チャプター1 監禁船の四月は君の虜 クロ探し裁判編(1)
さぁ、犯人……クロを追い詰めていくよぉ。ぐふ、ぐふふぅ!
豪華な赤天井に、空よりも透き通った青い壁と床。真ん中には相川さんの遺影が付けられた十字架があり、それを囲むようにして16の席が用意されていた。左から名前順に春日さんから順に久野さん、倉中さんへと続いて行き、最後は雪割。そして春日さんとぼくの間に1つだけ空席が用意されていた。恐らく、この空席は相川さんのために用意された席だろう。
ゲシュタルト《ぐふふぅ! みーんな、揃ってくれたようで嬉しい限りだよ! さて、これからオマエラが話し合って貰うのは【超逸材のカウンセラー】相川祐樹さんを殺した犯人探しでぇす。果たしてオマエラは相川さんを殺した、無慈悲なる犯罪者は誰なのか? それをオマエラは見つけ出せるのか?
ワックワクで、ドッキドキな、クロ探し裁判の開廷でぇす!》
☆
ハシワタリ・レンカ「わぁい、裁判だぁ! こう見えても私、裁判って初めてだから緊張するなぁ~」
皆が緊張して黙り込んでいる中、一番最初に口火を切ったのは橋渡さんだった。それに対して大和さんは「いや、みんな普通そうですから……」とあきれ口調で返していた。
センジョウガハラ・ケイマ「ふむ、将棋に置き換えれば今はまだ駒を揃えて動かない状況という所だろうか? ここから向かい飛車にするか、ひねり飛車にするかどうか、それが問題だな。うむ」
ナカヨシダ・サユリ「その違いは恐らく多くの人が分かっていないと思うにゃ。だからもっと分かりやすい形で伝えた方が良いと思うにゃ」
クラナカ・リボン「いまいち状況が掴めてないんですけれども、とりあえずわたし達は探らないといけないんですよね。この事件を起こした犯人さんを。でもどうすれば……。漫画だと神作を書いて来たわたしですが、実際の推理の方はどうにも……」
クノ・タマキ「神作!? 詳細キボンヌ」
ショコラティッシュ「え、えっとショコラ、とりあえず良い事を思いついたよ。皆で目を瞑ってその際に犯人の人だけが挙げるとか? ど、どうかな?」
シラカミヤマ・タケル「え、えっと言い考えだと思いますよ? えっと、まず目を瞑って深呼吸して……」
タカナシ・アカリ「それで突き止められれば、苦労しませんがね……」
と、そう言うようにぼく達の裁判はあまり前進してはいなかった。ぼくでさえも推理の手伝いくらいしかした事がないのに、裁判の経験なんてあるはずもなく。ぼく達の中で裁判に詳しい人なんかいる訳がなく、皆なにから手を付けて良いかが分からなかった。
ミツルギ・ヒイロ「くそっ! どうすれば良い! なにから議論すれば良い?
そうだ! あれから始めよう! まずヒーローがいかにしてカッコいいかと言う話を……」
カスガ・ハルヒ「……死体について話しませんか?」
と、春日さんが呆れたような口調で、いつもの口調でそう言いだした。
カスガ・ハルヒ「殺人事件なんか、戦場で人が殺されるのと一緒ですよ。戦場の方が頭がもげたり、腕が焼け落ちてたりしてますが、それでも死体の損壊情報について調査するのは普通でしょう。少なくともヒーローさんのくだらない情報なんかよりもずっと話し合うべきでしょう」
ヘイワジマ・ノゾミ「オー! 確かにその通りネー!」
トキワギ・トオカ「死体の情報……? そう言えば相川さんの死体の情報は、ゲシュタルトファイル1、ってのに書かれてたね! えっと、【死体発見現場は体育館ステージ上。殺害方法は刺殺であり、日本刀で刺されて出血多量によって死亡となっている。】と書かれているね」
常盤木さんはゲシュパットを覗きこんで、ゲシュタルトファイル1に書かれている情報を読み上げる。
シラカミヤマ・タケル「え、えっと……か、確認なんだけど、死体が発見されたのは体育館ステージ上で、殺害方法も刺殺……だったよね?」
センジョウガハラ・ケイマ「ふむ、確かにその通りだったな。歩兵が敵陣に入る前までは一歩ずつしか進めないのと同じくらい、当然の事象だったな」
ミツルギ・ヒイロ「そうか。なら、このゲシュタルトファイル1とやらは、とりあえずは信用出来るという所だろうか? それが本当に真実かどうかは、俺達が調べて事実だったしな!」
と、ガハハと豪快に笑う御剣さん。
シラカミヤマ・タケル「じゃ、じゃあとりあえず1つの結論を出しときましょう、ね? ゲシュタルトファイル1に書かれていた事は真実である、と」
ハシワタリ・レンカ「じゃあ、さ! ユウくんが殺されたのもステージ上じゃないかな!? ステージの上に死体を持って行くって疲れるからね☆」
キラッと歯を輝かせて、橋渡さんは嬉しそうに断言していた。
ハシワタリ・レンカ「人間の身体って重いよね☆ 交遊の時だって上から乗られるのは重くて♡ あぁ、熱い熱い……♡ 溶けてしまいそう♡」
ナカヨシダ・サユリ「言ってる事がエロいんだにゃよ、恋歌ちゃん。
でも人間が重いのは確かだにゃん。ステージ上で殺してから、死体を十字架に張りつけにしたと考えた方が自然だにゃね」
ミツルギ・ヒイロ「いやいや、でも他の場所で殺された証拠があれば良いんだろ? じゃあ、カウンセリングルームだ! 俺はカウンセリングルームを選ぶ! あそこで殺された可能性を指摘出来れば良いんだろう?
よし、恋歌とさゆりがステージ上で殺されたと言うなら、俺はカウンセリングルームを選択しよう! その件については雪割杏平、お前が説明しろ!」
ユキワリ・キョウヘイ(えっ? いきなりなんでこちらに話が振りかぶって来るんだ?!)
ここは流れ的に、御剣さんが説明すべきなんじゃないの?
それなのに、どうしてぼくが説明する流れになっているの?
ユキワリ・キョウヘイ「(えっとカウンセリングルームで殺された可能性だろう?) そう言えば、倉中さんが描いてくれた図がありましたね」
と、ぼくは倉中さんに渡されたカウンセリングルームの図を取り出した。
クラナカ・リボン「あっ! 『コロシアイと愛のパドス~地中海のオマール海老を添えて~』じゃないですか!」
スズキ・シーサー「オマール……海老……?」
トキワギ・トオカ「愛の……パドス?」
ユキワリ・キョウヘイ「えっと、この図はね。倉中さんがカウンセリングルームで描いてくれた図なんだけれども、この図にはたくさんの赤い物が描かれているでしょ? これはね、血だまりなんですよ。実際に本当にカウンセリングルームに血があって、この図に書かれている通り、けっこうな血の量があったんです血液を移動させたと言うよりかは、死体を動かしたと考えた方が分かりやすいと思いますよ」
タカナシ・アカリ「第一、あの体育館のステージ上はあまり血で汚れてなかったでしょ? ステージ上を拭いといて、代わりにカウンセリングルームを血で汚すのは非効率だと思います」
ハシワタリ・レンカ「あぅ~、間違えちゃったなぁ☆ てへっ♪」
他の皆も納得したかのような口調で頷く。死体を動かすことの方が、血を動かすよりも遥かに楽であるという事は皆も納得してくれたようだ。
ナカヨシダ・サユリ「とりあえず、殺害現場はステージ上ではなく、これではっきりしたにゃんが、このペースだといつ終わる事かにゃ……先はまだまだにゃがそうだにゃ」
はぁ~と溜め息を吐いた中吉田さんの隣で、橋渡さんがぴんと嬉しそうな表情をこちらに向ける。
ビシッと、彼女はぼくを指差して爆弾発言をこの場に放り込んだ。
ハシワタリ・レンカ「あっ! 早く終わらせたいとじゃあ、とっておきの情報を披露しちゃうよ!
なんと、ね! 犯人は雪割杏平くん……キョウくんなんだよ!」