶ淵学園の校門に足を踏み入れた時に記憶が飛んだのなら、ぼくも相川さんの姿を見ているはずだと思うんだけれども……。
まさか校門に入ると同時に1人ずつ連れ去るだなんて、面倒な事はしてないと思うし……。
アイカワ・ユウキ「とにかく、一度ここの事を調べるべきだと思わないかい? とりあえずざっとこのボーリング場の事は調べたから、先にこの外の事を調べるべきだと思うんだ」
ユキワリ・キョウヘイ「確かに……。もしかしたら、ぼく達以外に誰か居るかも知れないし」
アイカワ・ユウキ「そう願いたいね。わたしは別に雪割杏平くんのことを嫌っている訳ではないけれども、出来る事ならば女の子も居てくれると嬉しいね。流石に男2人だと、むさ苦しいからさ」
クスッと、小さく笑みをこぼす相川さん。
ぼくもとりあえず苦笑いを浮かべて、ボーリング場から外へと出た。
☆
ぼくと相川さんは2人でボーリング場の外へと出ると、そこは古きと安心を感じる木の床板。
窓の手すりの向こう側には透き通るような青空と白い雲。
さんさんと降り注ぐ太陽。
――――そして、どこまでも広がっていく青く大きな大海原。
ユキワリ・キョウヘイ「海……」
どこまでも先が見えないほど広いその海は、普段ならば高揚感を与えるが今のぼく達にとっては孤島に遭難した寂寥感を強く感じさせたのだった。
ちなみにこのイラストは「CHARATアバターメーカー」を用いて、作らさせていただいております。イラストも募集しておりますので、もしよろしければ書いていただけるとありがたいです。
他のキャラクターも登場するページに応じて、イラストを載せております。