チャプター1 監禁船の四月は君の虜 (非)日常編二日目⑤
アイカワ・ユウキ「じゃあ、さらばだね。次は別の人と会ってカウンセリングしなければならないからね。また明日だね」
と、相川さんはそう言ってぼくはカウンセリングルームを後にした。
時刻はカウンセリングが始まった時間もあって、もう既に7時を回っていた。もう夕食を食べなければいけないなぁと思っていると、思い出したかのようにお腹がぐぅ~と鳴る。
ユキワリ・キョウヘイ「……ご飯、食べなくちゃいけないなぁ」
ルール通りであれば、夜10時を過ぎて《ヨルジカン》となったら、学園の施設は使えない。食堂も使えないのならば、ご飯も作れずに食べられないのだから、早めに食堂へと向かうべきなのである。ご飯を食べるために食堂へと向かうと3人……御剣緋色さん、鈴木シーサーさん、それに春日春日さんの2人が居た。
ユキワリ・キョウヘイ「あれ? 3人とも、夕食ですか?」
ミツルギ・ヒイロ「おぅ、そうだぞ! 杏平もか! なら、3人で一緒に食おうぜ!」
話しかけると、御剣さんがニコリと眩しくて見ていられなくなるほどの光り輝く笑顔を向けていた。後ろで春日さんが「……眩しくて、目が開けられませんね。本当に嫌な照明です」と頭を抱えていた。
ミツルギ・ヒイロ「1日3食! きちんと食べなければ元気が出ねぇ! それが人間というもんだからなぁ!」
スズキ・シーサー「……だいじ……」
そう言って2人ともご飯を山のように茶碗に盛って行き、ぼくは少し苦笑しながらその茶碗を貰う。
カスガ・ハルヒ「……この2人、さっきから茶碗にご飯を際限なく盛るから困ったものです。私は1人、個室にてゆっくり食事をしてたんですが、勝手に呼び寄せられて迷惑しているのですよ。過剰な迷惑というのは、本当に厄介ですね」
ミツルギ・ヒイロ「なにを言ってるんだ! 朝食だけじゃなく、昼食や夕食さえも1人で食ってなにが楽しいんだ! 春日、お前はそうやって自分だけで過ごす気か! 灯里は昼食には皆と来て一緒に食事したぞ! お前もちゃんと皆と仲良くしろ! 1人で居ようとするな!」
カスガ・ヒイロ「……私に自由意思などないと。ヒーローさんはそうやって過剰なおせっかいが人を苦しめようとは考えてもいないんですね」
春日さんは御剣さんに背を向けて、ぱくぱくと魚の塩焼きをメインとした定食を平らげると、お盆に料理が載っていた皿を置いて食堂のシンクの水へと浸ける。
スズキ・シーサー「……そうじ……」
カスガ・ヒイロ「皿洗いならば、明日の朝にやっておきます。……分かったのなら、そこをどいて貰えませんか? リョウシの鬼のバケモノ」
スズキ・シーサー「バケ……モノ……」
がっくりと膝をついた鈴木さんを無視して、春日さんは個室へと帰って行った。
ミツルギ・ヒイロ「ハハッ! 春日はつれないな! もうこうなったら、明日にするか。時間はまだまだあるっぽいしな」
ユキワリ・キョウヘイ「……なんで、御剣さんは春日さんにそんなに構うんですか?」
思えば体育館でゲシュタルトからコロシアイの説明を受けた全員集合の場面から、御剣さんは春日さんと一緒に居る気がする。それも、御剣さんの方から構っているような感じで。
ミツルギ・ヒイロ「……うーん、なぜなんだろうな。良く分からねぇわ。まぁ、なんだって良いさ。俺はみんな、仲良くなった方が良いと思ってるだけさ。監禁されているとは言ってもさ、俺達は同じ学園の生徒なんだろ? 今の所、仲良く出来なそうなのが春日と環、灯里の3人かな? その3人もそうだが、俺は皆と仲良くしてぇ。短い学園生活なんだ、仲良しの方が良いに決まってるだろうが!」
ユキワリ・キョウヘイ「そうですかね。仲が悪いよりかはそっちの方が良いでしょうし」
ミツルギ・ヒイロ「そうだろ!? コロシアイなんかぜってーに起こさせねぇ! 俺は全員仲良くなって、その上でこの学園から脱出して見せる! それが今の俺の夢だぜ!」
キラッと瞳を輝かせて、御剣さんは良い顔で返事をしていた。
スズキ・シーサー「……仲良し……良い……」
ミツルギ・ヒイロ「だろう!? シーサーは良く分かっているなぁ!」
「イェェェェェェイ、楽しもうぜぇぇぇぇぇぇ!」とシーサーさんと一緒に笑い合う御剣さんを後にして、ぼくは適当に食事を貰うと個室へと戻った。
個室へと戻ると既に9時を迎えており、もうすぐ《ヨルジカン》かと思っていると、ぼくのゲシュパットに連絡が入る。メールの相手は相川さんからだった。
【送信者;相川祐樹
内容;少し話したい事があります。どうやらこのコロシアイ生活で重要なことが分かりました。なので何人かには既に説明してますが、雪割さんの意見も聞きたいので、カウンセリングルームに来てください。お待ちしております 相川祐樹より】
ユキワリ・キョウヘイ「……相川さんから? なんだろう? 重要なこと?」
既に《ヨルジカン》は迫っていたが、相川さんからの重要なお話なので行って見て損はないだろう。もしかしたら、他の人から聞いた話でなにか重要な事が、ここから出る方法が分かったのかもしれない。
ユキワリ・キョウヘイ「……そうだね。もうすぐ《ヨルジカン》だし、とっとと行っとこう」
別に《ヨルジカン》中に出歩いちゃいけないのは確かではありますが、コロシアイについて聞いておきたい。ぼくはそう思って、個室を出る。個室を出ると、小鳥遊さんが柱に寄りかかった状態で、寄宿舎の入り口の前に立っていた。黒いジャケットを深々と着込んだ彼女は、手にしたゲシュパットになにかを物凄い勢いでメモしていく。
ユキワリ・キョウヘイ「あれ、小鳥遊さん?」
タカナシ・アカリ「……雪割さん? こんな夜更けにどうされましたか?」
小鳥遊さんは冷めた目でこちらを見ていたかと思うと、手に持ったゲシュパットの電源を切ってこちらを見ていた。
タカナシ・アカリ「……9時38分、あまり出歩くにしては向いてないと思うわ。【超逸材のスケット】なら、わざわざ《ヨルジカン》という設定が追加されている真の理由も分かっていると思っていたわ。今、この時間に出歩くと言うのは、自分に疑いを持ってくれて構わないと言っているようなものよね?」
ユキワリ・キョウヘイ「それは……」
タカナシ・アカリ「ルールその2から感じられる、《ヨルジカン》の学園施設の使用禁止。
その4から考えられる、《ヨルジカン》は学園の施設を使うべきではないという意図。
……あえて、言うならばこの時間はコロシアイに向いている時間と言えますでしょう」
と、小鳥遊さんは勿体付けたような口調で告げていた。
タカナシ・アカリ「どんな事件も昼と夜のどちらが起きやすいかと言われれば、夜でしょう。暗い上に人通りも少ない、こんな夜中こそ事件……コロシアイが起きやすいでしょう。さらに施設を使わせない事で単純にコロすよりも、頭を使ったトリックを望んでいる。雪割さんはこの見解について、どう思いますか?
曲がりなりにも、元【超逸材の名探偵】という者と一緒に仕事をしてきた雪割さんの見解としては?」
ユキワリ・キョウヘイ「……まさしくその通りだと思います。もしコロシアイが起きるとしたら、ですけど」
夜の方が人目に付きにくい。
ましてや《ヨルジカン》に多くの学園施設が使えないのならば、さらに出歩く人も少ない……人目に付きにくいと言うのは確かなのでしょう。
タカナシ・アカリ「そこまで分かって置いて、なぜこんな時間に出歩くのか。私にはそれが分かりませんね」
ユキワリ・キョウヘイ「……相川さんに呼ばれたんですよ。コロシアイのことで、少し話があると」
そう言うと小鳥遊さんは考え込むと、「……そうですか、納得です。ではお休みなさいませ」と彼女は自室へと戻って行った。
ユキワリ・キョウヘイ「……なんだったんでしょう、まったく」
と、ぼくはゲームセンターコーナーのボーリング場を通り、相川さんのいるカウンセリングルームへと向かう。行く途中、遠くの食堂から「よしっ、次行くぞ! 桂馬!」「えぇ、矢倉囲いの強さを見せてあげましょう」という声が聞こえてくる。恐らくは御剣さんと戦場ヶ原さんの声だろう。
そんな事を考えながら、カウンセリングルームへと辿り着く。開けようとするも、鍵がかかっているようで開かない。
ユキワリ・キョウヘイ(……可笑しいなぁ、ぼくは雪割さんに呼ばれてここに来たんですよ。なのに、鍵をかけるって変だなぁ)
《ピンポン、パンポーン! 夜10時を迎えました。これからヨルジカンとなります。
オマエラ、今日も一日お疲れ様ダナ! ぐふふ……!》
そんな事を考えていると、そんな気の抜けたゲシュタルトの《ヨルジカン》を告げるチャイムが鳴り響く。
ユキワリ・キョウヘイ「もう、《ヨルジカン》か……しょうがない、上の小窓を覗くか」
前にこのカウンセリングルームを調べた時に、扉に付けられた小窓から中が覗ける事を知っているので、ぼくはその小窓を覗きこむ。