チャプター5 ようこそ恋愛至上主義の教室へ (非)日常編一日目(2)
タカナシ・アカリ「……あなたも起きた、ようね。雪割さん」
ぼくが目を開けて視線を向けている事に気付いたのだろうか。
眠りから目を覚ましたばかりで、ウトウトしているぼくに対して、小鳥遊さんがそんな言葉と共にぼくに話しかける。
ユキワリ・キョウヘイ「ぼくは……」
自分の状況がどういう状況なのか、ぼくは虚ろな頭の中で考えを巡らせる。
ユキワリ・キョウヘイ「(そうだ、確かぼくは……橋渡さんに薬を盛られて……)」
そうだ、なにか思い出してきたぞ。大事ななにかを‐‐‐‐。
ユキワリ・キョウヘイ「‐‐‐‐そうだ、"恋愛"だ!」
そう、思い出した。あの【超逸材の恋人】である橋渡恋歌が、ぼく達を閉じ込めているゲシュタルトまで捕まえて、変な事を提案したんだ。
確かそう‐‐‐‐「ぼく達に求めているのは、恋愛」だとかなんだとか。
タカナシ・アカリ「やっと思い出したようですね、雪割さん。私達が橋渡さんに監禁された、って」
ユキワリ・キョウヘイ「あ、あぁ。確か橋渡さんがゲシュタルトの代わりに、ぼく達を監禁した。それで合ってる、よね?」
ぼくがそう聞き返すと、小鳥遊さんは頷いていた。
タカナシ・アカリ「馬鹿っぽい事だとは思いましたが……雪割さんが寝ている間にくれた説明で、彼女の目的が分かりました」
ユキワリ・キョウヘイ「目的……?」
タカナシ・アカリ「えぇ、彼女の目的は2つ。『私達の安全』、そして『ゲシュタルトの無力化』。その2つ、のようなのよ」
ぼく達の安全、そしてゲシュタルトの無力化……?
橋渡さんは、それをどうやって達成しようとしてるんだ?
ぼくが尋ねると、小鳥遊さんは「恋愛です」などという素っ頓狂な答えを繰り出した。
タカナシ・アカリ「橋渡さんに捕まった時、私達が何人居たのかを覚えてますか?」
ユキワリ・キョウヘイ「えっと、確かぼくを含めて8人、だったかな。勿論、死神と監禁者を含めて、だけれども」
ぼくと小鳥遊さん以外だと、久野さん、常盤木さん、御剣さん、大和さん。そして、ゲシュタルト。
ゲシュタルトを含めてこの7人が、橋渡さんが監禁したぼくと同じ仲間達である。
タカナシ・アカリ「えぇ、その通り。そして気付いているかも知れないけど、ゲシュタルトと橋渡さんを除くと、私達は男女6人3組に分けられるって」
ユキワリ・キョウヘイ「ほんとぅ?! えっと、まずはぼくと小鳥遊さんで1組。後の2組はと言うと‐‐‐‐」
残っている人を思い浮かべようとすると、小鳥遊さんは早々と答えを披露する。
タカナシ・アカリ「久野さんと御剣さん、常盤木さんと大和さん……そして私と雪割さん、この3組が同室に叩き込まれたみたい。さっき、放送が流れたのよ。私達にやって貰いたいこと、彼女が望んでいる事について。
寝ていたあなたは知らないでしょうが、この部屋は私に割り振られた部屋らしいですよ?」
ユキワリ・キョウヘイ「そう、なんですか」
タカナシ・アカリ「ちなみに彼女が付けた部屋の名前は【コスプレ】。ご丁寧な事に‐‐‐‐」
と、小鳥遊さんは立ち上がると、クローゼットの扉を開ける。
その中には色とりどりな服装が用意されており、【女教師プレイ用制服】、【メイドプレイ用服】、【赤ちゃんプレイ用幼児服】など、それはもう色々な服装が。
まさしく、色々な"コス"チューム・"プレ"イが楽しめるようにと、そういうコスチュームが沢山、用意されていた。
タカナシ・アカリ「----どうやら彼女は、私達に着替えて、犯しあえ、だなんて言いたいみたいですよ」
その服装達に、ぼくはちょっとばかり忌避感を覚えてしまっていた。それは小鳥遊さんも同様なようである。
タカナシ・アカリ「ちなみにゲシュタルトを含めた私達に、それぞれ部屋が与えられているようです。勿論、死んでしまった人達を含めて。
そして橋渡さんが勝手に、部屋割と部屋の名前を決めていたようです」
ユキワリ・キョウヘイ「ちなみに、なんだけど。僕の部屋の名前って、聞いてたりする?」
ぼくがそう言うと、小鳥遊さんは1枚の地図を取り出していた。
ユキワリ・キョウヘイ「これが今回の地図、か」
分かり辛いが2段になっているらしく、部屋の名前の下に人物の名前が書かれている。
書かれているのだが……部屋の名前がそれぞれ酷いなぁ。まぁ、付けたのが、"あの"橋渡さんだから仕方ないのかも、しれないけれども。
ユキワリ・キョウヘイ「地図、見せてくれてありがとうございます。それでなんだけど、ゲシュタルトを閉じ込めたってどうやって----」
ぼくがそう聞いたのだが、小鳥遊さんの反応は薄い。
ユキワリ・キョウヘイ「小鳥遊……さん?」
タカナシ・アカリ「そんなのはどうでも良いですよ、もうどうでも」
すごく投げやりに、彼女はそう言う。
タカナシ・アカリ「何故なら私達は、超逸材の才能を持った、選ばれた人間ではありません。
ただの、1人の本物の超一流の才能を持つ、【超逸材の覆面美少女作家】という人間が書いたキャラを模倣しているだけの、ただの人間……。いえ、演者なのですから」
タカナシ・アカリ「もう、どうでも良いんですよ。本当に。
私達は、ただある作家に出ているキャラを模倣しているだけ。そう、ただそれだけなのだから」