チャプター1 監禁船の四月は君の虜 (非)日常編一日目②
超逸材船コウフクガブチという名前の出られない船にて監禁されてしまったぼく達16人の私立幸福ヶ淵学園の生徒。
そして、そんなぼく達16人をここへと閉じ込めた猫面の女、ゲシュタルトはここでのルールを告げた。
ゲシュタルト《この船からはどうやっても逃げ出す事は不可能ぉ! 何故ならばこの船の周りには海しかなく、周りに人間が住む大陸はないからだぁ! オマエラがここから出る方法はたった1つ。
――――他の者を殺すことだぁよ?》
ゲシュタルトのその言葉に、ぼく達の間に緊張が走る。
"他の者を殺す"、その言葉を聞いた時にお互いにお互いの顔を見てしまったからである。
――――ぼくも見てしまった。誰かを犠牲にすれば、この船から逃げ出せるって事に、ぼく達は反応してしまったのだ。
ゲシュタルト《ただ殺せば良いって物じゃない。ルールに則り、きちんと捜査して、その上で見破れなかった場合のみ、実行犯であるクロのみがこの船から出る事を許そう。それ以外の方法では決して出られない牢獄に近いこの場所で、君達がどんな面白い殺人劇を繰り広げるのか!
ぐふふぅ! 今から楽しみだよぉ! それじゃあ、後はオマエラで考えたまぇ~》
《ばぁ~い!》と、ゲシュタルトはそう言って姿を消す。同時に彼女の隣で控えていた強力な2体の兵器も沈黙していた。
ゲシュタルトが消えて、ぼく達の間で大きく沈黙が起こる。無理もない、"誰かを殺せば出られる"という動機を与えられたのだから。それもぼく達は見ず知らずの他人、信用する方が難しいだろう。
緊張感がぼく達の間を覆う中、最初に言葉を開いたのは【超逸材のヒーロー】である御剣緋色さんだった。
ミツルギ・ヒイロ「ちくしょう! 考えてもらちが明かねぇ! 人を殺すことがここから出る方法だと!? ふざけんじゃねぇ、どんな理由があろうと人を殺すことが許されるはずがない!」
センジョウガハラ・ケイマ「ふむっ、御剣殿の意見には吾輩も賛同しよう。人を殺すことを考えるより、ここから出る方法を皆で模索すべきだろう。詰みだと思いきや、意外な活路が開かれることは日常生活でも、将棋でも良くある事だ」
御剣緋色さん、それに戦場ヶ原桂馬さんがそう言うと、他の皆も思った事をぶちまけ始めた。ゲシュタルトによって言われた《人を殺す》という言葉は、皆の心に思いのほか傷跡を残していたようである。
アイカワ・ユウキ「そうだね、この場所から逃げ出すためには状況把握は大切だ。だよね、雪割杏平くん?」
ユキワリ・キョウヘイ「そ、そうですね。この船を隅々まで探せば、それに16人の超逸材の才能を用いれば、なんとかなるかもしれないし……」
クノ・タマキ「……ただのプログラマー程度が、役立つとは思えないデスが」
カスガ・ハルヒ「配達員も、そこのダンボール女程度に残念ながら賛同しときます。配達員ごときにはこの状況は解決できないかと」
クランカ・リボン「ま、まぁ……もしもイラストレーターの力が必要になったら良いんですけどね。今は……特には思いつかないかもですね」
自分の才能がどう役立つのか分からないと、3人がそう言う。3人以外にも他にも自分の才能の活かし方が分からない人達が居るみたいで、3人みたいに声を出す訳ではないが、自分は要らないんじゃないかと心配していた。
なにをしたら良いか分からない。
具体的にどうすれば良いか分からないこの状況に対して、相川さんは提案を申し出ていた。
アイカワ・ユウキ「……うーん、まぁどうすれば良いか分からない。そう言う気持ちは分かるよ。
とりあえずこうしないかい? ――――わたし達でこの船から情報を得るんだよ」
ヤマト・アユム「……情報を?」
アイカワ・ユウキ「そう。逃げ出すためにも、殺されないためにも……それからコロシアイが行われた場合のためにも、情報はあった方が良いに決まっています。
どういう情報か知る、全てはまずそれから始まると思うんだ」
ヘイワジマ・ノゾミ「オー。ユウキの言うことモットモネー。占いも、情報収集ダイジネー」
ショコラティッシュ「ショコラはバカだから……皆のいう事に従うよ」
シラカミヤマ・タケル「あぅ~、ボクも賛成するよ。もしかしたら、あのゲシュタルトが見落とした脱出口があるかも知れないし……あ、あぅ! ボクなんかが意見してごめんなさぁい!」
皆の意見をある程度確認した相川さんは、こくりと頷くと皆の前に立つ。
アイカワ・ユウキ「では、こうしましょう。わたし達は16人も居るんだ。ならば班を2つに分けましょう。
1つ目の班は探索班。この船にどんな部屋があり、どんな設備があるのか。白神山たけるさんの言う通り、なにかゲシュタルト――――犯人側の見落としがあるかもしれませんしね。
もう1つの班は食事班。腹が減っていては、考えも上手くまとまりません。皆のために食事を用意する人が必要でしょうし」
ハシワタリ・レンカ「えっ!? どっちかしか出来ないの!? 恋人のためならなんでもしたいのに、どっちかしか選ばれないなんて……なんという苦渋の選択ですかぁ♡」
ナカヨシダ・サユリ「もうっ! なんで恋歌ちゃんはそんな事を言っちゃうかな! でもまぁ、わたくし様も祐樹ちゃんの意見には賛成だよ」
中吉田さん以外にも表立って相川さんの提案に反対する者はなく、とりあえずぼく達は探索班と食事班の2つに分かれた。
食事班には久能さん、倉中さん、ショコラティッシュさん、白神山さん、鈴木さん、戦場ヶ原さん、常盤木さん、中吉田さん、平和島さんの9人。
探索班にはぼく、相川さん、春日さん、小鳥遊さん、橋渡さん、御剣さん、大和さんの7人。
そのように分かれ、ぼくは探索班の一員として探索へと向かった。
――――まずこの監禁船でまだ探ってはいない、あの場所から。
仕切り役はどんな場面においても重要です。
どんな場面でも、監禁されて出られないような場面でも、リーダーは出て仕切りたがると思うのです。