アイアムヒーロー、ユーアーヒーロー
これは、とある時間。
----1人の人間と、黒幕との闘いの記録
ボクは、死ななければならなかった。
それがボクが【超逸材の鑑定士】である白神山たけるとして果たすべき、最後の役割だったからだ。
タケル「まぁ、仕方ないよね」
ボクは自殺……いや、他殺にしか見えない自殺の準備を始めていた。
今日、この日、ボクはこの船の中で、1人静かに殺される。
いや、別に自殺志願者という訳でも、世界に絶望したわけでもない。
生きる気満々だし、そもそも自殺したとしても、ボクは"死なない"のだから。
ただ単に、このコロシアイ生活を盛り上げるため。
そのために、ボクは今から自殺する。
ボクは彼らには"白神山たける"という名前で名乗っていたが、本当の名前はそうではない。
ボクは、この地球から遥か彼方離れた星で生まれた宇宙人----我妻猛。
乃等野サロンという素晴らしい神作家様に、ボク達は導かれてこの星へとやって来た。
全ては、楽しい、死という娯楽を観賞するために。
ボクを始めとする宇宙人達は、退屈していた。
ただただ、永遠と言う時を生きるボク達にとって、退屈は常につきまとっていた。
そんな時だ、1台の壊れた衛星がボク達の星に落下したのは。
その衛星は、後の調べで地球が、異なる星との交流をするために作ったモノだと分かった。
ボク達にして見れば、なんでそんな面倒なことを、自分達の星すらまともに統治できない地球人が、宇宙に目を向けるだなんて、と思ったけど。
そんな無意味に打ち上げられ、無意味にやって来た衛星だけど、たった1つだけ。
そう、この星に来た"意味"があった。
----乃等野サロンの小説。
宇宙に向けて、多くの情報が発信されてる中で、たった1つだけ、ボク達の心を揺さぶるモノがあった。
乃等野サロンという、全ての人間----惑星を越えてですら響く、無類の芸術文学が。
タケル「(そう、全てはその小説から始まった)」
この惑星に来たのも、そしてこんなコロシアイ生活を行うのも。
その全てが、乃等野サロンが教えてくれた娯楽だ。
互いの命を賭けて行う、無意味なるコロシアイゲーム。
これ以上の楽しみはない。
その楽しみをもっと盛り上げるため、ボクは死を偽装するのだ。
----1人の少女をハメて、もっとこのコロシアイを楽しませるために。
センジョウガハラ・ケイマ「そこで、なにをしているんだ?」
と、そんな事を考えていると、背後から声がかけられる。
振り返ってみると、そこに居たのは----【超逸材の棋士】こと戦場ヶ原桂馬。
今回のコロシアイ生活で、用意しておいたメンバーのうちの1人だ。
彼はボクを怪訝な目で見つつ、ゆっくりと近づいてくる。
センジョウガハラ・ケイマ「なにをしている、と聞いているんだ。白神山殿」
タケル「(まずい、こんなところに居るだなんて)」
ボクは慌てて凶器を、ボク達を一瞬だけ仮死状態にする特殊な薬----ゲシュタルト式三殺セットと名付けておいた毒瓶を隠す。
タケル「なーに、ちょっとした夜の散歩的な? ヨルジカンにうろつくのは悪いと思ったけど、こういう時に【超逸材の鑑定士】としての眼を鍛えておかないと、いけないんですよ。
ほら、ピアニストが1日ピアノを弾くのを休むと、感覚が鈍る的な」
嘘、だった。
今からボクは、このコロシアイ生活を盛り上げるために、自殺する。
正確にはこの毒瓶を自分から飲み、小鳥遊灯里に罪を着せる。
既に準備は整っている。
遺書も、犯人として追い詰める証拠も、そしてアリバイ崩しも。
タケル「(小鳥遊灯里----まさか彼女が、【超逸材の怪盗】があんなにも真実にこだわるなんて。道理で、推理ものの登場人物なのに、殺人事件なんかに出ない訳ですよ。
あんなコロシアイに向かない、むしろボク達を探そうとしている者には死んでもらおう)」
それも、自分が殺したと、一切思えない状況で、証拠をたくさん用意して。
クロとして、小鳥遊灯里が追い詰められるような状況を。
そうして、後の事件で彼らは悟るのだ。
"自分達がクロとして挙げた小鳥遊灯里は、本当はクロじゃなかったのかもしれない"。
その時に見せる彼らの歪んだ顔が----
センジョウガハラ・ケイマ「そうか、ちなみに吾輩はこんなのを見つけた」
と、そんな事を考えている最中だった。
戦場ヶ原桂馬が、物資移動レーンに置いていたはずの小鳥遊灯里の私物を見せたのは。
タケル「それ、は……?!」
センジョウガハラ・ケイマ「物資移動レーンにて見つけたモノだ。ご丁寧に血まで付けてのぉ、まるでコイツが殺したという動かぬ証拠みたいにのぉ。
だから吾輩、誰かが死んだのかと思って、必死に探したんじゃよ」
----まさか、今から死のうと考えてるヤツが、ハメるために用意したモノとは知らずにのぉ。
戦場ヶ原桂馬はボクを、蔑んだ瞳で見つめる。
センジョウガハラ・ケイマ「死んで誰をハメるつもりじゃった、黒幕さん?」