チャプター6 なぜ私達のセカイを誰も覚えていないのか? (完)結編(4)
学園調査編、スタート!
こうして、私達は2つのチームに分かれる事となった。
1つは、ここで残ってゲシュタルトの死の真相を探るチーム。
ここには、雪割杏平、常盤木十香の2人。
ゲシュタルトの死体は気になるし、雪割さんは積極的にここに残ることを決意したのである。
常盤木さんは1人では、雪割さんの身が危ないからという理由で、護衛役といったところだろうか。
もう1つは、船が流れ着いた先である、本物の《幸福ヶ淵学園》を調査するチーム。
ここには、小鳥遊灯里、御剣緋色、久能環の3人。
意外だったのはこのチームに、内向的な性格である久能さんが名乗りを上げたことだろうか。
彼女には、何か考えがあるみたい……だけど。
なお、ちなみに橋渡さんは行方不明。
----今の所、一番怪しいのは彼女、ということになっている。
☆== School Investigation Team ==☆
私、小鳥遊灯里を始めとした3人は、私達を監禁していた船が辿り着いた地を調査することにした。
船が辿り着いた地、そう、つまりは"本物"の《幸福ヶ淵学園》である。
特徴的な五芒星が真ん中に描かれており、校舎のガラスが卒業生制作のステンドグラスになっている。
ミサイルや機関銃などの武器、美しく描かれた白鳥、そして電光掲示板……。
恐らくは、素晴らしく綺麗だっただろうその校舎は、長い間放置されていたのだろうか。
今は廃墟となっている"そこ"こそが、これから調査する《幸福ヶ淵学園》である。
元々、私達16人は、この校舎に、廃墟じゃないときのこの校舎に入学して、濃密な3年間を送るはずだった。
多くの生徒達と同じように、この学園で多くの仲間と出会い、多くの経験を経て、入学前よりも大きくなった姿で卒業する。
他の卒業生と同じように、卒業と同時に自分の才能と関わりがあるモノを学園に残して。
【超逸材のサッカー選手】なら、サッカーボールを。
【超逸材のマジシャン】なら、手品道具を。
【超逸材の軍人】なら、軍事衛星を。
タカナシ・アカリ「(私が卒業する時は、なにを残していたんだろう?)」
偽りの称号である【超逸材のネイリスト】にちなんで、マニュキュアとか?
あるいは、3年の時間の間に、【超逸材の怪盗】であることがバレて、覆面とか?
タカナシ・アカリ「覆面はやりすぎ、ですかね」
ミツルギ・ヒイロ「……ん? 覆面がどうかしたのか、灯里?」
タカナシ・アカリ「いえ、別に」
私は、一緒にこの学園の調査に同行してくれている【超逸材のヒーロー】、御剣緋色にそう返す。
そう、別にどうでも良い事だから。
ミツルギ・ヒイロ「そうか……にしても、歴代の卒業生が残したのを見るのは、圧巻だな。これを見て、俺もこの学園を卒業する際は是非とも寄贈したいと思ったくらいだ」
トントンと、自分の胸のあたりを叩く仕草をする御剣。
ミツルギ・ヒイロ「----そう、魂ってヤツをな」
カスガ・ハルヒAI『心臓でも寄贈するつもりですか、このヒーローヤロウは』
御剣の言葉に、久能環のパソコン内に住まう、AI版の春日春日が苦言を呈する。
パソコンに表示されている春日春日は、『英雄バカ』と書かれた謎の扇子を仰ぎながら、御剣緋色を煽っていた。
カスガ・ハルヒAI『もうそんな事を言うなら、適当に土塊をこねくり回して、"これが俺の魂だぁ!"とか言って、提出すれば良いんじゃないですかねぇ? 小学生の夏休みの宿題みたいに』
パソコン内に表示された、多くの学習によって生まれた本物そっくりの春日春日が悪態を吐いて、その言葉を聞いた御剣は「ハハ……」と笑い始める。
ミツルギ・ヒイロ「そうか、そうか! こーいう時、春日だったらそう言う言葉で、慰めてくれるのか!」
カスガ・ハルヒAI『はぁ? ポジティブすぎて、頭が変になっちゃいましたか? このアホは』
ミツルギ・ヒイロ「ははは! こいつめー!」
ガシッと、御剣は春日を、正確には彼女が入ったパソコンごと掴むと、そのまま廃校舎の中へと進んで行く。
クノ・タマキ「あノ……普通に、ぱそコンを取られたんデスがぁ……」
うるうると、涙目になっている久能環がそこにいた。
タカナシ・アカリ「災難……でしたね」
こーいう時、雪割さんならば、もっとちゃんとした慰め方をしてくれるんだろう。
私には、到底できないが。
クノ・タマキ「いエ、まだスペあがありますデスが」
段ボール被りの彼女はそう言いながら、段ボールの中から新しいパソコンを取り出していた。
タカナシ・アカリ「あるんですか……」
なんですか、私が必死に罵倒と共に考えていた、彼女への慰めの言葉は披露する機会を失った、と言う事で良いんでしょうか?
クノ・タマキ「スペあは、当然。何事も、準備はツユだくに、デスっ!」
タカナシ・アカリ「それを言うなら、潤沢に、ではないんでしょうか?」
……まぁ、今はそんな事はどうでも良いでしょう。
タカナシ・アカリ「それよりも、あなたに調査をお願いします。これはあなたの----」
クノ・タマキ「"身の安全"、でしょうデス? 分かってるデスよ」
----ふむ、どうやらその辺りは分かっているみたいですね。
あの被害者捜査ではなく、こちらに呼んだ意味を、ある程度は分かっているみたいですね。
クノ・タマキ「一番怪シイ場所、情報が集マル場所にハッキングしてるデス」
タカナシ・アカリ「お願いします、久能さん。あなたにしか出来ない事なんですから」
そう、この廃校舎には何かしらの手掛かりがある。
そしてその手掛かりの中には、彼女のハッキング技術を使わないと入手できそうにない、ネット情報があるはずだ。
そのために、わざわざこちらに来てもらったんだから。
クノ・タマキ「あるにはアルみたいデス。けれど、現地に行かナイト、ダウンロードできない特殊なせきゅリティーがあるみたいデス」
なるほど、その場所に行くべき、ですか。
それならば----
タカナシ・アカリ「2人で行きますか」
情報を、私達に"なに"があったかを確かめるために。
〇スペアパソコン
……"何事も準備は大切ですよ" By久能環