チャプター1 監禁船の四月は君の虜 クロ探し裁判編(3)
橋渡さんが提出した、カウンセリングルームの写真。1枚目はカウンセリングルーム前で倒れるぼくの写真、2枚目は血塗れのカウンセリングルームの写真、3枚目はカウンセリングルーム前の廊下の写真。
その中でもぼくが重要視したのは、3枚目の写真。廊下を映し出したその写真、その廊下の奥の隅には見た事がないような綺麗な、さらさらな白銀の髪が見えていた。廊下の隅から見えているのはその髪だけなのだが、これは明らかに人の髪だ。
ユキワリ・キョウヘイ(この髪の持ち主、それが分かれば白般若の目撃証言も得られるかも知れない……だが、この髪は誰のだ?)
この白銀のさらさらとした髪。
色合いとしては、相川さんのが近いかもしれないけれども彼の髪は少し灰色がかっているし、髪質としては倉中さんや小鳥遊さんのがさらさらとしている感じもあるけれど色は全然違うし……。
ユキワリ・キョウヘイ(じゃあ、誰だろう? もしかしてここには居ない17人目? いや、1人だけ居る)
ぼく達16人の中で、唯一この白銀のさらさらとした白銀の髪である可能性がある人物……。
ぼくはその白銀の髪の持ち主であろう持ち主――――に、声をかける前に、全員に髪を見せる。
ユキワリ・キョウヘイ「なぁ、みんな。この写真の3枚目の、廊下の奥を映した所を見てくれないかな?」
ナカヨシダ・サユリ「にゃ? なにか写ってるか、にゃ?」
センジョウガハラ・ケイマ「……? どうかしましたか、まるで渋滞でもしたかのように、指摘内容が……いや、廊下の隅になにか写っているな」
シラカミヤマ・タケル「え、えっと……誰かの髪、かな? で、でも髪だけじゃちょっと鑑定出来ませんね」
ユキワリ・キョウヘイ「いや、ぼくには誰か予想ついている。この白銀の髪……もしかして、君の髪じゃないのかい?
――――【超逸材の神】、久能環さん」
この中で唯一、ダンボールを常に被って顔を見せなくしている超天才のゲームクリエイターとして選ばれた【超逸材の神】、久能環さんならばあり得るのかもしれない。
ぼくが尋ねると久能さんはがくがくと振動するくらいに震えており、ダンボールがところどころ彼女の身体から離れようとしている。
クノ・タマキ「がくがくぶるぶる……! な、なな、なんのこと、デスか? は、はくぎんの髪? そ、それがワタシの髪だなんて、恐れ多いにもほどが……そ、そそ、そもそも! ど、どうしてワタシがここに居ると? り、りゆうが、ないような……」
タカナシ・アカリ「……なるほど、その白銀の髪は久野さんのと。確かに、この時間帯に廊下に居るだなんて、久能さんしかあり得ませんものね」
クノ・タマキ「まさかの援護射撃デス?!」
「あわわ……」と今時誰も言わないくらいの焦った台詞を口にする久野さん。けれども、小鳥遊さんはそんな彼女の反応を無視して、ゲシュパットを取り出していた。
ヤマト・アユム「……ゲシュ、パット? 今、ゲシュパットなんて必要なのか、とオレはそう思うけど」
クラナカ・リボン「歩ちゃんのゲシュパットがどうかしたのかな? まさか、今からゴッホの『ひまわり』シリーズの鑑賞会ですか!? それだったら今から何時間だろうと付き合いますね!」
トキワギ・トオカ「それか、日本代表の名場面特集とか! 今の日本代表である、コマキには頑張って貰いたいよねぇ!」
クラナカ・リボン「いえ……これは私のゲシュパットではなく、相川祐樹さんのゲシュパットです」
スイッチを入れると同時に、ゲシュパットの画面がつく。
【Hello to 相川祐樹
こちら【超逸材のカウンセラー】相川祐樹様専用のゲシュパットになります】
ユキワリ・キョウヘイ(……!? あ、あれって、橋渡さんがぼくに渡してくれた相川さんのゲシュパット?)
お、おかしい。あの、相川さんのゲシュパットは僕が持っていて、あれ? そう言えばあのゲシュパットってどこに置いたっけ?
と言うより、あのゲシュパットはどこに置いたっけ? いつの間に小鳥遊さんの手に?
タカナシ・アカリ「これはとある筋で手に入れた、相川さんのゲシュパットです。このゲシュパットの送信履歴は一度皆で見て置くべきだと思いますが、注目すべきはこの受信履歴です」
と、小鳥遊さんは受信履歴をゲシュパットを見せる。
【13:28 To:御剣 Title:面談についてのご連絡
13:48 To:平和島 Title:メンダンについてのごレンラク
14:06 To:常盤木 Title:キョウヘイッチ、ア~ソボ!
14:19 To:大和 Title:行くよ
14:20 To:中吉田 Title:相談あるんだけど
14:42 To:久能 Title:行かなきゃダメデス?
14:56 To:ショコラティッシュ Title:イキマスヨー
14:59 To:久能 Title:やっぱりダメデス?
15:12 To:鈴木 Title:
15:22 To:春日 Title:拒否します
15:24 To:春日 TItle:嫌に決まっています、バカじゃないんですか?
15:51 To:春日 Title:しつこいです、私なら大丈夫ですので
16:28 To:久能 Title:うぅ……了解デス
16:48 To:戦場ヶ原 Title:うむ、理解したぞ
17:11 To:小鳥遊 Title:着きましたよ
17:46 To:橋渡 Title:任せて☆
18:00 To:白神山 Title:い、いい、いきます
18:32 To:倉中 Title:今から行きますね
18:52 To:雪割 Title:今から向かいましょう
19:09 To:久能 Title:えっと……
19:22 To:久能 Title:あ、あれ?】
タカナシ・アカリ「重要なのは、この受信履歴の中で1人だけ相川さんにメールを複数送っている人物が居ます。1人は春日さん、もう1人は久野さん。なのですが、重要なのは久野さんのメールが後であり、このメールのタイトルからも分かるように、久能さんは相川さんと会って面談してない可能性がある事です」
小鳥遊さんが久野さんを睨み付けると、久能さんは「うっ……」と言葉を詰まらせる。
クノ・タマキ「た、たしかに、相川さんの所に行きたかったデス。それは認めるデス。
だってあんな密室に行くとは思わなかったデス。あの密室では殺されるキケンセイ、あったデス。でもソーダンはしたくて、ずっと見てたデス。けれど、怪しい人物は1人しか見ませんでしたよ? 白い般若面を被った変な人なら見たデスが」
ミツルギ・ヒイロ「……!? おいおい! そいつ、思いっ切り怪しいじゃねぇか! なんでそいつが犯人だと言わねぇんだ!? いくらなんでもそれは可笑しいだろう!? 道理に合わねぇだろう?」
御剣さんが大きな声をあげて彼女を責めるように言うと、久能さんは「そのぉ……」とどこか言いづらそうな口調で言う。
クノ・タマキ「いや、でも、そのぉ……ワタシの話、聞いてくださいデス。まずは黙って、聞いて、ください、デス」
ごほん、と彼女はそう前置きした後、ゆっくりとだが語り始めていた。
☆==Kuno Tamaki Memory==☆
ワタシ、カウンセラーさんの所に相談しようとしたデスが、なかなか勇気が出せなかったデス。だってコロシアイを強要しているような状況下で、密室で2人デスよ? 警戒して当然、デス。だから全員が終わった後、扉越しで面談しようと思ったのデス。それくらいで良いと思ったデス。
……まぁ、結局はソーダン出来なかったデスが。
そして、ワタシがいつ行こうかと思って見張ってたデスが、その夜のことデス。
カウンセリングルーム前でスケットさんがびっくりしたのが見えたデス。何事かと思うデスと、スケットさんの後ろから白い般若面を被った人がスケットさんを殴ったデス。
ワタシ、驚いてがくがくと震えてるデスと、白般若面を被ったそのジンブツ、こっちに来るデス。そして仮面を取ってそれから、それから……。
あっ……あぁ……あああああああああああああああああああああああああああっ! うーあああああああああああああああああ! ああああああああああああっっっっっっん!
☆==Stop==☆
クノ・タマキ「うぅっ……がくがく……ぶるぶるる……」
話している途中であったが、久能さんはなにか嫌な事でも思い出したのか、がくがくぶるぶると震えていた。その際にキーボードを触っているのか、キーボードを叩いたような乾いた音が何度も鳴り響いていた。
タカナシ・アカリ「雪割さんを殴って気絶させた、仮面を被った怪しい人物。犯人候補としては、一番筆頭に挙げられるべきでしょう。
……重要な所です。是非とも、久能さんには思い出して欲しい所なのですが」
ヤマト・アユム「おいおい、小鳥遊さん。それは酷というものじゃないか……な? 久野さんは戸惑っているみたいだし、ゆっくりと思い出して貰った方が……いや、思い出して欲しいけど」
ナカヨシダ・サユリ「にゃー、わたくし様も効きたいにゃ。環ちゃん、是非そのハンリャ面の正体を教えて欲しいにゃー!」
ショコラテイッシュ「ショコラ、それは般若面が正しいと思うよ」
皆で久野さんに声をかけていると、久能さんは戸惑いながらも、自分が見た白般若面の正体を教えてくれた。
クノ・タマキ「白般若面の正体。それは、ラバーさん……ハシワタリのレンカさんデス」