チャプター1 監禁船の四月は君の虜 クロ探し裁判編(6)
☆==Yukiwari Kyouhei's Reasoning==☆
ぼくがカウンセリングルームを見た時には、相川さんの死体を見つけた。
しかし、その後にカウンセリングルームを見た橋渡さんは、相川さんの死体を見ていない。
その違いはなんだろう?
橋渡さんが嘘を吐いている可能性もあるけれども……こちらをニコニコと、こちらが見惚れてしまいそうなくらいの笑顔で笑いながら見ている橋渡さんが嘘を吐いたとは考えにくい。
あの本性を見た後でも、なんだか見惚れてしまいそうなくらいな笑顔である。気を抜かずにいないと、本当に惚れてしまいそうなくらいで、流石【超逸材の恋人】の橋渡恋歌さんである。
まず、ぼく。
ぼくは確実に相川さんの死体を目撃している。それはぼくの記憶に確実に刻まれている。
あのカウンセリングルームで、今まで生きていて話していた彼が、血を流して壁にもたれかかって死んでいたあの光景は、忘れたくても、忘れられない光景である。
次に、橋渡恋歌さん。
橋渡恋歌さんはぼくを殴った後、カウンセリングルームの中を見たけれども、その中に相川さんの死体はなかったという。
あの光景を見たのならば、絶対に彼女は相川さんの死体を、ぼくのように忘れられないはずである。
ユキワリ・キョウヘイ(……ぼくと橋渡さん、2人とも同じカウンセリングルームを見ているはずだ。なのにどうして、あんな大事な相川さんの死体を"見ている"と"見ていない"という、意見が分かれるんだ?)
……どうして、こんな風に意見が分かれてるんだ?
ぼくと橋渡さんの、違いはと言うと……。
ユキワリ・キョウヘイ(そうだ、ぼくと橋渡さんは同じカウンセリングルームを見た訳ではないんだ)
橋渡さんは確かに"扉を開けて見たけど"と、実際に【扉】を開けたと明言していた。けれどもぼくの場合は扉が開かなくて、カウンセリングルームの【小窓】越しに状況を確認していた。
……もしかして【扉】と【小窓】だと、状況が違っていたのか?
ユキワリ・キョウヘイ(【扉】と【小窓】の状況の違い……相川さんの死体があるか、ないか? どうしてそんな違いが生まれたんだ?)
勿論、それを行ったのが今回の事件の犯人、相川祐樹を殺した真犯人なんだろう。
橋渡さんは独自に、犯人の正体など知らずに偽装工作を行っているのならば、犯人は自分が犯人だと疑われないように偽装工作を行ったはず。橋渡さんが助けてくれるだなんて考えずに。
ユキワリ・キョウヘイ(では、その犯人は誰だ? なにか手がかりは……そうだ、橋渡さんだ)
橋渡さんは犯人についているのかの指摘があった際に、【コロシアイが起きそうな雰囲気会ったし☆ "アレ"もその前に見ちゃってたから】と答えていた。
つまりは橋渡さんは犯人が誰かを知っているかどうかはともかくとして、なにか"コロシアイが起こると確信できるもの"を見たからこそ、偽装工作を手伝ったんだろう。彼女はぼくを殴る前に、誰かが殺されると知っていた。ならば、彼女の性格からして真犯人を庇うための行動――――をしてたんじゃないか?
センジョウガハラ・ケイマ【いや、吾輩の棋譜……いえ、記憶が確かならば、会を提案したのは【超逸材の恋人】である橋渡殿だったはず。ショコラ殿ではないのか、と少々気になったのは確かであるからな】
そうだ、戦場ヶ原さんが言っていた。
『お菓子を食べよう会』。沢山の人が参加したその会は、橋渡さんが企画提案したもの。
……今の彼女の本当の心境を知った今からすれば、それは橋渡さんが用意した真犯人のためのアリバイのように思える。
ユキワリ・キョウヘイ(あの会に参加した者は途中で抜けた戦場ヶ原さんと、それと同様に犯人を庇おうとしているというスタンスの橋渡さんを除けば、『お菓子を食べよう会』に参加したのは残り6名)
【超逸材のパティシエ】、ショコラティッシュ・バニラ。
【超逸材の気象予報士】、平和島望海。
【超逸材の教師】、中吉田さゆり。
【超逸材の鑑定士】、白神山たける。
【超逸材のサッカー選手】、常盤木十香。
【超逸材のイラストレーター】、倉中りぼん。
――――以上の6人であるが、この6人の中に橋渡さんが庇おうとした犯人が居るはずだ。
いったい、それは誰なんだ……?
相川さんを殺して、この船から出ようとしている人物は誰なんだ?
ユキワリ・キョウヘイ(そのヒントは、【小窓】越しには相川さんの死体が写っていて、【扉】を開けると相川さんの死体がなかったという事だろうか? そしてこの6人の中に、本当に犯人は居るのだろうか? ……ん? 【小窓】越し?)
なにかがもう少しで繋がりそうだ。
そう、何かが……はっ!?
ユキワリ・キョウヘイ(……はっ! そうか、分かったぞ!)
ヒントは既にあったのだ。
小窓、それが今回の事件の鍵を握っていたのだ。
勿論、ぼく達が捜査した頃には既にその証拠は回収されていると思うし……。
あれ? でもそう言えば……。
ユキワリ・キョウヘイ(そう言えば、カウンセリングルームで妙な事を言っていた人が居たな。よし、まずはその人から証言を聞きだして行くか)
と、ぼくはそう言って、その証言をした人に向き合っていた。
☆==Fin==☆
ユキワリ・キョウヘイ「……中吉田さゆりさん、ちょっと聞いて良いですか?」
ナカヨシダ・サユリ「にゃっ?! わたくし様は恋歌ちゃんのようなややこしい本性とかないにゃよ!?」
ユキワリ・キョウヘイ「カウンセリングルームを調査した時に、中吉田さん言ってましたよね。ゴミ箱の所で、【切れちゃうから】と言ってましたよね。その切れる原因がなんなのか、ゴミ箱の中になにがあったのか。すいませんが教えて貰えませんか?」
あの時、ぼくはその事を詳しく聞いていなかったがもしぼくの予想が正しければ、中吉田さんがそう言った理由は恐らく……。
ナカヨシダ・サユリ「にゃー……ゴミ箱には、ガラス片が落ちていたのにゃ。良く言うにゃよね、【ハサミとガラスは切れるよう】って。にゃから、間違ってガラス片で手とかを切っちゃわにゃいように、そう言っていたのにゃ。……あっ、そう言えばそのガラス片にはにゃにか色づけされてたにゃよ?
これが、杏平ちゃんが知りたかった事かにゃ?」
ユキワリ・キョウヘイ「あぁ、たいへん参考にあった。ありがとう」
ゴミ箱にガラス片があり、そのガラス片には色がついていた。
――――なら、犯人は恐らく……。
"今回の事件の犯人は――――"
ユキワリ・キョウヘイ「あなたですね、【超逸材のイラストレーター】倉中りぼんさん」




