プロローグ 【楽しい楽しい、沈没以前出航以下の修学旅行】8
センジョウガハラ・ケイマ「ふむっ……君達か」
トキワギ・トオカ「やっほー、キョウヘイッチ! 元気してたか~い?」
と、奥から現れたのは和服が似合う【超逸材の棋士】こと戦場ヶ原桂馬と、元気溌剌なポニーテール少女の【超逸材のサッカー選手】の常盤木十香の2人だった。
センジョウガハラ・ケイマ「あのカウンセラーの相川殿の盤面を見据えた策は見事に的中した。どうも我らは将棋の駒のように1人1人動ける範囲、いや性格と呼ばれるものが変わっているみたいだからな」
トキワギ・トオカ「まぁ、ケイマッチも大分変わってるけどね~!」
センジョウガハラ・ケイマ「なっ! わ、わが、吾輩はそこまで性格面に問題はない! むしろ完璧なはず……」
がっくりと、その場に崩れ落ちる戦場ヶ原さん。常盤木さんは「あはは~!」と笑っていた。
ヘッドフォン・スーツ「あ、あのあの! ちょ、ちょっとよろしいでしょうか!」
と、そんな事を考えていると2人の女性……いや、正確に言えばリボンの女性と、その女性の後ろに隠れるようにして現れたヘッドフォンの女性。
リボン・ジャケット「……どうやらあなた達がこの船の学園での、最後の人物みたいですね。勿論、戦場ヶ原さんが言うように、【この学園の生徒16人】というあの紙に書かれている事がこの学園の生徒の全員だとしたら、ですけれどもね」
そう言うのは、頭にリボンを付けた紫色の髪のクールな女性。黒いジャケットと黒いマフラー、さらには黒い長ズボンと両手には黒い手袋。徹底的に素肌を見せないようにしているその女性は、「さぁ、あなたから聞きなさい」と後ろの女性に話を促していた。
ヘッドフォン・スーツ「で、でもでも! ボクなんかが話をするだなんて、相手様に迷惑ですよ! どんな才能かも分からないし、もしかしたら【超逸材の総理大臣】とかだったらどうするんですか!?」
リボン・ジャケット「そうね、そんな偉そうな奴だったら迷わずこの事態の説明を求めるわ。超逸材という、国家の希望として集められた私達をこんな船に押し込めた訳をね」
ヘッドフォン・スーツ「う、うぅ……わ、わかりましたよぉ……」
と、そう言って黒いジャケット女の背後から現れたのは、水色の髪をツインテールにしてヘッドフォンを付けた女性。その瞳はどことなく怯えが浮かんでいて、しきりに手に持った虫眼鏡を布で磨いている。
ヘッドフォン・スーツ「え、えっとえと……。ボクの名前、だよね。ボクは白神山たける。美術専門なんだけど……一応は【超逸材の鑑定士】と呼ばれる才能を持っているんです」
【超逸材の鑑定士;シラカミヤマ・タケル】
シラカミヤマ・タケル「え、えっとえと……そ、それであなた様のお、お名前は?」
ユキワリ・キョウヘイ「えっと……雪割杏平って言います。【超逸材のスケット】で、同じく入って来たのは【超逸材のカウンセラー】の相川祐樹さんです」
シラカミヤマ・タケル「えっと、えとえと……スケットさんに、カウンセラーさ――――えっ!? カウンセラーさんも居るんですか!? あわわ、お、おお、怒られるぅぅぅぅ! あ、挨拶せねばぁぁぁぁ!」
「だ、だっしゅ!」と言って彼女は相川さんの方へと向かって行き、その途中で彼女は「あぅっ!」と盛大に顔から地面へと向かってコケていた。そして起き上がろうとして、焦っていたのかまたしてもコケていた。
リボン・ジャケット「……あの様子では、またコケるわね。あんなに急いでもカウンセラーという称号を持っているのでしたら、普通に逃げないと思うけれどもね。カウンセラーならば、人の話を聞くのに慣れているだろうから、仏に話をすんなりと聞いてくれると言うのに」
ユキワリ・キョウヘイ「そ、そりゃあそうでしょうけれども……」
リボン・ジャケット「……一応、礼儀として名乗っておきます。私の名前は小鳥遊灯里。誇るつもりはないけど、【超逸材のネイリスト】という看板をぶら下げられたわ」
【超逸材のネイリスト;タカナシ・アカリ】
タカナシ・アカリ「……にしても白神山さんはうざかったですね。後ろにただしがみつくのもうざいですけれども、ただただ後ろでびくびくしていて本当にうざい。後、なにが一番うざかったかと言うと、あれですかね」
ユキワリ・キョウヘイ「……あれ?」
と、小鳥遊さんの指差す先には案の定コケてぐずっている白神山さんの姿があった。それに気付いた相川さんは「大丈夫ですか?」と聞くと、「は、はぁい! だ、だぁいじょうぶでぇす!」と物凄い勢いで後ずさっていた。
タカナシ・アカリ「別に手を出されたから取れと言う事はないですけれども、だからと言ってあそこまで露骨に拒絶するのもどうかと思います。あぁ、もう本当にうざいなぁ……マザー・テレサの爪の垢でも煎じて、博愛の精神を分からせて、今の相川さんの気持ちを感じて欲しい所ですよ」
はぁ~、と溜め息を吐いた彼女はそのままぼくの顔を覗き込んでくる。
タカナシ・アカリ「けれども、これで16人。もしなにか怒るとしたらそろそろですかね。今が一番、タイミングが良いですから」
ユキワリ・キョウヘイ「タイミング……?」
ぼくがきょとんとしていると、小鳥遊さんは「ダメダメですね」と落胆していた。
タカナシ・アカリ「普通に天才として有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの爪でも煎じて、もう少し頭が良くなって欲しいものだよ。――――では、簡易的に説明させていただきましょうかね。私の大嫌いな探偵を真似て」
ゴホンと咳を吐いて、小鳥遊さんは言葉を続けていました。
タカナシ・アカリ「1つ目。私達は次世代の希望を担う存在、超逸材の才能を認められて私立幸福ヶ淵学園の入学して、その上でこんな監禁状態の船へと拉致された。
2つ目。戦場ヶ原くんの証言やあの紙とか言う物証によって、私達16人は体育館へと誘導されています。放送という分かりやすい形ではなく、生徒同士の交流によってね。
この2つから分かる事は1つ。この監禁を企んだ犯人とやらは、劇的に行いたいみたいなんですよ」
ユキワリ・キョウヘイ「劇的……?」
タカナシ・アカリ「人間、一番最初に会った際の発言とかは一番衝撃的になる傾向にある。初対面で『お前が嫌いだ!』と言われればそれだけ悪印象を持たれると思い込むし、『お前が好きだ!』と言われればそれだけ好印象を持たれてると思い込む。君も私がクールに話しかけたから、私はクールな人間だと思い込んでるのでしょう? まぁ、それは本当にどうでも良い事なんですけれども。だから私達を監禁した者達、いや監禁した者とでも言うのでしょうかね? まだ犯人が複数か、単数かも分かってないし。
――――私は犯人達になにをされているのか。されようとしているのか。まだそれも分かっていないんだけれども、それも直に分かるでしょう。この状況を作り出した人間が私だとしたら、16人が揃った今こそが一番都合が良いタイミングでしょうから」
そう言うと、まるで予言でもしたかのように放送が鳴り響く。
ブキミナ・コエ《ぐふふぅ! オマエラ、集まって貰って嬉しいゾ! ではオマエラ、偉大にして光栄なる我の登場シーンだよ!
皆、括目せよ! 無駄にどうでも良いモブ共の紹介なんかじゃない、この物語の真の主人公様の登場の時間だゾ!》
そして、そいつは現れた。
コロシアイには様々な性格で向き合うキャラが必要です。
今回出た2人はその典型例。
「コロシアイなんて怖いよぉ」と弱気で人の死体も見れないような白神山たけるのようなキャラ、「なぜコロシアイに巻き込まれたのか」と考察するクールな小鳥遊灯里のようなキャラ。
全員が同じ方向を向いて事件を捜査するのではなく、様々な方向を向きつつ助け合いながらやるというのも必要だと思います。