チャプター1 監禁船の四月は君の虜 非日常編(6)
ミツルギ・ヒイロ「勿論、俺は詰め寄ったさ。なんで、包丁を持って座っているのか、ってさ」
そう言って、御剣さんはその時の事を語り始めていた。
☆==Miturugi Hiiro Memory==☆
ミツルギ・ヒイロ「おい、春日! お前、なんで包丁を持って座ってるんだよ!」
カスガ・ハルヒ「はぁ……。ヒーローさん、ですか。まさかこんな夜中まで起きているだなんて、思っても見ませんでした。ヒーローなんか、朝の子供騙しのためにもう早くには床に伏せているのかと思っていたんですが」
そう言いながら包丁を机の上に一旦置くと、春日は俺――――御剣緋色を見ていた。そして一つ溜め息を吐くと、そのままとことこと食堂から出ようとしやがったんだ。
勿論、俺は止めたさ。ゲシュタルトからコロシアイを強要されたその日の夜に、明らかに凶器となる包丁を持っていたんだからな。
ミツルギ・ヒイロ「おいっ、春日! 説明して貰おうか! こんな夜遅くに包丁なんか持っていた理由を! まさか……お前!?」
カスガ・ハルヒ「……誰かを殺しに向かうんじゃないか、と?」
ミツルギ・ヒイロ「――――! 分かっているなら、なおさら!」
と、眉間にしわを寄せて鋭く睨み付けると、またしても春日はこちらを見た後に小さく溜め息を吐いていた。
カスガ・ハルヒ「……冗談、と言っておきましょうか。こんな初日にコロシなんか、流石の頭がカラッポなバカな人だろうともしませんよ。余程、外に出たい用事がなければですけれども。けれども、私はそう言うのとは無縁です。むしろここで永遠に過ごしても良い、くらいの気持ちでいますよ」
ミツルギ・ヒイロ「そんな後ろ向きな考えじゃいけねぇぞ! 人間、どんな時だろうとも前を向いておくべきだ! 常に前向きで、倒れる時であろうとも前向き! 寝る時もうつ伏せという前向きで居るべきだ!」
カスガ・ハルヒ「寝方だと息苦しいと思いますが……ただ前を向いていれば良いとでも思っているの?」
と、対処したのが間違っていたと言わんばかりに春日は元の席に座り直すと、再び左手で包丁を握って……って、おい!
俺は慌てて春日から包丁を奪い取る。
カスガ・ハルヒ「えっと、人から包丁を無理矢理奪い取るのはどうかと思いますが? 人として、ヒーロー(なんか)として」
ミツルギ・ヒイロ「おいっ、今"なんか"って言ったよな! ヒーロー"なんか"って、絶対言ったよな! と言うか、お前こそなんだよ! コロシはしねぇんだろ!? なのに、再び包丁を握り直してんだよ! まさか、自殺でもする気か!? 【超逸材のヒーロー】、この俺の目の前でそんな事が出来ると、させると思っているのか?!」
熱意を込めて伝えると、春日も分かってくれたようだ。
うむ、やはり熱意を持って伝えれば人は理解するな。想いは伝わる、本当に良い事だ。
カスガ・ハルヒ「……自殺する気は毛頭ありません。ただ腕の付け根がかゆくなったので」
ミツルギ・ヒイロ「おいっ!? そんなくだらない理由なんかで、どうして包丁が必要になってくるんだよ!」
カスガ・ハルヒ「……? 腕の付け根がかゆい、包丁が必要……ドゥー・ユー・アンダースタン?」
ミツルギ・ヒイロ「意味が分からないぞぉ、春日ぃぃぃぃ! その2つには、まったく関連性が見当たらないぞ、春日ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
☆==Fin==☆
ミツルギ・ヒイロ「……とまぁ、そう言う訳で俺と春日は仲良くなった、だから一緒に居ると言う訳だ」
ユキワリ・キョウヘイ「待ってくれ、関連性がまったく分からないんだけど」
今の話のどこに、御剣さんと春日さんの2人が仲良くなったという事が含まれているんだ? ぼくにはまったく分からないんだけれども……。
ミツルギ・ヒイロ「まぁ、そう言う訳で春日は無実だな。俺があんなに仲良くしてるんだぞ? 犯行時間の前から俺とシーサーが付いていたからな。勿論、シーサーも無実だ。
そして当然、【超逸材のヒーロー】たるこの俺も無実だな! なにせ【超逸材のヒーロー】、だからな!」
キラッと、歯を白く光り輝かせて決めポーズを取る御剣さん。
いや。【超逸材のヒーロー】だから犯人じゃないと言うのも、意味がまったく分からないんだけれども……。
ユキワリ・キョウヘイ(とりあえず、これで御剣さんと春日さん、それに鈴木さんのアリバイは確認できたな。後、確認すべきなのは久野さんのアリバイを聞いておこう。久野さんは色々と謎だからな)
あの格好の件もそうだが、彼女には色々と謎な件もある。
相川さんのゲシュパットにあったメールも送信履歴はゲシュタルトに向かって送信されていたが、一番最後に相川さんのゲシュパットに履歴として残っていたのは久野さんからのメールだった。
それに今まで久野さんのアリバイはまだ出ていない。
この時点で一番怪しいのは、【超逸材の神】である久能さん……という事に……
《ピン・ポン・パンポーン! 捜査時間は終了となりましたぁ~。捜査時間は終了となりましたぁ~》
と、そんな放送が流れる。
タカナシ・アカリ「……捜査終了、という訳ですか」
ミツルギ・ヒイロ「よしっ! これから何が始まるんだ? どんっ、と来い! なんだろうと、俺の前に出てこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユキワリ・キョウヘイ「(久野さんのアリバイは聞けなかったか) で、なにをするんだ?」
《オマエラ、今すぐ体育館に……って、集まっているのかぁ。ぐふふぅ、丁度良いね! じゃあ、このまま裁判と参りましょうかぁ!》
ユキワリ・キョウヘイ「えっ?」
と、その放送が聞こえた直後、俺達の下から大きな轟音が鳴り響く。と、同時に体育館が大きな揺れに襲われる。その衝撃は、立っているのがやっとの事であり、ぼく達はなにも掴まるものがない体育館の中で右往左往。
ごごごっ!
ヤマト・アユム「なんだ? なにが起こるんだ?」
ユキワリ・キョウヘイ「とにかく、皆気をつけて!」
ごごごごごごっ!
ショコラティッシュ「みんな、ショコラが守るよ! 気をつけて!」
ヘイワジマ・ノゾミ「ミーはぐるぐるぅ~デ~ス」
クラナカ・リボン「うぅ~……ムンク作『叫び』ぃ~」
ごごごごごごごごごっ!
シラカミヤマ・タケル「ひ、ひぃぃぃ! こ、こわいですぅぅぅ!」
スズキ・シーサー「だい……じょうぶ……」
ごごごごごごごごごごごごっ!
ハシワタリ・レンカ「うわぁ~い☆ たのしみぃ~♪」
トキワギ・トオカ「こんなの、楽しめないよ! レンカッチ!」
ごごごごごごごごごごごごごごごっ!
ナカヨシダ・サユリ「ふにゃああああああ!」
ミツルギ・ヒイロ「さゆりが猫みたいな格好で滑り出したぞ!? なに、その格好!? 四つん這いでなにをしてるの!?」
クノ・タマキ「うわぁ~(棒)」
ミツルギ・ヒイロ「久能はもっと感情をこめろ! 着ている段ボールがあらぬ方向にぐるぐる回転してんぞ!? 後、今ごきっ、と言ったぞ!? 本当に大丈夫か!?」
カスガ・ハルヒ「……このまま床が割れて沈没するに、1票」
ミツルギ・ヒイロ「怖い事を抜かすなぁぁぁ!」
――――パキッ。
ミンナ『えっ……!?』
と、みんなで右往左往している中、いきなり体育館の床が割れた。
そしてぼく達はそのまま、体育館に突如開いた穴から底へ、底へと落ちていく。
それはまるで、ぼく達の今後を暗示しているかのようであった。