プロローグ 【楽しい楽しい、沈没以前出航以下の修学旅行】1
聞いた話によれば地球は丸く、そして青いらしい。
けれども、それって本当なのだろうかな?
もしかしたら、こんぺいとうみたいなのかもしれない? おばあちゃんがくれるような、甘くて美味しいごつごつとした岩のような形の、こんぺいとうみたいな形をしているかもしれない。
それをおばあちゃんが綺麗な紙で包んで、上品そうに包まれたあのこんぺいとうみたいな形をしているのかもしれない。
あるいは箱庭みたいなものなのかもしれない。アメリカとか、イギリスとか、フランスとかなど国々や地域ごとに箱庭が作られていて、海外旅行とかは気付かない内にワームホールとかを抜けているの。
私達は別の箱庭の情報を、他の箱庭の場所を、一繋ぎの地続きの場所にあると思っているけれども、本当は私達の世界は本当に小さな、ちっぽけな世界なのかもしれない。
そんな事は普通の人間には分からない。それが分かるのは超一流の、才能溢れる者達だけだ。
そして各界の才能を持つ高校生達を《超逸材》と称して、輝かしい未来を作る人間に育てる学園があった。
――――その名も私立幸福ヶ淵学園。
ユキワリ キョウヘイ(ぼく、雪割杏平もまたこの幸福ヶ淵学園へとスカウトされて、入学する《超逸材》の生徒)
とあるネット掲示板では、この学園に入学する事は《宝くじで5億円を当てるよりも嬉しい事》だと言われている。
そりゃあ、そうだろう。
それだけ優秀であると、将来が約束されていると、言われていると同義であるからである。
ユキワリ・キョウヘイ(これから始まるのだ……ぼくを含めた16人の、希望に満ち溢れた学園生活が)
この時のぼくはまだ知らなかった。
こんなぼくの願いが、惨めに、不条理に、理不尽に。
踏みにじられるとは思っても見なかったのだ。
これはそんなぼくらの。
他人を助け、蹴落とし、信じ、疑い、殺し、生かす――――そんなコロシアイ学園旅行。
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私立幸福ヶ淵学園の入学式初日。
その日、ぼくは入学式に間に合うか、間に合わないかと焦っていた。
ユキワリ・キョウヘイ(くそぅ! これも全部、兄貴のせいだ!)
《超逸材のスケット》、それがこのぼくが学園から認められた才能に付けられた呼び名だ。どうしてぼくが《超逸材のスケット》という名前を呼ばれるに至ったかと言えば、それは我が兄、元《超逸材の名探偵》こと雪割花江の存在が大きい。
雪割花江は幼少期の頃から《名探偵》の名を与えられるほどの実力を兼ね備えており、数々の難事件や珍事件を即刻解決へと導いていた。その点は弟としても誇らしい一面である。
問題はそれ以外だ。兄貴は《名探偵》としては超一流だが、それ以外はからっきしだ。
もし仮に1人で居れば半日も持たない内に気絶して病院へと運ばれるだろう、それくらい家事も出来ない。1人では生きられない兄貴であるから、弟としては"家族として"兄貴が死なないように手助けしていたのだが、そのサポートが多いのなんのって。
韓国料理からフランス料理など様々な料理を作るように言われたり、推理の参考になるからと砂浜を延々と走らされたりもした。
都合のいい助手としてでも扱ったんだろうが、こちらとしてはいい迷惑だった。
まぁ、《超逸材の名探偵》の助手として活躍した事で、《超逸材のスケット》としてこの学園に入学出来るのだから……良いと思うべきか、悪いと思うべきなのか?
ユキワリ・キョウヘイ(確かに兄貴には感謝している……だが、だが、だ! こんな大切な日に、いきなり『中華料理が食べたい。今すぐ作れ』って言うのはどうなんだ? おかげで遅れそうになっているのだが……)
だが、ぎりぎり間に合いそうだ。
才能溢れる、未来を担う者達の記念すべき入学式。そんな入学式に遅刻するだなんて、あってはいけないのだ。
ユキワリ・キョウヘイ(よしっ、校門だ! これを抜ければぼくも晴れて! あの、私立幸福ヶ淵学園の一員となる!)
そうしてぼくは、私立幸福ヶ淵学園の校門へと足を一歩踏み入れ
――――そこから後の記憶はぼくにはない。