チャプター4 五等分の花骸 (非)日常編三日目(1)
-Miturugi Hero Side-
ミツルギ・ヒイロ「なんでだっ……シーサァ」
俺は、あの光景が信じられなかった。
俺達をここに閉じ込めたゲシュタルト、それと親し気に話をしていたシーサー……。
ミツルギ・ヒイロ「見間違い? いや、違うな。アレは確実にシーサーだった」
もし仮に般若面を被っているだけだったら、誰かがなりすましているという可能性もあった。けれども俺が見たのはシーサーの素顔。
ゲシュタルトと話していたのは、確実に面を取って、俺の瞳に彼の素顔が映り込んでいた。
あれは絶対、鈴木シーサーで間違いない。気に入らないのは、あいつが密告者である事だ。その事実だけだ。
ミツルギ・ヒイロ「とにかくっ! シーサーに事情を聴かねばならないなっ!」
俺はそう言って、部屋を飛び出した。
本館を通り抜け、西館の食堂へと辿り着くと、他のメンバーが既に食事を始めていた。けれども俺が会いたかった、鈴木シーサーの姿はなかった。
ミツルギ・ヒイロ「くそぉ! どこ行きやがったんだ、シーサー!」
トキワギ・トオカ「落ち着いて、ヒイロッチ! 焦っても状況は解決しないよっ!」
ユキワリ・キョウヘイ「そうだよ、手分けして探そう」
俺は他の皆と、情報を共有していた。
シーサーが、昨日ゲシュタルトと密会していた事を。
皆、信じられないといった様子だが、俺が一番信じられなかったのだ。
カスガ・ハルヒ「ゲシュタルトが言っていた、【知られたくない秘密】……それは、あの漁師野郎に関する事だと?」
トキワギ・トオカ「可能性としては……恐らく」
ヤマト・アユム「高い、と思うよ」
全員が全員、俺と同じように思っているようだ。
俺だって、根拠もないのにそんな事を話したくなかった。けど、そのせいで他の皆が襲われるだなんて事態は避けたかったのだ。
理想論かも知れないが、たった1人の犠牲で済むのならば……その方が良いだろう。とても不本意な話、なのかもしれないが。
クノ・タマキ「あレ……? そう言えば、【恋人】さんのスガタはどコデス?」
ユキワリ・キョウヘイ「まさか、前みたいになにかを起こそうとしているとか……」
杏兵のいう通り、可能性は高い。
恋歌は前のコロシアイでも、度々犯人の手伝いという問題を犯してきた。なにかを企んでいると思われていても、仕方がない。
ミツルギ・ヒイロ「よし、それじゃあみんなで手分けしてシーサー。それに恋歌の2人を探そうじゃないか?」
俺がそう言って、皆と共に食堂を出ようとしたその瞬間だった。
ゲシュタルト「ぐふふぅ! なんだか皆、騒がしいねぇ!」
ミツルギ・ヒイロ「ゲシュタルト……!」
西館と本館を繋ぐ渡り廊下の扉から、そいつは現れた。
黒い死神を思わせるローブを着た狼面の化け物……【超逸材の死神】なんてふざけた名前を名乗っている、ゲシュタルトの登場である。
クノ・タマキ「あれ……? ゲシュタルト、って」
ヤマト・アユム「今はそれより……さっき、御剣さんが言っていた、鈴木くんと密会していたって、本当なのか! ゲシュタルト!」
……! そうか、分かったぜ、歩!
確かに俺の発言だけでなく、ゲシュタルト本人からの発言も重要だしな。
ミツルギ・ヒイロ「(もしかしたら、あの時、シーサーは無理やりゲシュタルトに呼び出されていたという可能性もあるしな。そう思えば、シーサーはただえん罪だったと分かるしな)」
ナイスだぜ、歩!
俺がそう思っていたが……現実はそう、甘くはなかった。
ゲシュタルト「そうだよぉ、御剣緋色! ではでは、ここでネタ晴らしさせていただきましょう!
今回、皆様に提示した【たった1人が抱えている秘密】! それは‐‐‐‐鈴木シーサー君が抱えている秘密、なんだよぉ!」
ゲシュタルトは、肯定した。
今回、俺達に提示したとされている【たった1人が抱えている秘密】。その、重荷を背負わせている相手‐‐‐‐それがシーサーだと。
ミツルギ・ヒイロ「(シーサー……そんなに悩みを抱えているのか。それならば、俺に相談してくれたら良かったのに!)」
くそぉ、なんとなく嫌な気分だ。
ゲシュタルト「ぐふふ! それを知って、君達はどうなるのかなぁ? 楽しみだよぉ! ぐふ、ぐふふふふふ!」
トキワギ・トオカ「うるさいよぉ!」
と、いつの間にかゲシュタルトの近くに移動していた十香。
トキワギ・トオカ「ゲシュタルト! 今日こそ許さないよぉ! 今、捕まえてあげるんだから!」
ゲシュタルト「ぐふふぅ! 捕まえられる、かなぁ? 君に?」
ゲシュタルトはそう言って、外へと、雪が降り積もる外へと飛び出していた。
十香も、それを追って外へと出て行った。
カスガ・ハルヒ「仕方がありません……追いかけましょうか」
ミツルギ・ヒイロ「待てっ! 俺も行くっ!」
春日が十香の後を追うように飛び出して、俺も彼女と共に後を追っていた。
渡り廊下の窓は壊されており、どうやら2人はここから外へ出たみたいである。
ゲシュタルトの姿は見えないが、その後を追っている十香の姿は見える。
カスガ・ハルヒ「追いましょう、胸糞悪いですが」
ミツルギ・ヒイロ「あぁ……このまま行くと、確か倉庫がある方角、だよな」
雪が降り積もる中、俺と春日は遠くに見える十香の姿を追う。
雪で足が取られそうになり、思うように進めなかったため、普通だったら10分くらいで行けるだろう地図の倉庫も、俺達は20、いや30分くらいかけて、ようやくたどり着いていた。
倉庫の前。
そこには苦虫を噛み潰したような表情で、十香が立っていた。どうも、ゲシュタルトには逃げられてしまったらしい。
トキワギ・トオカ「…………。」
ミツルギ・ヒイロ「十香、お前は良くやったよ。戻る前に、この倉庫の中でも調べようじゃないか」
トキワギ・トオカ「……うん」
ミツルギ・ヒイロ「春日、お前も帰らずに付き合えよな」
思いっきし舌打ちされたが、春日も帰らずに付き合ってくれた。
倉庫の中に入ると、それだけで外の寒さを忘れるくらいに温かった。どうやらこんな外でも暖房はちゃんとついているみたいだ。
中はそれほど広くはない。元の大きさは1つの部屋にしたら小さくはないが、部屋の中を占領している棚などのせいで、余計に小さく見えていた。浮き輪やひな壇など、ほとんどが本館で使われなかった時期外れなモノばかりが並んでおり、特に気になるようなものはない。
トキワギ・トオカ「ハルヒッチ、それにヒイロッチ! 2人とも来て!」
カスガ・ハルヒ「どうかしましたか、うるさいですね」
ミツルギ・ヒイロ「なにか、あったのか?」
十香に見せられたのは‐‐‐‐鍵の束。正確に言うと、本館2階の客室の鍵が収められている棚だった。
棚には左から【☆ 2 × 4 ☆】というマークが並んでおり、最初の星、それから真ん中のバツマークのカギがなかった。
トキワギ・トオカ「この順番からすると……1番左と右の星マークが『1』と『5』、それから真ん中のバツマークが『3』の部屋のカギという所かなぁ?」
ミツルギ・ヒイロ「とすると、『1』と『3』の部屋のカギがない訳か」
カスガ・ハルヒ「『1』の部屋は……確か、最初から鍵がかかっていて、サッカー女と怪盗風情が秘密の部屋だと思っていた所、でしたっけ? シーサーが秘密の部屋に行かせないために取っていったとしても、何故『3』の部屋まで……」
十香は「サッカー女はないよぉ、ハルヒッチ~」と言っているが、春日のいう事はもっともだ。
何故、『3』の部屋までカギを取っていったのだ? 昨日、春日と灯里の2人は『3』の部屋で話していたと言っていたし、カギはまだかけてないようだが。
ミツルギ・ヒイロ「(それに、なんで『1』と『5』の部屋のマークが同じで、真ん中にバツマークがかかっているんだ?)」
妙な違和感を残しつつ、俺達3人は皆と合流するために本館に急いで戻ることにしたのだった。
-おまけ-
オレの名前は、大和歩。【超逸材の冒険者】……だと思う。
なんとなく、自信を無くしそうになるけど、多分そのはずだ。
オレは常に冒険を求めている。今日もまた、ある冒険をしようとしていた。
冒険の名は、橋渡恋歌の調査。昨日、灯里は『2』の部屋で、恋歌がなにか話をしているのを聞いたという。それに、ゲシュタルトから話を聞かずに、消えた彼女。
……明らかに怪しい。ゲシュタルトがシーサーに犯行をさせようとしているとしても、彼女もまたなにかを企んでいるのは確かだ。
ヤマト・アユム「絶対、突き止めてやるっ!」
ゲシュタルトを追って3人が出て行った中、オレは2階へと向かう。
昨日と同じく、『2』の部屋から、なんか嫌な声が出ている。
ハシワタリ・レンカ【あぁ♡ 良いわぁ、その調子よぉ♪】
‐‐‐‐なんだ、なにをしてるんだ。
オレは一瞬躊躇するも、【超逸材の冒険家】ならこんな事で躊躇する事はない。オレはそう思い、扉を勢いよく開けた。
ヤマト・アユム「おいっ、橋渡恋歌! お前はいったい、なにをしようとっ!」
ハシワタリ・レンカ「そうっ! その調子よぉ、"歩"ぅ!」
ミタクナイ・モノ【さぁ、冒険の始まりよぉ♡ そぉう、女体という神秘の冒険にねっ☆】
ハシワタリ・レンカ「良いわぁ♪ やーっぱり、歩は最高よぉ☆」
アユムト・ヨバレシモノ【うふふぅ♡ 大和の身体は日本一ぃ♪ そう、大和だけに日本を代表する身体よねぇ♡】
ハシワタリ・レンカ「良いっ♪ すごく、ヌけるぅ♡」
ヤマト・アユム「…………。」
オレはそっと扉を閉じた。
橋渡恋歌はこちらに気付いてなかった。テレビに映る、オレそっくりの胸が大きい美女との情事に忙しいようだ。その画面の上の方に、【超逸材の冒険家 大和歩との日本一♡女体探検♪】と書かれていた文字は無視した。
名前や肩書もそうだが、顔が少し似てた……。あと、なんかすっごい胸が大きかったなぁ、うん。