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英雄に育てられた少女は、どうやら世界を救うようです!  作者: 喜山 涼
第3章 「やがて夜空を照らす者達へ」
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3章ー12話 「初めての学び舎」


 ゴトン、ゴトンという揺れが体に伝わる。初めて乗ったときは変に感じたこの感覚も何度か乗るにつれて慣れたものになっていた。

 最後に乗ったのはシャーリーと王都へ向かう途中。そうして考えるとそれからまだ二週間程度しか経っていないことに少し驚きを覚える。

 そんなアイリスに、


「もうすぐ着きそうですよ」


 と丁寧な声が馬車の運転席からかかる。

 その声にアイリスは荷台から運転席に顔を向け、申し訳なさそうに口を開いた。


「そうですか。なんかすみません、せっかくの休日なのにあたしのために…」


「気にしないでください。私としても普段から休日は暇をしていることが多いので、体を動かせて願ったりかなったりですよ」


 紫色の髪を揺らしながらローブ姿のリズベルは手綱を握りながら柔和な微笑みを浮かべる。

 

 今、二人を乗せた馬車はサリスタン王国王都からさらに北の平野を一定のスピードで進んでいた。

 日はちょうど頂点に達した辺り。眩い光が平野を照らし、かなり暖かい。同時に心地よい風が頬を撫でる。 辺り一帯はつい先ほどまでは何もなかったが、少し前から段々と人工的な建造物が見え始め、これから向かう街が近づいていることを示していた。


「でも、せっかく王都にいらしたのに、この短い間に違う街に移動とはアイリスさんも大変ですね」


「まぁ、少し迷ったんですけどね。でもせっかくのお誘いですし、デイジーさんも勧めてくれたんで行ってみようかなって。…あと、ちょっと学校にも興味が無かったわけじゃないんで…」


 最後の言葉は少し恥ずかしかったのか声が小さい。

 そんなアイリスを見て、少し同情した様な光を瞳に宿す。デイジーからアイリスの生い立ちを聞いていた。実の親に捨てられ、孤児院で育てられ、そして『魔剣星』に引き取られた。

 決して平坦な道ではなかったのだろう。もちろん学校になど行く時間などないほどに。

 その苦労は、何不自由なく育てられたリズベルにはわからない。しかし、強く今を生きている目の前の少女に同情などという感情を向けるべきではないことは分かっていた。

 だから、リズベルは瞳からその色を消し、アイリスへと笑いかける。


「ええ、存分に楽しんでください。ほとんどの学生が高貴な身分の子だったり、…教育方針が少々特殊だったりと色々と大変なこともあるでしょうが、素晴らしい学校ですよ」


「へぇ、なるほどです。それにしてもリズベルさん、お詳しいですね」


「ええ、一応私の母校でもありますので」


 その返答に「あっ、そうだったんですか」とアイリスが納得の息を漏らす。

 そう何を隠そうサリスタン国立中央学院はリズベルの出身校だ。『中央魔道局』で働く前の三年間通っていた学校。そのため学院の設備や授業の素晴らしさについては実体験済みだ。

 学院には学生にとって最適な環境が用意されている。実際に高名な騎士や魔法使いを過去に何人も輩出している。


 ――しかし、それにはある一つの例外が存在する。

 

 それはあくまで学院出身で大成しているのは、大半を占める高貴な身分の学生だけだということだ。つまり、毎年最大五人入学する『特待生組』から大成したものの実例はほとんど存在しない。

 それは何故か。それには明確な理由が存在する。

 それを知っているリズベルは、アイリスを見て一抹の不安を感じずにはいられなかった。もちろんアイリスがその有象無象の一員とは限らない。むしろこの少女はそのルールを打ち破るのではという思いも強い。

 

「え!? もしかしてあれですか!?」


 そんなリズベルの思考をアイリスの驚愕の声が止める。

 リズベルがアイリスが指をさす方向へと視線を向け、「はい」と短く答える。


「でっかいですね~。何か王都に来てから建物の大きさの感覚がマヒしそうですよ」


「ええ、そもそもこの街は先にあの学院ができてからその周りに街を造ったわけですから。言うなればあの学校は街の象徴なんです」


「学園都市ってわけですね」


 そんな会話の内に馬車は走り、サリスタン国立中央学院の全体像が見えてくる。

 そして、一際目に付く大きな正門まで辿り着く。その場所にはすでに多くの馬車が止まっており、多くの人影が見えた。


「うげぇ…、やっぱり人多いですね」


「それはもう。王国中の名家の子どものほとんどがここに通う訳ですから。それに年齢も新入生は十四~十七歳までいるはずなんで、一学年だけでも相当いるはずですよ」


「はぁー、急に不安が溢れてきました。あたし大丈夫ですかね?」


 馬車から降り、運転席のリズベルを見上げて言葉通り不安そうな顔でそう投げかけるアイリス。

 リズベルはその疑問に、フフッと笑い、


「ええ、貴女なら大丈夫です。負けないでくださいね、応援しています」


「? はい、まあなんとか頑張ってみます」 

 

 その言葉には、何故か深い意味を孕んでいるようにアイリスには聞こえた。しかし、それほど気に留めることなくその思いを頭の隅に追いやると、ペッコリとここまで送ってくれたリズベルへと頭を下げる。

リズベルは「いえいえ」と手を振ると、


「おそらく正門を過ぎたあたりに職員の方がいると思うので、詳しくはそちらで案内を受けてください。では、私はこれで失礼します。またお会いしましょうね、アイリスさん」


 そう言って、手綱を握り微笑みを浮かべると馬車を器用に操り、踵を返す。

 その後ろ姿をアイリスは一人見送った。

 そう一人。これから自分を知る者も自分が知る者もだれ一人いない場所へと向かうのだ。

 正門の方へと体を向けると、そこのは統一された制服を着たおそらくこれから一緒の学び舎で学ぶことにある生徒たち。


「よし、頑張ろう」


 そんな生徒たちの群れへと、アイリスは呼吸を整え期待と不安を胸におっかなびっくり一歩を踏み出した。

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