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英雄に育てられた少女は、どうやら世界を救うようです!  作者: 喜山 涼
第3章 「やがて夜空を照らす者達へ」
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3章ー13話 「面倒事の気配」


「…あー、めっちゃ見られてる気がする」

 

 正門へと向かう途中、歩き始めたアイリスが口の中で小さく呟く。

 気がすると言ったが、実際には確実に見られてる。

 そして、その理由についても心当たりは当然ある。というかそれしかありえない。

 

今この周りにいるのはこれから入学する生徒とおそらくその見送りに来たであろう保護者、そして学校の関係者と思われる大人だけだ。

 一応はアイリスもこれから入学する生徒であるのだが、周りにいる生徒とは一点異なる点がある。そうそれは制服だ。


 実はこの学院には、入学前に王都のこことは別の施設で一年間の研修期間のようなものが存在する。学院に入学する前に研修というのもおかしな話だが、そこで魔法や剣術の基礎を学ぶらしい。そしてその基礎をこの学院での三年間でそれを発展させていく方針のようだ。

 つまるところ彼らはそこで一年前に制服を支給されている。対して特待生である自分たちは、入学当日に制服が支給されるらしい。

 そのためアイリスは今までと同じいつものグリシラからもらった服装だ。これが注意を引いているのだろう。


 今までに味わったことのない好奇の視線に、どんよりしつつも先程リズベルに教わった職員に会うためアイリスは周りをシャットアウトし、一心に正門へと歩を進める。

 重厚な、そしてやけに装飾の凝った正門を越えると、目の前には一直線の道のり。そしてそこを進んだ先には本校舎と思しき先程馬車の中でみた建物が荘厳な雰囲気を纏って建っていた。

 

「でっかーい。いくらかかってんだろ? …っと、そんなことよりまずは職員の人は――」


 ささっと辺りを見回す。そして、正門を入ったすぐ近くに椅子に座る生徒とも保護者とも思えない一人の高齢の女性の姿を確認できた。

 

 歳はおそらく孤児院の院長と同じくらいだろう。白い髪を簪で留め、装飾のついた銀色のメガネをしている。その姿勢は老人とは思えない程ビシッとしており、鋭い目で道行く生徒たちを眺めていた。

 そして、不意にその視線が、


「ちょっと、そこの長い金髪のお嬢さん」


 アイリスに留まり、そんな声が掛けられた。

 ビクッとして確認のため自分を指差すと、老婦人は頷き、手でこちらへ来るようにジェスチャーを送ってくる。

 アイリスは不思議に思いながらもその老婦人に近づくと、


「えーっと、あたしがどうかなさいましたか?」


「どうかってねぇ…、あんた特待生だろう」


「あっ、はいっ! そうですっ…けど、なんでわかったんですか?」


「なんでって、あんなに辺りをキョロキョロ見回して田舎者丸出しだったんだから、特待生か不審者の二択だよ」


「あー……、すいません。おっしゃる通り田舎者なので…。って…!? そんなに目立ってました?」


 ギョッとするアイリスに老婦人はやれやれと言ったふうに首を振る。その態度でわかれとばかりに返答はない。

 老婦人はアイリスの全身を観察するように眺め、ある一点でその視線をとめる。


「――剣を使うのかい?」


 腰に差してある木剣を見て、老婦人は大して興味なさそうに呟いた。

 

「あっ、はい。一応剣士やらせてもらってます」


「流派は?」


 間髪入れずの問い。しかし、その問いにアイリスは首を傾げる。

 そう言われてみれば、自分の剣の流派についてなど考えたことは無かった。そもそもグリシラからもそう言った話はされた覚えはない。

 実際にグリシラ自身は何か流派を修めているのかもしれないが、今アイリス自身にそれを知るすべはないのだ。そのため、


「えーっと、我流…?かもです。あの。一応師匠はいるんですが…」


 と煮え切らない返答を返す。

 その返答に老婦人は「ああ、そうかい」とだけ答えた。その返答からは、何も感じられない。まるで半分アイリスの答えが分かってたかのような事務的な感情の籠っていない受け答えだ。

 その老婦人の態度をアイリスが不審に思うがしかし、老婦人はさっと表情を変えると、


「典型的、模範的な特待生だね。ようこそサリスタン国立中央学院へ」


 とニコッと笑って見せた。

 先程とは打って変わって、優しそうな笑顔だ。しかしアイリスには何故かその笑顔が恐ろしく嘘くさい作り物にしか見えなかった。

 そんなアイリスの不信感に気付くことなく老婦人は、


「このまままっすぐ行って、学内に入れば学内図がある。あなた達特待生は全員1-1教室に集合だよ」


「――はい、わかりました。ご親切にありがとうございます」


 そう親切に告げ、アイリスも素直にそれを受け入れた。

 怪しいことこの上ないのは事実だが、今の状況から見てこの老婦人が学園の関係者であることは確実だろう。言っていることも嘘だということは無いはずだし、そもそも嘘を吐く理由は無い。

 だが、アイリスの勘がこの老婦人を少々きな臭いと感じているのも本当なため、さっと会話をきって踵を返すことにしたのだ。

 老婦人もアイリスとこれ以上話す理由もないのか、呼び止める様子はない。

 それにホッと一息つき、アイリスは再び歩き出す。


「なんっか、色々と面倒事が待ち受けてそうな気がするな~、これは」


 自分にだけ聞こえるような小さな声で愚痴を漏らす。


 そしてわずか十秒後。アイリス・リーヴァインはその面倒事と遭遇することになる。



「―――おい、邪魔だっての。どけよ、坊ちゃん。俺様の道を塞ぐな」



 少し前に、少しの期間に、聞いたことのあるような、とある少年の声が前方から耳に届いた。 

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