チャプター5 ようこそ恋愛至上主義の教室へ 非日常編(2)
=Miturugi Hero Side=
"世の中、何が起こるかわからない"と言うのは皆が皆、知っている事とは思うのだが----それでも今回の事は、俺にとっては、大きな出来事であったのは事実だ。
なにせ、殺人事件のはずなのに、その被害者と一緒に、事件捜査をするだなんて、これが異常事態でなくて何だというのだ。
ハシワタリ・レンカ「んぅ~♡ なんか、ひーくんからの熱ぅい視線を感じる気がするなぁ~☆」
ミツルギ・ヒイロ「気のせいだから、気にしなくて良いぞ。うん」
今、俺は船の操舵室に向かっていた。行く目的は、ゲシュタルトファイルに書かれていた船のコンピュータのハッキングの形跡、とやらの確認のためだ。
だから操舵室に行くというよりかは、そこにあるコンピュータの改ざんがどういうモノだったかを探りに行く、というのが正しいだろう。
多分、俺のようなコンピュータの素人が見たところで、誰がその改ざんを行ったかと言う事は分からないだろうが、それでもどのような事が行われたのかと言うのを知ることくらいは出来るだろう。
ちなみに俺と一緒に操舵室に向かっているのは、俺と恋歌、それに歩の3人である。
本当だったら、環がいれば完璧な布陣だったのだが、あいつは何故か、最近は俺と行動したがらないんだよな。十香とは結構一緒にいるところを見ると、人嫌いが極まった、とかではないんだろうが。
少し気になる所ではあるが、俺としては、環が一人で孤立していなければ良し、という考え方でいようと思っている。
ヤマト・アユム「そう言えば、なんだけど橋渡さん?」
ハシワタリ・レンカ「えーっと、アユちゃん。なにか用?」
ヤマト・アユム「こういう状況ってあるかどうか分からないから聞いておきたかったんだけど----橋渡さん的に見て、あの死体になにか変な部分はなかったの?」
まぁ、普通に聞くことなんて、あり得ないだろうな。
"殺された当人に、なにか死体で違和感を感じたか?"だなんて。
ハシワタリ・レンカ「うーん、2つほど聞きたいことはありましたけれども、"大きかった"かな?」
"大きかった"と、恋歌はそう言いながら、自分の大きい胸を‐‐‐って!
ミツルギ・ヒイロ「なっ! なっ! なにをしてるんだ、恋歌! いきなり乳なんか揉みやがって!」
ハシワタリ・レンカ「おっ、ひーくんはおっぱいを乳とか言っちゃう派ですか~。なるほどぉ、古風ですね~」
ヤマト・アユム「えっと、古風とか、そういう話じゃない、と思うよ?」
そう! そういう話ではない!
年頃の乙女たるもの、そういうのはもっと、こう、ちゃんとした恋人関係になってからだな、うん。
ハシワタリ・レンカ「まっ、いつ捜査が打ち切りになるか分からないから手短に言うと、私のよりも、死体の方が大きかったんだよね。多分だけど、あのサイズになろうと思うと、2年くらいかかるかなぁ?」
ミツルギ・ヒイロ「だからっ! そういう下賤な話はだなっ!」
ハシワタリ・レンカ「むっ、下賤じゃないよ。【超逸材の恋人】としては、そういう体調管理とかもしっかりしないとね。こう見えても私、生涯計画で、自分の身体データをつけてるんだ。
高校卒業の時にこれくらい、20代でこのくらいって。そういうのを維持するのもまた、【超逸材の恋人】としては大事な事だと思うけどね」
それはもう、スポーツ選手とかだろう!
「この年になっても元気にスポーツをするために、10年後に筋量を10%上げておこう」とかいう形の!
なんで、そういう身体的発育を図るみたいな形になるんだ、全く!
ヤマト・アユム「ふむ、つまりあの死体は、単純に橋渡さんの身体をコピーしたとかではなくて、それから身体成長もしてるって事?」
ハシワタリ・レンカ「そうだね、アユちゃん! どちらかと言えば、"2年後の未来から来た橋渡恋歌"とか、"別世界から迷い込んだ橋渡恋歌"とかだね♡ 少なくとも、"私が分裂したぁ~♪"、とかではないと思うよ☆ 色々と、違うところもあったし☆」
歩はそれだけ聞くと、「未来から来た橋渡さんが殺された? それとも別世界の橋渡さんが?」などと言っているが、俺からしてみれば、そんなのはどうでも良かった。
"俺達の誰かが、橋渡恋歌を殺した"。それさえ分かっていれば、後はそいつに罪を認めさせる。
それが、俺が考えるべきことだ。
☆
‐‐‐‐とまぁ、そんな事を俺達3人は話し合いながら、操舵室に辿り着いた。
操舵室は電子ロックがかかっていたようだが、捜査中ということで解除されていた。
ミツルギ・ヒイロ「(すると、本来は電子ロックがかかっていた。この事件を起こしたであろう犯人は、この電子ロックを解く術を持っている人物、と言う事か?)」
そんな事を考えて入ると、机の横に【合言葉は、スキンシップ】と書かれたメモが貼られていることを確認する。
じとぉーっと、恋歌の方に視線を移すと、彼女は舌を出して、それほど悪いとは思ってないような、そういう謝罪の仕方を見せる。
どうも、この電子ロックは、特別なスキルがなくても、この合言葉さえ知っておけば、誰でもはいれる状況だったみたいである。
ヤマト・アユム「あっ! これ……かな?」
ミツルギ・ヒイロ「あったか! 改ざんの証拠とやらが!」
歩の声を聞き、すぐさま俺もパソコンの前に近付く。
パソコンには、航路がどのように変更されたかが書かれている。
どうやら最初の規定コースだと、とある一点を中心として、ゆっくりと円を描くように周回するコースだったみたいである。
それが、改ざんされた後だと、夜の時点で岩礁地帯にぶつかるコースに変更になっている。
ハシワタリ・レンカ「知ってるかしら? あの部屋って、とーってもデリケート、なんですよ?」
ミツルギ・ヒイロ「デリケートって、あのプールが? どう、デリケートなんだ?」
俺が聞くと、恋歌は「あの部屋はどうしても事故が起きやすいの」と答える。
ハシワタリ・レンカ「あの部屋は船の構造上、どうしても配線が多くならざるを得なくて☆
それだから、もし仮にこの岩礁地帯コースにぶつかるルートだと、短時間だろうと火災が発生したはずだよ☆」
なるほど、犯人がなんであのプールで橋渡アルファーを殺したかは分からなかったが、このルートの改ざんを見る限り、犯人は火災を起こしたかった。そう考えるべきだろう。
アルファーの身体には、火傷の跡もあったし、犯人が火災を起こしたかったのは確かだろう。
だが、なんで火災を?
ハシワタリ・レンカ「そう言えばぁ、もう1つ☆ 改ざんの形跡があるって、ファイルには載っていたけど♪
それについては、なにか分かったかしら♡」
ヤマト・アユム「えーっと……多分、これ、だと思うよ」
たどたどしい手つきではあったが、歩がパソコンを動かすと、【ロック解除】と書かれたコードを発見する。
どうやら、なにかまでは分からないが、鍵のついたなにかのロックを解除するモノ、みたいだ。
ミツルギ・ヒイロ「ちなみにだが、恋歌。これがなにを解除するモノかは分かるのか?」
ハシワタリ・レンカ「うーん……☆ そうだね、恐らくだけど皆の部屋の扉の鍵ではないよ♪
あれに関しては、私がロック画面を作ったし、少なくともこれとは違うし」
とすると、恋歌でもこれがなんのロックを解除するのかは分からずじまい、と言う事か。
ミツルギ・ヒイロ「(情報が少ないな、犯人の手掛かりの一つや二つ、すぐに見つかるかと思ってたんだが)」
溜め息を吐きながら、俺はなにか他に手掛かりはないモノかと探して----
‐‐‐‐"それ"を見つけてしまった。
ミツルギ・ヒイロ「なんで……これが……?」
いや、そうじゃない。正しくは、なんでこの証拠を、俺が見つけてしまったのか。
そういう事だろう。
これもまた、運命と言う奴に違いない。
ミツルギ・ヒイロ「つまり、なにか? 今回の事件の犯人は、お前も関わっていると言う事か?」
俺はこの部屋で見つけた、"郵便マークの入った帽子"を、どうしたものかと思って苦笑した。
・橋渡恋歌の見解
…"愛のプール"で殺されていた橋渡アルファーとは、身体的な差異があると判断。"2年後から来た"とも、"別次元から来た"とか、荒唐無稽な考えが出てきた。
・操舵室の電子ロック
…操舵室の電子ロックの暗証番号は【4942】。部屋の中に暗証番号のメモが貼っており、知っていれば誰でもロックが解ける。
・パソコンの航路の改ざん
…本来は一点を中心に周回するルートだったが、夜に座礁地帯にぶつかるルートに変えられている
・夜の火災
…"愛のプール"の性質上、夜に座礁地帯にぶつかった時に火災が発生したと考えられる
・ロック解除の改ざん
…どこかのロックを解除した時に使われたもの。ちなみに宿泊部屋のロックではないらしい
・郵便マークの入った帽子
…操舵室、改ざんされたパソコン近くで発見。とある人物を思い浮かべる帽子




